第33話 鍛錬とずっコツ三人組
「いやー、アレクシアが仲間でよかったわーホント!」
俺的に最高の笑顔を振る舞う。だがアレクシアはそんな陽気な俺を見てか、何か思案したような表情を浮かべるとすぐにニヤリと笑った。
「……なるほど、つまりボクはタクトさんの弱みを握っているというわけですね?」
……なんかとんでもないこと言い出したぞこいつぅ!?
これはもしかしてアレか。脅しというやつか。「すいません、なんでもしますから!」と言えば許してくれるだろうか。
「くぅっ……! 脅しのつもりかもしれないが絶対に屈しないんだからな!」
おいこら俺よ。前に男がそのセリフを言っても需要がないとか言ってなかったか。立場逆だろ。俺がアレクシアにそのセリフを言わせてこそ意味があるんだろう。って、違うわアホ! 考えることが違うだろ俺!
「よし、アレクシア。何かしてほしいことはあるか。それで手を打とう」
キリッとした表情で言ったのはいいが、立場的には向こうの方が上なんだから手を打とうはおかしいな。手を打たせてくださいと言うべきだった。
「そうですね……じゃあ――」
アレクシアは言葉を切ると、立ったままゆっくりと目を瞑った。
何、眠いの? もしかして膝枕してほしいとか? でも立ったまま膝枕ってどうやんの?
仕方なく、俺はその場に正座で座ると、アレクシアが再び目を開けるのを待った。数秒の沈黙が続くがアレクシアはまだ目を開けない。俺はただひたすら正座で待っている。と、ようやくアレクシアが片目をゆっくりと開けて俺を見た。
「ちょっ!? 何座ってるんですか!?」
「えっ、いや立ったまま寝るより膝枕して寝た方がいいかなって。だから正座してたんだけど」
「ちっがいますよ! 急に立ったまま寝ようとする人います!?」
いない、とは一概には言えないのだが、あくまでそれは電車の中で立ったまま寝ている人を何度か見かけたことがあるだけで、そもそもこの世界での出来事ではない。
「……いません」
正座のまま受け答えしているせいか、なんだか叱られている気分だ。アレクシアは胸の前で両手の指先を合わせ、モジモジし始める。
「……トイレ行きたいのか?」
「ちっっっがいますよ! いい加減はたきますよ!?」
さすがにまたあの威力の張り手が頬に飛んできたら顔に大きな餅ができるかもしれないし、勘弁願いたい。結局鍛錬することから話逸れてるしな。
「だいたい貴方という人は毎回そうやって思わせぶりな――」
「あっ! タクトさんじゃないっすかー! 今日は早いんすねぇ!」
不意に誰かの呼びかけが聞こえた。
この軽い感じの喋り方は――。
「おう、ずっ骨三人組じゃねえか」
「なんすかずっコツ三人組って!」
城の見回りで姿を現したのは、馴染みとなったボーンファイターのキュド、ビルヒ、エルギの三人だった。なんだか途中からアレクシアに叱られ始めていたような気がしたが、なんともグッドタイミングで現れてくれた。俺は膝に付いた芝生を手で払いながら立ち上がり、置いていた木刀を片手に握りしめた。
「タクトさん、その子誰ダスか?」
「ソレガシ、キニナル」
三人共、隣にいたアレクシアに視線を移す。彼女を見たお調子者のキュドが何か企みを孕んだ笑みを浮かべながら軽快に喋り出した。
「ははぁん! さては新しい彼女さんっすねー!?」
言うや否や、俺の隣で何かが風を切った。少し遅れてキュドの体が宙に舞い、遠くへ飛んでいくのが見えた。
骨格だけだからめっちゃ飛んでくなー……あれ、そもそもなんであいつあんなに飛んでいってるんだ?
