第12話 ママさん

「ララのお母さんは、かなり家事が得意な方なんだね」

 初めてうちに来た日に、将来は尊敬するママさんのような良妻賢母になりたいと言っていたララ。彼女の家事を見ていると、彼女のお母さんは相当なものなのだろうと思う。

「わたくしのお母さ ん、家事出来ないよです」

「え? ララはお母さんのような良妻賢母になりたいって……」

「お母さんじゃないよ、ママさんみたいになりたいよ。あっ、ママさんの事、隆太に言って無かったです。……もうこに来て、二十日以上経ったね。もう話していいよね」

話す?何を?ママさんって誰の事言ってたんだろう。てっきりララのお母さんの事だと思っていたのに。

そう思った僕に、ララはとんでもない話を始めた。



 ママさんは、本当はマナさんね。昔わたくしが幼かった頃、我が家の家政婦してた人です。

 小さかったわたくしは、マナさんをママさんと呼んでたです。わたくしが着ているような和服を着て美味しいご飯を作ってくれたり、おうちの中を綺麗にしてくれてたです。


 マナさん、和服……もしかして、と僕は思った。


 マナさん、わたくしが小学生になった頃赤ちゃんできたです。そして家政婦辞めたです。マナさん居なくなって、わたくしも外国の学校行く事なったよ。けれどマナさん、それからもずっとわたくしと文通しててくれたです。今年の春までは。


 今年の春って……。ララは一筋涙を流し、言葉を詰まらせた。変わりに今度は僕がララに聞いた。

「マナさんって松川マナ、僕の母さんの事だよね?」

 うつむいていた頭を少し上げる形でララはうなずいた。

 ララは母さんと知り合いだったんだ。



 ララのご両親は、海外に行っている事が多く留守がちだった。ララの家の家政婦をしていた僕の母さんは、ララにとってはお母さんのようでとてもなついていたという。

 母さんが将太を身ごもって、家政婦を辞めた後ララはアラブ、アメリカ、フランスなどで暮らした。そうして、母さんとは文通しながら僕の事も色々聞いていたらしい。

 手紙には僕が友達が出来にくい事まで書かれていて、高校は日本で通う事になっていたララに母さんから、僕の友達になってほしいと言われていたという。

 けれど僕の遠慮がち(なのか自分では分からない)な人付き合いを考えると母親から友達になってと頼まれた女の子という形では返って仲良くなり辛いのでは無いかと母さんは考えたらしい。

 それで母さんは花梨のベビーシッターという形で夏休みにでも毎日通ってきていたら自然と友達になれるんじゃないかと考え、ララと二人で計画していた。

 ところが母さんは交通事故で夏休みを迎える前に亡くなってしまった。

 ララは計画を変更し、家政婦として松川家にやってきた。

 そして当初の母さんとの約束通り、僕と親しくなるまでは母さんの知り合いだという事は伏せたのだった。

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