第236話 爆弾破蓋5
俺たちはゆっくりと爆弾破蓋めがけて歩き続ける。さっき先生に対して大見得を切ったが、こいつの倒し方はまだ考えてなかった。
ナナエはやれやれと、
『全く偉そうなことを言って啖呵を切るものですから、てっきり有効な手段を思いついたのかと思いました』
「うるせーな。俺にそんなことを期待すんな」
『大体おじさんの正体が天蓋というならもっと強力な力を見せてくださいよ。隠された真の力とか解放された能力とかあるでしょう?』
俺は考えてみる。が、すぐに諦めて、
「すまないがそんなものはなさそうだ」
『あのですね……諦めるのが早すぎます』
ため息をつくナナエ。
――次の瞬間、俺の意識が完全にブラックアウトした。そして、その次に気がついたときは地面にひっくり返っている。
「――いてえ……くない?」
ひっくり返っているだけで特に痛みなどは全く感じない。ただし、身体がうまく動かせなかった。
何が起こったんだと周囲を見回すと、そこら中で土煙が巻き上がっている。隣に生えていた小さな木が燃え上がっていた。
なぜか俺の身体にチリチリする痛みが今になって出てきている。
それを見たナナエはあくまでも冷静に、
『……恐らく……爆発に巻き込まれました』
「そりゃすぐにわかるが……どこも痛くねえぞ」
やっと身体が動くようになったので立ち上がる――
「は?」
次に目を開けたときにはまた地面にひっくり返っていた。さっきよりも後方に下がっている。というか飛ばされてる?
一体何が起きているのかわからない。が、今度はまた一瞬視界がブラックアウトしたと思ったら空を眺めている。
何が起きてんだよ。俺は困惑しか出来ない。
だがナナエは答えを見つけたらしく、
『驚かないで聞いてください』
「早く言えよ」
『さっきから爆弾破蓋の爆発で即死しています。痛みがないとのことなので、最悪蒸発しているかもしれません』
「……マジ?」
俺は立ち上がる。そして、爆弾破蓋を見た――瞬間、閃光が視界を遮り。次にブラックアウト。その次に目を開けたときには少し後ろに下がってひっくり返っている。
「くそったれめ」
俺は半笑いになってしまう。先生がナナエに送りつけてきたメッセージの中にもあんなの食らったら蒸発してしまうとか書かれていたし、どうやら本当に木っ端微塵どころかただの煙になっているようだ。
おまけに破蓋に近づいても攻撃を受けるたびに後ろに戻っている。これでは永久に破蓋にたどり着けないだろう。
しかしだ。
俺はまた立ち上がる。そして、ゆっくりと爆弾破蓋に向かって歩き出した。
『なにか手立てを思いついたんですか?』
「楽勝だよ。これは俺向きの仕事だ」
そう言った途端にまた爆弾破蓋が閃光を放って大爆発した。俺はその瞬間、反射的に身構えようとするが、全く追いつかずにまた地面にひっくり返っていた。隣では小さな木が燃えている。
俺はまた立ち上がって爆弾破蓋に向かって歩き出す。そして、また蒸発して元の小さな木が燃えているところでひっくり返っている。
『…………』
ナナエは黙って俺の行動を見守っていた。いつもならギャーギャー騒ぎそうだが、本人もどうしたらいいのかわからないのか口を挟んでこない。
俺はまた立ち上がって歩いては死ぬをひたすら繰り返す。何度も何度もそれを続ける。
だが、何もしてなかったわけじゃない。10回程度繰り返したあと、
「クソいてえ!」
俺は全身大激痛に悲鳴を上げた。目は見えないし、全身焼ける感覚、というか実際に丸焼けになっている。
だが、今は意識は飛んでない。ひっくり返ってもない。
「耐えてやったぞ畜生め!」
俺は勝ち誇ったように叫ぶ。今の破蓋の攻撃で俺は蒸発はしなかった。後ろに吹っ飛んでもない。
つまり前に進んだのだ。
『全く何を思いついたのかと思ったら我慢するだけですか』
「うっせ。あの爆発を受けても後ろに下がらなきゃいいだけだろ。あの爆弾野郎は爆発するしか能がないっぽいからな」
視界がしっかりして痛みも引いてきたので俺はまた爆弾破蓋に向けて歩き出す。
そして、再び爆弾破蓋の大爆発が俺の全身に直撃するが、また耐えた。よーしだいぶコツがつかめてきた。
また歩き出す。
「俺はお前みたいに冷静な分析もできないし、あの犬破蓋のしっぽに弾丸を命中させたりするなんて芸当は無理だ。でもこうやって前に歩き続けるだけならできる。まさに誰にでもできる簡単なお仕事ってやつだ」
『ですが、ここまでの破蓋の攻撃が強烈だったことは今までありません。先生の言い分に乗るわけではありませんが、この身体の再生能力が本当に追いつくのか疑問はあります』
ナナエの言葉に俺はフンと鼻を鳴らして、
「何言ってやがる。こちとら一部とは言え、宇宙そのものの破蓋だぞ。こんなちっぽけな小娘の身体1人の再生なんて楽勝に決まってんだよ」
そう啖呵を切るとまた前に歩き出す。近づくにつれて爆発のダメージが大きくなっているのを感じる。しかし、それでも意識をなくさずにただただ前に歩き続けた。
やがて大穴の前にたどり着く。その中心で不気味に佇む破蓋に向かって言い放った。
「来てやったぞクソ破蓋」
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