視線を横に向けると木刀を突き出し、鋭い眼差しで飛んで行ったキュドを睨み続けるアレクシアが見えた。
……俺も一歩間違えればああなるのね。
ビルヒとエルギは骨を鳴らしながらただただ震えていた。骸骨なのに恐怖の顔を浮かべているのがしっかりと分かるくらい表情に出ている。彼らはまだ知らないのだから仕方ない……彼女が勇者であるということを――。
「ふう……タクトさん、約束は破らないでくださいね?」
鋭い眼差しのまま笑顔を向けてくるアレクシアは表現することの出来ない禍々しいオーラを纏っていた。まるで俺を包み込み、一度絡まれば解くことが出来ないようなそんな視線。これが悪堕ちした影響でないことを全力で祈りたい。
俺はその視線から逃げるように無言でビルヒとエルギの横に並び、一緒に体をガタガタと震わせた。
「いったい彼女は何者ダスか……?」
「ソレガシ、フルエ、トマラナイ」
「彼女はアレクシアと言ってな……お前らが知ってる名前で言うとアレクだ」
体を震わせていた二人が瞬時に俺に顔を向け、口をあんぐりと開けた。そしてすべてを理解した二人はカタカタと全身を鳴らし、静かに土下座の態勢に入った。いざという時には土下座を使えとやり方を教えていたのだが、まさかこんなに早く使う機会がやってくるとは本人たちも思ってなかっただろう。
俺の隣で綺麗な土下座をするビルヒとエルギ。ふと見ると、ビルヒが背中に何かを背負っていることに気が付いた。
「おい、ビルヒ。背中に背負ってる卵……みたいなのはなんだ?」
黒い斑点模様のついた大きさ五十センチほどの卵の頭の部分が包んでいる布から顔を出していた。
「ああ、これダスか。これはスカルドラゴンの卵ダスよ」
スカルドラゴン。ボーンと同じく骨格のみで形勢されたドラゴンで、成長も比較的早く、大人になれば体長五メートルは優に超える魔物だ。事情を聞くと、いつものように城の見回りをしていると何やら地面に黒い影が見え、その影を追うように頭上を見たら、真上から卵が落ちてきていたらしく慌ててキャッチしたそうだ。だがそのまま捨てるわけにもいかず、どうすればいいのか上官に相談すると「お前が育てろ」と言われたらしい。で、結局こうして背中に背負って世話をしているらしい。
ドラゴンという響きはやはり良いが、仲良くなるためには相当な困難を極めると聞く。ドラゴンは魔物の中でも知性が高く、認めた相手しか背中に乗せない。故に竜騎士の職を肩書に持つ冒険者は、見事にドラゴンを手懐けた者として周りから尊敬されることが多い。見た目的にもかっこいいしな。
「竜騎士……なんて素晴らしい響きなんだ……」
「タクト、ヨダレ、デテル」
おっといかん。竜騎士になってドラゴンを駆る妄想をしてしまった。
垂れ流したヨダレを袖で拭き、卵をジッと見る。孵化するまでもう少し時間がかかるだろうが、ぜひともドラゴンの赤ちゃんを見てみたいものだ。
「タクトさん、そろそろ鍛錬の続きを始めましょう」
「ん? ああ、そうだな。じゃ、お前らも見回り頑張れよー」
ビルヒとエルギに向かって手を振ると、二人も同じようにこちらに手を振り返してくれた。そしてそのまま頭から腰まで地中に突き刺さっているキュドの近くまで行き、両足を持って引っこ抜くと泥だらけになったキュドを抱えながら去って行った。
「さて、タクトさん! 鍛錬の続きですよ続き!」
「めっちゃやる気じゃん……」
その後、木刀による模擬戦でお互いの力を比べあったが、一方的に俺がいじめられただけだった。手加減されているとはいえ、木刀の突きはやはり痛い。やはり純粋な戦闘力ではアレクシアには勝てないか。
だが、俺が得意とするのは近接戦闘ではなく、オールレンジでの不意打ち。相手が遠距離や中距離にいればヴァルジオで、近距離にいれば隠し武器のスタンロッドで対応すればいいのだ。
だから純粋な実力勝負でアレクシアに負けるのは仕方のないことなのだ。全然悔しくなんかないもんね。
――く゛や゛し゛く゛な゛ん゛か゛な゛い゛も゛ん゛ね゛!
こうして、毎日鍛錬は行われるのであった。
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