第5話こけましたけど何か!?

「もう、お父さんなんて大っ嫌い!!」


そう言って私は赤いボタンを勢いよく押す。


「気おつけて行ってらっしゃい……」


お母さんが優しく微笑んでくれる。


「お父さんも悲しいのよ。帰ったらちゃんと仲直りしなさい、ね?」


「……わかった」


小さく返事をする。


と、2つに割れていたサールが閉じていく。


お母さんに手を振り、少し微笑みながら、黒いヘルメットを被る。


完全に閉じてサールが、「キュ~~」という静かな音を出しながら起動した。


サールの内装は全面がモニターになっていて、落ち着かない気もする。


正面には起動完了を表す文字列が並んでいる。


「……」


少し、緊張してきた。


ピピッ


その音に少しビクッとした。


通信がきたようだ。


「繋ぐ」、「拒否」のふたつを表す文字列がモニターに表示される。


私は慌てて「繋ぐ」の方をタッチする。


すると、左上のモニターに親友のリーバ・エル・メテアの顔が映し出される。彼女は司令部の役員で、今は私の連絡係になっている。


「あ、メテア。ど、どうしたの?」


「ユーノ。前にも言ったけど、向こうの人とあまり関わっちゃダメだよ」


「うん、わかってる」


「ユーノの目的は、あくまで様子見なんだからね」


メテアは本当に昔から心配症だ。


「ユーノは何かあるとすぐ、うがあーってなるんだから」


「わかったって」


「くれぐれも向こうの人達に手、出さないようにね」


「うん……」


「じゃあ、行ってらっしゃい」


そう言ってメテアが笑顔を見せてくれる。


この笑顔を見るといつもなんだか落ち着く。


「うん、行ってくるね」


プツン……


そこまで言って通信が切れた。


みんなありがとう。


「……カウントダウンはいります」


役員のリズさん――メテアの母親だ――の声が聞こえる。


「5・4・3・2・1」


ポーン


少し間抜けな音がしたあと、サールが揺れる。


サールは全自動なので私のやる事はない。


つくまでそう時間はかからないと言っていたが3時間は暇だ。


何しよっかな。


通信はできないし。


何も持ってきてないし。


やる事と言えば作戦資料を読むことくらい?


「……はぁ」


1つため息をついて、宿題をやりだす様な気持ちで作戦資料の入ったファイルを開く。


「……えーと」


軽く目を通していく。


「場所は……テスソ?」


「えーと、向こうの言葉でチキュウ……」


変な名前だなぁ。


テスソ星なんて聞いたことないし。


今回もめんどくさいなぁー。


でも……チキュウ?


う~ん……


なんか引っかかるんだよねー。


作戦資料を読み終わるころには私はもう眠りについていた。


……


…………


………………ドーーーン!!!


「え!? わっ、何」


私は飛び上がる、が上がすぐ天井なので頭をぶつける。


ゴン


「〜〜〜〜〜〜ッ!!」


痛い。


頭を摩りながらモニターに外の様子が映るようにする。


ピピッ


……どうやら着いたみたいだ。


正面には砂? が広がっていてその先にはそれを区切るように網?が張られている。さらにそのさきには黒い地面があって、そのさきに小屋? いや、家かな? がいっぱい並んでいる。


知らないものばっかりだなぁー。


とりあえず外に出てみるか。


チキュウには空気がどうのこうので私でも生きていけるらしい。


そこら辺の知識は私にはない。


でも……


……どこ押すんだっけ(汗)


あ〜忘れたよ〜


ヤバイ、出られない!


ど、どうしよう……


いや、こういう時は……勢いかな!


「…………ここ!!」


ポチッ!!


私が押したのは手元の青いボタン。


「……うわぁっ!?」


明かりが消えた。


真っ暗になった。


なーんも見えなくなった〜


「じゃあ〜……これ!!」


ポチッ!!


…………



プシュ〜


ガガガ〜


ゴトン


??


なんかまずいことした?


真っ暗で何が起こってるのかわかんないんだけど〜……ん?


周りは真っ暗だと思っていたのだが、ボタンが1つ点滅しているのがわかった。


……


「押せと?」


えーい! !こんなことやってても埒が明かない


「よろしくお願いしま〜す!!」


ポチッ!!


シュー


パカーン


「へ!?」


いきなり天井が真っ二つに開いた。


ふあ〜びっくりした〜


空には「ツキ」が光っていた。


でもこの「ツキ」は自分で光っているわけでなく、「タイヨウ」の光が反射して光っているのだとメテアが言っていた。


まっ、開いたことだしとりあえず住むところから探すかなぁ。


よいしょっと。


やっと立てるよ〜。


私はゆっくりと席を立つ。


そのまま外へ飛び降りる。


「よっ」


空中を一回転して、そのまま綺麗にちゃk……


ズルッ


――!!


ペターン


こけました。


ええ、こけましたよ。


こけましたけど何か!?


も〜なんなのよ〜!!


私は心の中で、悲痛の叫びをあげていた。

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