第239話 人間破蓋2
「意味がわかりませんね……! 散々犠牲を強いられてきた神々様が抗うと決めたのがあなたであり天蓋と呼んでいる存在はず! それがこの世界のために犠牲になる!? 気でも狂いましたか!」
「頭なんてとっくの昔に狂ってるっての!」
先生がわめき声を上げている間に、俺は先生に向かって突進していく。
「大体ずっといろんな世界のいろんなモノに住み着いて、天蓋がその世界を破壊するとまた次の世界にいって別のモノに住み着く! こんなことをやってれば変な感情移入が出てくるのは当たり前なんだよ!」
俺が叫ぶ。ここでまた俺の横から鎌が襲ってきた。先生から長く伸びた髪の毛が絡まりコントロールしていた。
俺は背中の腰の部分に手を回す。唯一身につけていた拳銃だ。何度も破蓋にふっとばされても、身体に密着していた状態だったせいか、この拳銃だけは使える状態になっている。服が再生されているのと同じ扱いなんだろう。
その拳銃を鎌に向けて――と思ったが、すぐに先生に向け直して発泡する。
そして、先生の右肩に被弾した。たまにナナエから身体の主導権を借りて銃を撃ってたが、大したセンスも訓練もないから、目標にあたったことがなかったものの、運良く今回は当たってくれた。
だが、先生は特にダメージが有るような感じでもなく、被弾した肩を擦る。すぐに右肩が光りだしてきて、弾がコロンと足場に落ちた。右肩の傷も治っている。ちっ、やっぱり完全な破蓋だな。てことは核を破壊しないと――
「ここ、ここですよ?」
そう挑発するように先生は自分の額を指差している。なんだぁ? 自分から核の位置を教えて当ててみせろってことか。舐めやがって。
俺は拳銃を両手で持って構える。そして、三発ほど連続で発射した。
「――――っ」
運良く先生の額に直撃してのけぞった。マジかよ。いつもこういうときは嫌がらせみたいに悪い方になってたのに、たまには神様もいいことするじゃん。俺が神々様の成れの果てだけどな。
これで勝負ありか……なんてことはない。先生はすぐに身体を起こした。額は破蓋の修復と同じように発光しながら傷が癒えていく。弾もチャランと足場に落ちた。
「ふざけたことしやが――ぐえっ!」
俺が文句を言おうとした瞬間、腹に大激痛が走って、視界がずるっと下に落ちていく。何だ何が起きたんだ?
倒れた状態で目を開けると、なぜか俺(というかナナエ)の足が目の前に立っていた。だが、上半身はなくてそこから血が溢れ出していて――うげえ気持ち悪い。
俺が先生を攻撃している間に鎌で上半身と下半身を真っ二つにされていたのだ。挑発していたのはこの攻撃から悟らせないためか。
だが、
「ちくしょういてえっての」
すぐに身体が発光して上半身と下半身が霧みたいになって混ざりあい、元の身体に修復されていく。今までは全く意識してなかったが、治り方が先生と全く同じじゃねーか。これじゃナナエも人間破蓋みたいなもんだ。
「参りましたね。天蓋の一部では私の攻撃などいくらしても意味がないようです」
「どうやらそっちに勝ち目はないみたいだぞ。おとなしくしてもらえると助かるんだが」
「ほう。見逃すというのでしょうか」
先生の言葉を俺は聞きながら拳銃の残りの弾と腰に1本残してある弾倉を確認しつつ、
「あ? 見逃すわけねえだろうが。あんたはここで殺す――ナナエ流にいうなら破却させてもらうぞ。これ以上、ナナエたちにちょっかいかけられても困るし、さっき言った通りここで全部終わらせるつもりだからな」
俺はまた先生めがけて全速力で走り出す。そして、立て続けに先生めがけて発砲した。
何発か当たるが、先生にはダメージがない。
――次の瞬間、突然俺の視界が明後日の方向にずれる。しかも自分が走っていく姿が見えていた。近くを通りすぎていく鎌の姿で、俺は首ごと切り落とされたんだとわかった。
だが、首から下の身体はまだ先生めがけて走り続けている。どうやら離れていても治るまでの間は身体を動かせるらしい。
このとき、俺はある考えが浮かんだ。前の世界じゃ柔軟な思考や臨機応変のなさで底辺労働者をやっていたのに、こんな考えにこんな状況でたどりつけたのはナナエのような冷静な行動を見ていたからかもしれない。
先生は大きく手を開き、
「もう終わりにしましょう! 私の傷も犠牲も! すべてこの世界とともに終わるんです! 神々様を犠牲から解放するという大義名分を持って!」
「結局自分が嫌な記憶を消したいだけじゃねえか!」
俺は拳銃を一発発砲した。うまい具合に胸に直撃する。だが、すぐに修復されてしまった。
今度はもう一つの目標めがけて構える。
先生は最初俺の上半身と下半身を真っ二つにしていた。思い出してみるとちょうど胸のあたりできれいに切り落とされていたので、恐らく心臓を狙ったんだろう。
その次は首を狙った。あえてこの2つをピンポイントで狙った理由は一つ。
引き金を引き、発射された弾丸が先生の首に直撃する。そして、首の中にあった赤い玉――核を破壊した。
先生は俺が人間破蓋と同じ場所に核を持っているとみたんだろう。だから、自分の核のある場所の首を狙ってきた。
皮肉なもんだ。自分の弱点を知ってるからこそその弱点を攻撃してしまったせいで、相手に弱点を知られてしまうなんて。
「―――――」
先生はうめき声一つ挙げずに、大きく身体を後ろに飛ばされた。そして、少しずつ身体が崩壊しながら、大穴の中へと落ちていく。
先生が最後にどんな顔をしていたのかは見れなかった。見たくもなかったから、もし視界に入ろうとしたら目をつぶっていたところだったし。
ミナミが死ぬように謀略をはぐらせ、ナナエとヒアリにも執拗な嫌がらせをして、工作部の連中にも怪我をさせた。そんなやつに同情するつもりはねえ。
ただ、ナナエには先生の始末なんてやらせたくなかった。どんな悪党でもナナエみたいな良い子が人殺しをやれば心に傷が残ってしまう。
こういうのは俺の仕事でいい。そして、この面倒くせえ仕事はやっと終わったのだ。
……………
……………
……………
静かになった大穴でしばらく俺はぼーっとしていた。変に心がザワザワしてやや興奮しているのを落ち着かせようと深呼吸を続ける。
『終わりましたか?』
ここでナナエが声をかけてきた。
「お前が寝てる間に終わらせておいたぞ」
『先生はどうしましたか』
そう尋ねられて俺は首を振り、
「さあね? 大穴の底に落ちていったよ。生きているのか死んでいるのか知らんけど案外向こうの世界でよろしくやってるかもな」
『そうですか』
ナナエは少し黙った後に、
『そういうことにしておきます』
「そういうことにしておいてくれ」
そんな会話をしている間に、下から浮上してくる天蓋が更に迫ってきていた。
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