第26話 頑張ったご褒美にスイーツ!

 甘味処。それは女性にとって心地よい響きであり、同時に天敵とも言える二面性を持つ場所。


「わぁ……見てくださいタクトさん! 色んな種類がありますよ!」

「やっぱり一仕事した後のご褒美は貰わないとねー」


 二人は早くもメニュー表に載っているスイーツに目を奪われているようだ。正直なところ、俺は甘い物が嫌いなわけではないが進んで食べようとは思わない。甘い物を食べると、そのあとどうしても辛い物が食べたくなってしまい、以後ループし続けるからだ。そんな俺を他所に、二人共とてもキラキラした目でメニュー表に穴が開くくらい夢中に見入っている。この世界のスイーツは、基本的に前世に存在していたスイーツとあまり大差はないが、この世界には野生の魔物なんかも存在するためその魔物の卵などを使ったスイーツも存在する。例えば、『ウィスプ』という実態のない水色の魔物が流した涙を凍らせると、永遠に溶けなくなり、それを口に入れると口の中がひんやりとしてそれでいて熱を持つ、冷たさと熱さを感じることが出来る不思議な食感を味わえる。

 まあ魔物からそういった素材を奪取するっていうクエストも、相手次第ではかなり命懸けのクエストになるんだが。特に卵を持って帰るクエストなんて魔物もカンカンに怒るから並みの冒険者ではクエストに失敗するのがザラだ。だがその分報酬も良いため、何度もクエストに挑む冒険者はたくさんいる。


「私はホイップサンドパフェにします!」

「じゃ、あたしはミルクチーズ風~フェニックスの火炙り盛り~にしようかしら」


 うーん、名前を聞いただけで胃もたれしそう。

 ホイップサンドパフェ。名前だけ聞けば何かにホイップを挟んだ物がパフェに乗ってるのかな……と普通ならそう想像するだろうが、実際は違う。このサンドは挟むという意味ではなく、砂という意味のサンドである。俺も最初に聞いた時は嘘だろ、と思ったがこの世界には実際に食べられる砂があって、その見た目は砂糖みたいに小粒である。やはり砂ということもあり、口に含むとジャリジャリするのだが、甘味と苦みを混ぜ合わせたような味でスイーツとの相性は抜群らしい。

 そしてミルクチーズ風~フェニックスの火炙り盛り~だが……これは説明するまでもなく、スイートミルクという花から採取された蜜をろ過し固めた物を、フェニックスの燃える羽で炙って溶かしながら食べるスイーツだ。スイートミルクはチーズのような味と粘り気があり、フェニックスの炎で炙ると蜜に混じる雑味が取れ、濃厚な旨味と甘さを残してくれるそうだ。

 何故俺がこんなにスイーツに詳しいのかというと、昔女性について勉強……ってこれ前にも言った気がする。

 まあとにかく、これでエルハちゃんに助けられた恩とシャルに作った貸しを軽減できるわけだ。なあに、スイーツ一つ食べれば満足になるだろうし出費も抑えられ――


「おかわりしてもいいですかタクトさん!」

「あ、あはひもー(あ、あたしもー)」

 

 ――俺が甘かった。いやスイーツ的な意味じゃなく。甘い物は別腹……とは的を射た言葉ですでに二人共平らげているではないか……エルハちゃんは満面の笑顔で、シャルはフォークを咥えたままで。

 ものの数分であの量を平らげるとは女性とは恐ろしいものだ……! っていうか二人共俺の返答を待たずして追加で頼んでんじゃん。うん、これ俺どういう存在か知ってる。歩く財布だこれ。

