第6話
KとJは二人向き合って酒を飲んでいた。居酒屋の喧騒の中に二人の声がまぎれる。
「なぁこの後どうしよう?」Kがいう。
「今日は朝まで遊びたいな」
「さぁビールだ、乾杯」
「乾杯」
ビールジョッキにつがれたビールを飲み干す。
彼らが就職するのは来年の四月であと半年弱だ。
残りわずかな時間をこうして二人で過ごしていた。
Kの携帯電話にBから着信があったがKは無視していた。
「なぁ最後に何をしよう? どうせなら楽しいことがいいよな」
「もうじき俺たちもこの大学を去るんだ」
「お互い疎遠になるだろうな」
「だな」
ふとJは元カノのことを思い出した。
「いまこうしていても思い出すのは、元カノと見た夜空だよ。高校の帰りにみた美しい景色だった。あの頃見た放課後の帰りの道の景色は何よりも美しく楽しかった」
「ふーん。それはずいぶんと充実した高校生活だったんだな」
Kは高校時代テニス部で最後には部長を務めた。
これからJは出版社にKは商社に行く。
「なぁ俺は本なんてどうでもいいんだよ」
「俺だって資源だろうと食料だろうとどうでもいい」
「だよなぁ。朝まで飲もう」
「ああ」
「乾杯! 二人の門出に」
Jは一気にビールを飲み干す。
Kは笑いながらJのことを見ていた。
店内はあまりにうるさすぎた。二人はあまりに飲みすぎていた。
夜はひっくり返って朝になった。
飲みつかれた二人は歩道を歩く。
どこまで行ったって目的地になんかたどり着かない。
酔いすぎた二人はふらふらになりながら家に向かった。
始電のベルが鳴る。
電車が動き出す。
二人は窓際の席に並ぶ。
きらきらとまぶしい朝日が車内を照らす。
電車の振動はいつしか二人を眠りに導く。
その日Jは一羽の鳥を見た。アパートの中で眠りにつく前に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます