最終話 おっさん、覚悟を決める
「おじさーん、お洗濯の時間だよー」
そう言ってヒアリはデッキブラシを持ちつつ、巨大な岩になった俺にホースで水をぶっかけてくる。
隣ではナナエもブラシと業務用大容量洗剤を持ちながら、
「洗濯と呼ぶのは妙な感じです。これは掃除と呼ぶべきでしょう」
『人の身体を洗うのを掃除呼ばわりするのはやめろや』
俺が抗議するもののナナエは盛大に洗剤をぶっかけてきて、
「こんな巨大な岩なんですから洗濯とはいえません。掃除で十分です。おじさんはすぐに掃除を怠りますからいつもカビだらけです。しっかりと掃除しなければなりませんので手間がかかって困ります。ヒアリさんも手伝ってください」
「はーい!」
そう言ってナナエが撒いた洗剤を使い岩の表面をブラシで擦り始めた。
「おじさん大丈夫? 痛いところないかなー」
わざわざ確認してくれる。かわいい。
そう思ったらヒアリの周りにいる神々様からものすごい悪意の視線をぶつけられてしまい背筋が凍りそうになる。ヒアリが天蓋をぶん殴ったときに集めた神々様だったが、今でもヒアリに力を貸しているのですぐそばにいる。当然カーテン破蓋や原付破蓋だった神々様もだ。こいつら、みんなヒアリラブなもんだから、俺が可愛いと言っただけですごい睨んできやがる。可愛いっていうぐらい許せや。
「ウーィ! 全部洗い流せるやつもってきたぞ!」
ここでミミミたち工作部の連中たちがやってきた。
しかし、徒歩ではなく自動車に乗ってきている。しかもバカでかい消防車みたいなのにだ。
ハイリが消防車もどきから降りてきてホースを引っ張り出し、
「おじさんも無事で何よりだなー。とりあえずきれいにしようぜー」
「いってください! これが私達からの餞別です!」
「餞別ってなんだよ……」
マルがよくわからないことを言うのをスルーするミミミは、巨大なホースを持ち上げ、俺(岩)に向かって大量の水を発射してきた。
ものすごい勢いで洗剤と汚れが落ちていく。とはいっても痛覚がまったくないからさっぱりした感覚はないものの、これだけの汚れが身体から取れていくのを見て悪い気分にはならない。
それからしばらくして、
『で、お前らは今後どうなるのか決まったのか?」
俺の質問をナナエがそのまま工作部やヒアリに伝える。
これにハイリが頭の上で手を組んで、
「とりあえず学校は現状維持だってさー。まー大穴の真上にでっかい岩ができて破蓋が入ってこれなくなりましたーって言われても学校外の連中が受け入れるわけないし、いつ破蓋がまた出てきてもいいようにしておくってさ」
「まっあたしらもここから離れる気は当分ねえしな。解散と言われても居座る気だったぜ」
ケラケラと笑うミミミ。隣ではマルがなぜか青ざめながら、
「外怖い外怖い外怖い外怖い外怖い外怖い外怖い外怖い外怖い外怖い外怖い……」
どうやら外の世界にはいろいろトラウマでもあるのかここから離れるとは考えたくないようだった。
「わたしたちも英女としてここにとどまります。訓練も続けて有事に備えることになるでしょう。学校の外では騒ぎが続いているようですが……」
先生がデマを流してヤバイ連中が学校を襲撃の流れで始まった政治問題は未だに揉め続けているようで、与党だ野党だ反政府勢力だが跋扈してカオスになってるらしい。幸い、大多数の国民は英女学校の体制を維持すべきというアンケート結果が出てるので、ナナエたちは巻き込まれることはないっぽいが。
「うちの生徒会長が外に出ていって色々根回ししてくれてるみたいだしなー。クロエが生徒会長代理やらされて忙しい連呼してるわ。おかげであたしらを追いかられなくなって助かるねー」
ハイリがはっはっはと笑う。
ミミミがブラシで俺の身体を洗いつつ、
「で、このおっさんは結局このままなのか? 破蓋は?」
『一昨日も破蓋は来てたけど俺のケツを叩いて通れないとわかったら帰っていったぞ。俺の本体――天蓋が何考えてるのかもうわからねーけど、この世界を滅ぼすことを諦めたわけじゃなさそうだ。でもまあ本体はここには来てないから、当分は大丈夫だろうよ』
「このまま面倒な役割を押し付けて少々気が引けますね……」
マルは複雑そうな顔で俺の表面に生えた雑草をむしってる。
『気にすんなよ。ずっとフラフラしてたし、そろそろ安定した職業に付きたかったところだわ。ここに居座ってるだけなんてナナエの身体で殴られまくるよりはずっと楽で助かるね』
そんな話をしている間に掃除が終わる。バカでかい俺の身体となった岩は割ときれいになっていた。
「おじさん」
ナナエが岩の俺にすっと手を当てて、
「これからもをよろしくお願いします」
俺も答える。
『ああ、これからもよろしくな』
この世界がこのまま平和でありますように。
異世界憑依~おっさんと14歳の少女と強制同居生活~ きたひろ @kitahiroshin
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