第7話 路上の怪事件?
このところ、ホワイティのご飯は「実験の失敗作」がほとんどだ。
猫向けにしては塩がきつかったり、ほとんど味がしなかったり。この世の物とは思えない激しい色合いの物や、食べ物の形をしていないものまで種類は様々。
ここ数日は野菜料理の実験が続いていたため、肉や魚にありついた記憶がない。大根が機械から出てきた時点で、ホワイティは職務を放棄した。
そろそろお肉が食べたい。お魚が食べたい。食に対する欲求が、職に対する忠実さを上回る。
そして、見つけてしまった。
ぴちぴちと跳ねる、活きの良いお魚。
突進してくるあじの開き!
普通の猫なら、相手が干物であろうと何であろうと食い気が勝つ。が、不幸にしてホワイティは使い魔。危険な魔法生物には近づかないようしつけられ、不自然な生き物には警戒するだけの知識や知能を備えている。
よって。
「ふみゃあああっ!」
食い気は、恐怖心に負けた。
毛を逆立てて飛び下がる。が、あじの開きがたまたま石につまづき、ホワイティの方に向きを変えたからさあ大変。
ホワイティは逃げる。ぐるぐるとその場を逃げる。あじの開きはそのつもりもないのにそれを追う。通りのど真ん中でぐるぐると輪を描くお魚と猫。そこへようやくエリカが追いついた。
猫、お魚好き。これ、世間の常識。魚、猫追いかけない。これも常識。
故に。
「あー! それはー、あたしのー、あ~さ~ご~は~ん──!」
とっちゃー、や~~ぁ~~~~……と腰の砕けそうな寝ぼけ声で叫びながら、お箸を振りかざしたエリカ、輪の中に参戦。突然現れた追跡者に、ホワイティは尻尾をぱんぱんに膨らませて更に逃げる。ぐるぐると逃げる。自分が輪を描いて走っている事に気付く余裕はもはやない。通りの真中でぐるぐると輪を描くお魚と猫と人。
なお、今のエリカに「振り向いてお魚を捕獲する」という思考はない。
やがてあじの開きは再び石につまづき、通りの真中を真っ直ぐにぱたぱたと逃げて行った。
それに気付かず、通りの真中でまだぐるぐると輪を描く猫と人。
「あらあら、どうかしました?」
玄関からチャムの声。次の瞬間、ホワイティは声の方向に突進して弾丸の如く家の中に逃げ込んだ。
「ねこが~、あたしの~、あさごはんを追いかけたんですぅ~」
チャムはホワイティの方を振り返る。
壁際で毛を逆立てているだけで、何かを取った様子はない。
「……何も持ってませんけど?」
「でもー、あたしのー、……あれ?」
なんとなーく視線を向けたその先で、銀色の光点はぴちぴちと跳ねながら遠ざかりつつあった。
「あーー! ごーはーん──」
またも駆け出すエリカ。
「……何なのかしらねえ?」
チャムはしばらくそれを見送ると、玄関のドアを閉めた。
「じゃ、ご飯にしましょうか」
「ふなぁ……」
諦め風味のホワイティ。いつも通りの朝ご飯。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます