第8話現地調査
さっきは足を滑らせ、転んでしまったが、本来の私なら華麗に着地をきめていた。 きっと、まだチキュウに慣れていないのだろう。 そう、悪いのはチキュウ。 私は悪くない。
私は軽く土を払いながら、何事もなかったかのように立ち上がる。
そこで私は何者かがこちらを――なぜか、呆れたような顔をして――見ていることに気づいた。
体格や、顔つきからしておそらく男性であることは見るに容易い。
ま、まさか……今の、見られてたりして……
は、恥ずかしい///
私は赤面して、軽く咳払いをするが――ヘルメットをしているので――相手には見えも、聞こえもしないだろう。
そして私はまず、辺りを見渡した。――その人物は怪訝そうな仕草をするが気にせず、数回キョロキョロとした。
モニターに映った景色とほとんど変わらない景色が広がっている。 強いて変わった点を挙げるとすれば、男性が突っ立っていることだろう。
まずは資料にあった通りに行動してみることにした。
そう、まずは呼吸ができるかどうかだ。
だが、『呼吸できるかどうか試す』ということは、呼吸ができない可能性もあるということだ。
そう考えると急にゾッとする。
メテアは大丈夫だと当然のことのように言っていたし、大丈夫なんだろうけど……
怖いものは結局怖い。
私は少し緊張しながら漆黒のヘルメットに手をかける。
そこから手に力を込めるが、ためらう。
こんなことじゃだめだ。 らちがあかない。
結局私はやけになって、勢いよくヘルメットをはずす。
!!!
つぎに目を開けると、あたりがすこし薄暗くなっていて、驚いたがどうやら雲が――これが私たちの星にもあった雲と同じものなら、この表現でいいだろう。――『ツキ』にかかっただけのようだった。
スゥー、ハァー。 スゥー、ハァー。……
どうやら呼吸はできるようだ。 深呼吸を行っても、違和感すら感じない。
呼吸に関しては問題はないことがわかった。
ビクビクしていた私が少し恥ずかしい。
確認したいことは山ほどあるが、今は目の前に人がいる。 かつ、ここは人気がすくない。 私にとって、すごく都合のいい場だ。
まずは、意思の疎通ができるかどうか試すべく、男の目をまっすぐ見て――近づこうか迷ったが――前進した。
やっぱり緊張するな~、なんかこっち来てから緊張しっぱなしの気が……
男も少し緊張している様だったが、一歩も動こうとはしなかった。
お互い未知には興味があり、そして怖いのだ。
私は男から四、五歩のところで足を止める。
そこで月にかかっていた雲が晴れる。 あたりが明るくなった。 薄暗かったのでちょうどいいくらいだ。
その男の顔が鮮明にみえるようになった。
その人物は『男』と呼ぶにはまだなような気がした。 呼ぶならば『少年』だろう。 こっちのほうが断然しっくりくる。
その少年は、ダークグレイのパーカーを一枚羽織っており、その下に白地のTシャツを着ているようだ。 下は黒地に赤のラインが入ったジャージに紺のスリッパのようなもの――足首あたりまで覆っていて、かかとは出ている。それと足の甲を覆っているところには、たくさん穴があいている。ゴムかシリコンか、そんな素材を使っているのだろう。――を履いていた。 顔は割と整っていて、髪は耳に掛かるくらいになっている。
なんていうか……地味だな。
その顔が少し赤くなっているように見えるのは気のせいだろうか?
私が少年を興味深そうに観察していると、少年が口を開いた。
「……ナ、ナンスカ?」
うん、何言ってるのかさっぱり。
先が思いやられる……
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