第9話 目撃事例

 森の管理塔タワーに勤務する巡視員の朝は早い。ことも、ある。

 早起きが習慣づいているメンバーは、気が向くと出勤前に散歩も兼ねてその辺を見回ったりしている。割と最近勤務するようになった巡視員、テスタロッサもその一人だ。

 男性としては小柄で細身の体に埃っぽいままの作業着を着て、塔から支給されたマントを無造作に羽織っている。服装は雑だが、短めの暗い赤色の髪と腰に差した小太刀はきちんと手入れがされていた。


「……まーってーー。まーーーーてーーーーぇ……」


 あちらから声が聞こえてくる……と振り向きかけたところで、足元を猛然とあじの開きが通過した。

 走ってくるのは、

(確か……エリカさん、といったか)

「まーってー、あたしのー、あさー、ごはー、んーーーーーー」

「おはようございます」

「おはようございますーぅ……あーーーー、ごーはーんーーーー」

 律儀に返事を返すエリカもエリカだが、律儀に声をかけてみるテスタロッサも傍から見れば大概である。

 朝ごはんと追跡主を見送って、一言。

「うむ、異常なし」


 テスタロッサさん、あれ異常です……と突っ込む人材は、幸か不幸かその場にはいなかった。

 いつも通りの朝である。

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