第35話 変態男と魔道具屋の露出女
ある日、俺はベッドに横になりながら思った。
――女性がいない場所で過ごしたい。
いやちょっと待って。ついに頭がおかしくなったか、みたいな目で見る前に俺の話を聞いてほしい。
俺たちのパーティが現在四人で構成されていることは魔王軍には周知のことだ。俺、シャル、エルハちゃん、アレクシア。もちろん、パーティとしての連携力向上のためにも全員と良好な関係を築いている……築いているつもりなのだが……。
「あんたまた着替え中に入ってくるとか狙ってやってんの!?」
「タクトさん……その……まだ着替えてる途中なんですが……」
「またボクの裸を見られてしまいました……」
最近、拍車をかけたように次から次へとラッキーハプニングもといアンラッキーハプニングに遭遇してしまうのだ。
……そもそも何故ラッキーハプニングが頻繁に起こってしまうのか。それをよくよく考えてみたら一つの事に気が付いた。そう、ラッキーハプニングが起こってしまうのは、このパーティに俺しか男がいないからに違いない、と。なんせ風呂は共用だし、パーティ活動するときも男は俺一人だ。俺一人に対して向こうは三人。一人ひとりのラッキーハプニングに遭遇する可能性が低いとしても、三人合わせるとその確率は格段にあがる。それに加え、絶対誰かが俺の運命を好き勝手に弄っているに違いない。じゃないとラッキーハプニングという名の拳が顔に飛んでくるイベントにこうも何度も遭遇するはずがないのだ。
そう思いながら脳裏に一瞬だけダスティア様が浮かんだ。あの人は会うたびにことごとく俺を変態扱いするし、もしかしたら一枚噛んでいるのではなかろうか。
人を疑えば疑うほど、俺の心は荒んでいく。このままでは本当に悪堕ちどころか闇堕ちにまで至る可能性がある。
さすがにそれはまずい……だから俺は認めた。
――もう変態でいいや。
認めたくなかった。何の害もなく、ただの平凡な冒険者でいたかった。
「ははっ……俺変態だったのか……」
思わず呟いていた。その声は今にも消え入りそうなか細い声だったことに俺自身驚いた。そのことを深く考えれば考えるほど何か熱いモノがだんだんと目頭にこみ上げてくる。
――あれ、なんかこのやり取りいつぞやのデジャヴを感じる。
「――って、認めてたまるかーい! ちくしょう、なんでいつも俺がこんな目に合わなきゃいけねえんだああああああっ!」
正直、毎回起こるグーパンイベントで殴られ慣れたと言っても過言ではない。いわゆるマンネリというやつだ。所詮、ラッキーハプニングといえど毎回下着姿かタオル一枚姿かのどちらかだ。俺の時みたいにモロではない。最初から超えてはいけない線引きがされていて、いつもその線ギリギリで俺は弄ばれているのだ。
「くそっ、誰だか知らんが俺の運命で遊ぶんじゃねえ!」
俺はベッドで横になったまま天井に向かって叫んだ。傍から見れば一人で叫ぶ気の狂ったおかしい人に見えるだろうが、ここは俺の部屋だ。独り言を叫んでも問題はない。「ほら、今の聞いてたんだろ? ――出てこいよ」と誰もいない空間に向かって言う厨二病的なアレと同じだ。
数秒天井を見つめた後、なんだか急に恥ずかしくなった俺は顔を横に向け、部屋中を見回して誰もいないことを確認する。すると、テーブルの上にスタンロッドが置かれているのが目に入った。
「……あっ、そういえばスタンロッドの電気を充電しに行かないといけないんだった」
俺は不意に用事を思い出すと、ベッドから起き上がり早速身支度を整える。整えるとはいっても、今から向かうのは魔王城内にある魔道具屋。前にお願いしてスタンロッドを作ってもらった場所だ。あそこの店主もまあなんというか……色々と過激な女性なのだが、スタンロッドは特注品のため、あそこでしか充電出来ないし顔を合わせなければならない。俺はまた女性と会う事にため息をつきつつ、いつも使用している白い袋にスタンロッドを詰めて背負うと、部屋から出て魔道具屋に向かった。
しかし、初めて来た時は気味が悪いと思っていたこの薄暗い廊下も、今となっては慣れてしまったな。むしろこのくらいの暗さの方が安心するようになってしまった。相変わらず仄かな灯りに照らされた絵画が壁に並んでいるが、これを不気味だと思うことも一切なくなった。
しばらく歩いて行くと、ようやくエレベーターがある所までたどり着いた。俺は下へと向かうボタンを押し、上を見上げて自分のいる階に到着するのを待った。
え? なんで魔王城内部にエレベーターがあるのかって? それは……階段だと辛いから?
