第5話 ララと同級生

スーパーにつくとララは

「さて、このスーパーはおいくらでしょうか」

と言い出した。

「え?ちょっ、スーパー買ってどうするの……」


家政婦紹介所だけじゃなく、スーパーまで買いとる気?

「そ、そこまでしなくても」

オロオロする僕にララはコロコロと笑って

「冗談ですよ」

と言った。


「へっ?」

冗談言うんだ。


「隆太、何だかご飯の時から元気無いです。今にも泣きそうな……だから笑わせたかったよです」


そっか、色々と母さんの事を思い出してたからそれが思わず顔に出ちゃったんだな。高校生にもなってマザコンかもしれないけど、友達のいない僕にとっていつも一緒にいてくれた母さんの存在は大き過ぎたんだ。

しかも僕にとって特別な親子丼なんかがお昼ご飯に出てくるものだから嫌でも切なくなってしまっていた。


「わたくし、スーパー初めてね。早く行こ、ね?」


そうララは上目遣いがちに言い、僕の手を掴んで引っ張って行こうとした。

その動作に、ちょっとドキドキして沈んでいた僕の心は母さんの思い出から現実の目の前の女の子に移行された。



スーパーで一通り買い物を済ませて外に出たところで高校の同級生の水野に出会った。

「おっ、松川。すっごい美人さんと一緒やん。そうやってベビーカー押して一緒に歩いていると若夫婦って感じじゃん」

「あ、これ妹なんだ」

「えーっ松川に、こんな可愛い妹いたの? 和服着て清楚って感じだよね」

 うっ、本気なのか冗談なのかララの事を妹だと言っている。何と言おう……。

「いや、あの」

「分かってるよ。妹は赤ちゃんの方だろう。松川、真面目だからカラかったんだよ。じゃあな、デート楽しめよ」

 そう言うと同級生の水野はバシッと僕の背中を叩いて行ってしまった。デートじゃないんだけれど……。けれど、もしかしてそれも冗 談なのかな? あ、しまった。ララの事を紹介するタイミングを無くしてしまった。

「今の人、友達じゃないですか?」

「あ、うん、普通の同級生」

 水野は、席が後ろの事もあり一番仲良くなれそうな関係ではある。けれどまだ“友達”という関係というのは、おこがましいような気がしている。

「わたくしのように二人の関係を知らない人が見たら友達以外には見えないぐらいだったですよ」

「水野は話しやすいし、人の輪に中々入れない僕にも飽きる事なく話しかけてくれるから」

 僕は臆病なのだろうか。


 そんな事を少し思いながら、家に帰った。



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