第235話 爆弾破蓋4
先生が語る真実に俺はあまり動揺していなかった。殆どのことが今まで少しずつ集まってきていた情報と同じでつなぎ合わせると同じ結論に至ったからだろう。
それはナナエも同じのようで、
「……そうですか。ミミミさんたちの推測と同じ話なので別に驚くことはありません」
そう動揺せず静かに答える。
破蓋が神々様。神々様が自立した意志を持って、なにかを存在させるだけの犠牲になっていたことに抗ったのが破蓋。そして、自立し抵抗することを呼びかけているのが天蓋。まあ俺が前にいた世界にいったときや天蓋からの呼びかけの言葉などで情報で得たことと一致しているので先生のでっち上げってことはないと見ていい。
ナナエは続けて、
「……それで先生は何が言いたいんですか」
『犠牲になることはもうやめたい。そうして神々様が破蓋になったんです。これは正当性があり、その思いは悲痛で可哀想だと思いませんか? そのような存在を倒すなんてあってはなりませんね』
「…………」
『あなたも今犠牲になることを初めて恐れました。その感情は破蓋の抱いているものと同じなのです。破蓋とあなたは今や同じ考えになっています。そんな分かり合うべき相手と戦う必要などあるでしょうか? 神々様の力を思うように使い、自己犠牲を強いられてきた英女がその事実を知ってもなお続けるつもりですか? もうやめませんか?』
口調は優しげなのに微妙に早口な独特な口調で先生が語る。色々言ってるが、これ以上、神々様を犠牲にさせないためにも戦いを放棄しろと言ってるんだろう。
ここでナナエがポツリと言った。
「……おじさん。代わってください」
『おう』
唐突にナナエがそういい、俺もすぐに受け入れる。
次の瞬間、俺に身体の感覚が現れるのがわかった。手も動くし顔の筋肉も動かせる。
さっきまでうまく行かなかった身体の主導権移動があっさりうまくいったようだ。
俺は携帯端末を耳に当てて、
「最後の一押みたいなつもりでこいつを煽りに来たんだろうが、逆効果だったな。何もせずに黙ってみてけばそっちの思うようになったかもしれないのによ。もったいねえ。プライド――誇り高いこいつにそんなこと言ったらムキになるだけだろうに」
『……誰?』
いきなり口調が変わったせいか、先生が困惑していた。
だから言ってやる。
「俺だよ俺。オレオレ。そう俺たちが天蓋って呼んでいるやつの一部だ」
『!?』
通話越しにでも先生がビビっているのがわかる。へへっ、ざまあねえな。
俺は意気揚々と、
「今でもあんまりはっきりしてねえけど、どうやら俺はナナエのやつに力を貸していた神々様ってやつっぽいんだわ。しかも、すでに天蓋の言うところの『従え、そして、抗え』を絶賛実行中だったってわけ。でもなんかトラブった――まあ想定外のことがあったんだろうけど、目的のことをすっかり忘れて、前の世界の記憶のまんまこいつに取り憑いた状態になってる」
『ならばあなたはただの神々様でしょう』
困惑する先生。俺は首と振って、
「そうだと思っていたが、大穴の向こう側の世界で天蓋にあったときに俺に帰ってこいだのお前は自分の一部だとか言われたんだわ。それを考えると、多分俺は天蓋から切り離された一部で、いろんな世界に送り込まれていた偵察?みたいな感じだと考えるしかねえ。それで前の世界では底辺労働者をやってて、今はナナエに力を貸す神々様状態ってこった」
『……何が言いたいんです』
先生にそう言われて俺は宣言する。
「あんたは神々様はもう犠牲になりたくないって言ってたけど、はっきり言うぞ。俺は天蓋としてナナエに力を貸すのをやめるつもりはまったくねえ。これを犠牲だと思うつもりもねえ。俺は俺に利益があるからこうしたいってだけだ。だから戦うのをやめろとナナエには絶対に言わない」
『……そんな。ありえません。犠牲になっても構わないと思うような人がいるなんて……』
「他の破蓋にもいたぜ? ヒアリと一緒にいる破蓋はすっかりヒアリにぞっこんであの様子じゃヒアリのためにいつでも犠牲になる覚悟だ。覚悟どころか喜んで敵に突っ込んでいくぐらい惚れ込んでる。俺も同じだよ。こいつのためには犠牲になって構わない。それが俺の意思だ』
『先生』
ここでナナエが静かに口を開く。
『先生の言う通り破蓋――神々様はずっと犠牲になることを強いられていたのはわかります。そして、そんな状況から脱したいと考えるのも必然です。私はその思いを否定するつもりはありません』
『だったら――』
『ですが!』
先生の言葉を遮りナナエは叫ぶ。
『今私の後ろには大切な友達がたくさんいます! 私が傷つき落ち込み苦しみ悩んでいたときも守ってくれていた大切な友達です! たとえどれだけ破蓋のやっていることに正当性があったとしても、ここから先へは通せません!』
ナナエは大きく息を吸い込み、
『たとえ自分が犠牲になっても構わない! それは私の意志です! 誰にも否定させません!』
そう高らかに宣言した。
先生はそれを聞いてしばらく黙っていたが、やがて通話が途切れる。
さて。
「行くか」
『はい』
俺たちは相変わらず爆発を続けている爆弾破蓋に向かって歩き出す。
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