第6話 爆裂・隣の朝御飯。
朝食の時間はいつも通り、爆音と爆煙と猫の悲鳴で始まった。
「あらあら、扉が飛んじゃった……」
ふっくらと丸い女性が、これまた丸いフォルムのヘルメットをすぽんと脱いだ。軽く天然パーマのかかった猫っ毛が、ばさばさと肩に落ちる。彼女は、森に移り住んできた料理研究家だ。名をチャムという。
「ホワイティ、怪我しなかった?」
ホワイティと呼ばれた黒猫は、鼻をこすりながら壁際で毛を逆立てている。さっきまでいた場所には、鉄製のオーブンの扉がざっくりと刺さって煙をあげていた。どうやら二枚におろされずに済んだようだ。
「機械を動かす時は別の部屋にいていいのよ? いてくれるのは嬉しいけど」
「ふみゃうっ!」
そうは行かないんです、といわんばかりに長い尻尾をひゅっと振るホワイティ。ホワイティは、可能な限りいつでもチャムの目の届くところにいる。
お料理研究家のチャムが、考えた通りの料理を再現する機械の実験に没頭し、毎朝その実験のせいで爆風と爆煙を浴び、雪のように白かった毛がカラス顔負けの漆黒に染め上げられようとも。
ホワイティは、元々チャムの友人の魔術師から贈られた使い魔だ。一人暮らしのチャムが無茶をしないように、危険な目に遭ってもすぐに助けを呼べるように……と、その身を案じて。
そしてホワイティは、なるたけ自分の使命に忠実であろうと努力している。
今や、毎朝ホワイティが自分の身を案じる羽目になっているが。
「えーっと……、塩のかたまりが一皿、ちゃんと煮物の形になったのが二皿、大根の塩茹でになっちゃったのが二皿に何だかよくわからないのが三皿。上出来、上出来」
チャムは機械から煤けたお皿を取り出して並べ、今日も茶色の瞳をきらきらさせながら嬉しそうにノートに成果を書き込む。
「ホワイティ~、ごはんよー」
一番まともな味になっているであろう大根の皿を手に、くるりと振り返る。
いない。
逃げたようだ。
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