第9話ミスリル
剣戟の音。
だが、誰も剣など使ってはいない。
ぶつかり合うのは黒い塊。
お互いのそれを彼らは自分の手足の様に扱う。
形を変えながら、伸びたり縮んだり、硬くなったり柔らかくなったりしているそれは剣の様な音を立て、今も高速で動いてぶつかり合う。
ここには、もういくつか音がある。
歓声、それと子供達の声。
これを見て観客達が大盛り上がりしている。
「ゼェー、ゼェー!!」
「ヒリガオーミ!!」
「テホナザ!! マーラコトウ!!」
ここは、彼らの唯一の娯楽の場だ。
これが彼らの一番の楽しみだった。
中央には、25m×25mくらいの闘技場があり、さっきの2人が未だ、闘っている。
周りの観客席は、人が溢れている。
まるで、国技館の様な光景だ。
国技館と違うところをあげるなら、相撲をしていないのと、『カケ』が行われていること。
そんなところだろう。
子供達は「そんなのどうてもいい」とばかりに、無邪気に駆け回っている。
そんなだだっ広い場所に、ひときわ大きい音が割り込む。
「ヌソ、……タータ」
呆然とした様な声音だった。
あたりには数秒間の静寂が訪れた。
……
誰もが自分の耳を疑った。
もう一度同じ放送が入る。
「タータ……ヌソ、タータ!!!」
誰かが声を発した。
「タータ!?ラモケ、タータ!?」
また一人、また一人、と声を出すものたちがあらわれる。
「ワモワモ?タータサリ?」
喜びの声、驚きの声、困惑の声……
飛び跳ねる者、固まる者、おどおどする者……
色んな声が、色んな感情がこの闘技場を埋め尽くす。
「タータ……ヌソ、タータ!!!」
「タータ!?ラモケ、タータ!?」
「ワモワモ?タータサリ?」
到着した。
彼らが目指した目的地に。
窓からは、青と緑の綺麗な星とクレーターだらけで灰色な星が見える。
やがて艦は、灰色の星に着陸した。
………………
ずっとずっと前に彼らの星は死んだ。
故に、新たな星が必要だった。
故に、彼らは旅に出た。
そして長い長い年月を掛け、見つけた。
彼らは、青と緑の綺麗な星を舞台にして、今、侵略というゲームを始めようとしている。
そして最初の一手を打つべく、艦内は一気に騒がしくなった。
この場にいたもの全員が、自分の持ち場に付くべく行動を開始する。――もちろん子供もだ。例外はない。
それから何分たっただろうか。 半時もしないうちに球型のサールと呼ばれる物体は宇宙空間に放り出されていった。
行動が早い。 この艦内にいるものは、皆優秀だから。ということもあるが、やはり彼らは焦っているようだった。
食料は尽きかけ、燃料もあとわずか、やっとの思いで着いたのだ。 そりゃ、焦るだろう。
だがこの焦りが彼らに取って、どんなふうに働くのか。 それを彼らは知らないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます