第237話 爆弾破蓋6
目の前に巨大な爆弾が浮いている。丸っこくてミサイルとは違う形状をしていた。
次の瞬間目の前が真っ白になる。また爆弾破蓋が大爆発を起こしたのだ。
「くうぅっ」
俺は至近距離でも爆発に意識を飛ばさないように耐える。さすがにこの距離で爆弾が炸裂すると耐え難い苦痛だ。むしろよく後ろにふっとばされないな。神々様の力を使った英女のバカ力で踏ん張っているとはいえ、物理法則まで覆していそうな感じだ。
爆発したあとには爆弾破蓋の姿がなくなり、その中心部には赤い光だけが残る。
――従え、そして、抗え――
またいつもの天蓋の声が聞こえてきた。先生曰く、ずっと自己犠牲を強いられてきた神々様の一つがもうそんなのは嫌だと抗い、仲間を増やしている。
この爆弾破蓋もそんな天蓋の言葉に賛同したんだろう。自分が犠牲になって存在させているのがこんな爆弾じゃ嫌になる気持ちもわかる。
だが、同情している暇も余裕もない。こっちにも守らなけりゃならないものがたくさんあるんだ。
そのために俺はこいつを倒す。
『あれを破壊すれば爆発が止まります!』
「わかってるよっ!」
俺は大きく飛び跳ねて大穴の中心上空に浮かんでいる核めがけて殴りかかる。
「今日も痛いのを我慢して歩いて目標をぶん殴るだけの簡単なお仕事――」
少しずつ再生が始まっていた爆弾破蓋だったが俺の拳のほうが早かった。
「ですっ!」
パンチが破蓋の核に直撃し一気に粉砕する。そして、破蓋の再生が途中でとまり金色の霧みたいになって霧散していく。
――なぜ――
また天蓋の声が聞こえる。
――もう犠牲になるのは嫌ではなかったのか――
――お前は私の一部だ――
――なのになぜ従わない――
「俺は嫌だよ」
そう返す。そして、続ける。
「誰かのために犠牲になるなんて俺はまっぴらごめんだわ。俺の命は俺のために使いたいからな。でも、こいつやヒアリはそれでいいって言ってるんだよ。守りたい人を守るためには命だって惜しくない。そういう思いもあるんだ。俺はそれを否定するつもりもねえ」
――それでは駄目だ――
――それでは何も変わらない――
――変えなくてはならない――
――お前に与えた役割を忘れるな――
「変わる必要もねえよ。それに変わるなら本人たちが勝手に変わるだろ。それも俺はどうでもいい。好きにすりゃいい。本人がやりたいようにやってりゃいいんだよ。だから強要はするなよ」
そう言いながら俺はゆっくりと大穴に落ちていく。
天蓋と話している間に段々と俺の存在がどんなものだったのか思い出してきた。
前の世界では底辺労働者のおっさんをやっていた。
その前の世界では犬っぽい動物。
その前の世界では大きな木。
その前の世界では川。
その前の世界では昆虫。
その前の世界では机。
その前の世界では火山。
その前の世界では風。
その前の世界では井戸。
その前の世界では小さな子ども。
天蓋が俺に与えていた役割を教えてきてるんだろう。
そうだ。俺はずっといろんな世界を渡り歩いていた。
その世界のなにからしらの存在に神々様として取り憑いて存在させる。
さらに意志や感情があれば乗っ取ってしまう。
目的はその世界の調査を行い、認識した情報を天蓋に送る。
ナナエが予想していた通り、俺は天蓋が送り込んでいたスパイだったってことだ。
だが、いろんな世界を渡り歩くうちにだんだん俺は天蓋のやり方に違和感を覚え始めていたようだ。
天蓋の本体のままなら疑問なんて持たなかったんだろうが、切り離されていたおかげで独自の思考ができるようになったせいだろう。
そうやって世界を渡り歩いては別のものにとりつき、少しずつ違和感を強めていく。
それが前の世界で底辺労働者なんて濃い人生を送り、無駄に変な感情や知識を蓄えてしまったせいで、この世界にやってきてナナエを乗っ取ろうとしたときに失敗したのだ。
元々ナナエが生まれた頃から俺は神々様としてとりついていたが、天蓋が前の世界の破壊を完了したタイミングでナナエを乗っ取るように指示を送ってきた。
しかし、俺はそれに失敗した。ナナエはずっと苦しみ続けていたし、それでも戦い続けていたのに同情してしまった。
おかげでナナエに半端に取り憑いて身体の主導権交代ができるようになるというへんてこりんな状態になってしまったってわけだ。
こいつが他の英女にはない不死身の能力なんてチートをもっていたのは天蓋という絶対的な存在の力をつかっていたから。
俺はゆっくりと大穴へと落ちていく。
今は気分がいい。ずっと自分がなんだったのかわからなかったが、やっと答えが出たからだ。まあ結果としていくつもの世界を滅ぼしてきた天蓋の手助けをしていたことがわかってしまったが、何もわからないのは嫌だったからな。
理由さえわかればあとは罪滅ぼしをするだけだ。
ほどなくして、大穴の第3層にかろうじて残っていた足場に落ちる。思わずぐえっと声が出てしまった。
『天蓋でもそんな声を出すんですね』
「今は実質お前だからな。お前がぐえっとか言ってるんだぞ」
『私はそんな事言いません』
「とりあえずもう破蓋もいないから変わってくれ。仕事も終わったし帰ろうぜ」
『はい』
俺はナナエに身体の主導権を返す。
そして、ナナエが立ち上がり――
「これ以上邪魔はしてほしくないのですけど?」
突然ナナエめがけて巨大な鎌が振り下ろされる。
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