正直なところ、俺もちょくちょく気になっていたことがあるのだが、間違いなくこの世界には地球の技術をところどころ用いている部分がある。俺の好物の梅おにぎりなんかも、そもそもの素材となる梅と米があるということに普通は疑問を持つべきだ。おそらく、これまでにも俺のように何かしらの原因によってこの世界に転生した者がおり、そいつが食物遺伝子組み換え的な何かに精通する研究者だったに違いない。そしてこのエレベーターに関してもそうで、かつて魔王軍に従事し、専門技術を持った転生者が整備したに違いない。
なんだろうこの……異世界なのに懐かしさで落ち着く感じ。エレベーターの中にいる時だけは、地元のデパートにいるような気分になる。
だが、目的の階に到着して扉が開くと再び薄暗い廊下が出迎えてくれるため、一気に現実に引き戻される。エレベーターを降りて少し歩いて行くと、扉に【魔道具屋DE†A†TH】と書かれたとても厨二っぽい看板がかかっている部屋があり、俺は静かにその部屋の扉を開いた。カランカランと軽い音がなり、部屋に俺が入ったことを知らせる。
「やあやあタクト様。今宵の月は生を照らす光か……死を踊らせる闇か……貴方様はどちらだと思います?」
「うーん……出来れば生を照らしてほしい」
入ってすぐに俺を迎えてくれたこの女性の名はパドラ。際どいビキニの上からがっつり前の開いたパーカーを着て、かなり露出度の高いコーディーネートで身を曝け出している。頭には、派手な色をした宝箱の上に金の王冠が乗った小さなオブジェを乗せている。
彼女は元々【デッドリーボックス】という宝箱に擬態して冒険者を襲う魔物だったのだが、突然変異によって人の形となり、より高い頭脳を手に入れたことで今ではこうして魔道具屋を開いている。ダスティア様がさまよっていた彼女をたまたま見つけて保護したらしいのだが、その時は全裸だったらしい。元々箱型の魔物だったということもあり、当時は服を着る必要性を感じていなかったのだろう。ただ、人型となった現在は服を着るという概念を前よりは持っているらしいのだが、まあこの露出の多さを見る限りまだまだと言ったところか。
「スタンロッドの充電を頼みたいんだけど」
「はいはい、充電ですね。今回は
「……穿つって響きがいいから後者かな」
パドラはいつも『~か~』と口癖のように二択を比べるように呟き、それを話し相手に問いかけてどちらかを選択するように迫る。ちなみにこの問いに答えないとパドラは不機嫌になり、いきなり噛みついてくるので注意が必要だ。
俺は噛みつかれないように返答しながら背負っていた白い袋をパドラの前で広げ、スタンロッドを出した。彼女は自分で作成したスタンロッドを見ると鼻を膨らませて目を輝かせる。
「うんうん、これを見るたび、パドラにしてはホントに良い作品ができたと実感します。素晴らしいです。完璧です。文句なしです」
自画自賛……と言いたいところだが、それを使っている俺自身もスタンロッドの利便性や高性能さには何度も助けられているため、本当に文句なしの素晴らしく完璧な武器である。
「ではでは、充電をしましょうか。こちらへどうぞ」
俺はパドラの後についていき、店の奥へと入っていった。
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