 女性がスイーツを食べる姿を見るのは悪いものではない。むしろ見ていて微笑ましいとさえ感じる。感じるのだが……。


「あの……お二人さん……そろそろやめないと太りますよ……?」

「今日は太りません!」

「ほうよ! ふひょるわひぇないでひょ!(そうよ! 太るわけないでしょ!)」


 シャルは口の中に物含んで喋るんじゃないよ全く……ハムスターみたいになってんぞ。

 すでに二人は三杯目も食べ終えようとしていた。今日は太らないという根拠がどこから湧いてくるのか定かではないが、俺は絶対太ると思う。

 結局その後も、俺が再三注意したにも関わらず二人はおかわりを続け、一人五杯ずつ、計十杯分の料金を払わされるハメになった。


「お会計、合計二万ホロになります」

「ン゛ンッ!?」


 思わず財布を持つ手が震えたよね。別に高級料理店で食べたわけじゃないよ? ファミレスみたいなところで食べたのに会計が二万ホロだよ? 俺はお金を出しながら泣いたね。唇は噛みしめてたけどスライムみたいに体がプルプル震えてたよ。店員さんも「え、なんでこの人泣きながら払ってんの?」みたいな顔してたからね。同情した顔と言うより完全にドン引きの顔だったねあれは。

 おかげで財布の中身はスッカラカンになってしまった。元から軽かった財布がさらに軽くなったような気がしたのは気のせいだと思いたい。


「いやーやっぱり甘い物は最高ねー!」

「そうだね!」


 今のやり取りを見る限り、すでにエルハちゃんとシャルの間に余計な壁がないのは明らかだ。友達として接しあっていることは大変良いことである。大変良いことではあるが、今は俺の財布の中身がスッカラカンになってしまった悲しみの方が大きすぎて素直に喜べない。


「さて、と……おなかもいっぱいになったし。……タクト、あんたお母様に呼ばれてるんでしょ。あたしが転移で連れてってあげるわよ」

「おう……そうだな」


 そう、俺達はダスティア様から呼び出されていた。鎧はまだ直ってないし、この街にはもう少し滞在することになるが一時報告ついでに帰還せよとのことだ。

 ――何故か俺だけ。

 もうすでに嫌な予感はしているが、命令には逆らえない。


「エルハちゃんはこのまま観光を続けてていいからね。シャルも俺を転移し終わったらエルハちゃんに合流して一緒に観光の続きを楽しんでくれ」

「言われなくてもそうするわよ」

「タクトさん、お気をつけて」

「はいよー」


 俺とシャルは人目の少ない所で転移し、ダスティア様の居る魔王城へと再び舞い戻ってきた。


「あらタクトさんおかえりなさーい!」

「ただい――ふごっ!?」


 転移するや否や、ダスティア様が俺の頭を持って豊かな双丘へと誘う。やはり嫌な予感は的中した。最初はフカフカして心地よいのだが、そのすぐあとには息が出来ない苦しみに溺れ足掻かなければならなくなるのだ。


「じゃああたしはエルハと観光続けるから。じゃあね」


 シャルは俺が苦しんでいるのを分かっていながら、表情一つ変えずに……いや、ニヤリと口角をあげながら転移で帰っていった。


「ふごっ……ふごぉぉぉぉぉっ!」

「あんッ……そ、そんなに力強く掴まれると……くすぐったいわ」


 し、死ぬ……っ!

 こう思うのも何度目だろうか。このやり取りの回避方法があるなら誰か今すぐ教えてほしい。いずれ命を落としてもおかしくない状況だからねこれ。

 俺はたわわに実った果実を下から持ち上げ、酸素の通る道を作ることで自分の命を繋いだ。


「ぶはーっ! し、死ぬ……っ!」

「久々にタクトさんに揉まれちゃった……」

「そ、そういう意味深な発言やめてください!」

「だって事実ですもの」


 いや確かにダスティア様と会うのは約一週間ぶりだが、会うたびに毎回このやりとりをやるのであれば自分の命のためにもあまり会いたくない……って言うとダスティア様が悲しみそうだし口には出さないが。


「……それよりも報告ですよね」

「むー、つれないわねー……まあそんなタクトさんも可愛らしいんだけど」


 やはり俺はダスティア様にとって俺はおもちゃ扱いらしい。今後とも、そのおもちゃだけは壊してほしくないものだ。

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