第232話 爆弾破蓋1

 いきなりの連続大爆発で負傷者が出ている中、全生徒避難移動が始まった。

 当然学校内は大混乱だ――と思いきや案外スムーズに進行していた。生徒たちの行動を見るとみんな助け合っているし、執行部の連中がしっかり取り仕切ってるおかげで大した問題も起きてない。適正値が高い低いにしろあるってだけでここまできちんと物事が進むとは。


(世の中みんなこういうのならいいのにな)

「何をしみじみと言ってるんですか」


 ナナエは生徒二人を担いで大空を舞っている。避難はスムーズに進んでいるとはいえ、中には衝撃波で負傷し自力で歩くのがこんなんな生徒もいるので、ナナエとヒアリが運び出していた。


 そして、30分後。すべての生徒たちが学校敷地と外部が唯一つながってるゲートの前に避難完了した。


「問題はなさそうだな」

「は、はい……疲れた……」


 飄々と生徒たちを見回す生徒会長に比べてゼイゼイ息を切らせて地面に座り込んでいるクロエが対象的だ。


 生徒たちは不安を隠せない状況だったが、錯乱する人もいないし混乱は起きてない。とりあえず、ここで待機してもらえば大丈夫だろう。


 で、問題は破蓋の方だ。


「学校が……」


 ヒアリが呆然とつぶやいた。大穴で発生している爆発はどんどん巨大になり、今では大穴周辺の廃墟はすでに粉々に消し飛び、少し離れていた学校や寮にも爆発の影響が及んでいた。メラメラと燃え上がる校舎を俺たちは呆然と見守ることしか出来ない。


「仕方ない。施設は生徒たちが生きていれば再建はできる。生き残れればいい」


 そう生徒会長はいうものの、どこか寂しげな顔をしている――と思ったが、やっぱり顔をどこかにそむけているので声しか聞こえない。


「きーたーぞー!」


 ハイリが望遠カメラで相変わらず連続爆発が続いている大穴を指差して叫んだ。うっすらとだが大穴からなにか巨大な物体が浮上してきているのがここからでも見える。

 ミミミはその映像を取り込んでいるノートパソコンで画像を解析し、


「間違いねえな。爆弾だ。それもかなりの大型のやつだぞ」


 はっきりと映し出された破蓋の姿は映画とかでみたことある爆弾そのまんまの姿だった。ミサイルのような飛んでいくタイプではなく、丸っこくて飛行機から投下する形状をしている。


 おまけに破蓋の全身に宇宙の文様が浮かんでいる。天蓋に強く忠誠を誓っている証だから、ヒアリの説得に応じることはない。


 ――次の瞬間、また大爆発が起きた。大穴の内部での爆発とは違い、強烈な閃光が起きて次の瞬間周囲のものすべてを消し飛ばした。かなり離れているここまで激しい衝撃が到達して、生徒たちが悲鳴を上げる。


「凄まじい威力ですね……しかし、これだけの爆発ならば、破蓋自身も消滅するはずなんですが……」


 ナナエが目を凝らして大穴の上空にいる爆弾破蓋を見ている――次の瞬間また大爆発が起きる。


 そして、爆発の煙が晴れたところにまた爆弾破蓋の姿が見えた。確かに核ごと吹っ飛んでいても良さそうなものだが、再生しているところを見ると核は無事らしい。


(爆弾の破蓋とか今までいなかったのかよ)

「私の知っている限りは……ミミミさん過去に同系列の破蓋の情報はないんですか?」


 ミミミはノートパソコンでしばらく調べていたが、


「小さな爆発物の破蓋はかなり前にいたみたいだが、こんな巨大なのは過去の情報には乗ってねえな」

「まあいたら今頃学校とかなくなってなさそうだしなー」


 顔をひきつらせながらケラケラとやけくそ気味に笑うハイリ。一方マルは爆発の衝撃に何度もさらされて疲れ切ってしまったのか、地面にひっくり返って伸びている。


(つまり新型だからぶっつけ本番であんなのをなんとかしろってことかよ)


 俺は愚痴りながら、再び大爆発した爆弾破蓋を見てげんなりとしてしまう。


 ミミミはさらに画像を解析し続け、


「爆発したあとに小さな核が残っていやがるな。そこから再生しているんだから、いつもどおり核を破壊するしかねえ」

「で、でも、あの爆発じゃ近づけないよぅ……」


 ヒアリが困った感じにあたふたしている。自分がやるとか言って飛び出さないのは助かったが。


「ここは私の仕事でしょう」

(だな)


 そう言って俺たちは爆弾破蓋に立ち向かう。しかし、ここで生徒会長がすっとこっちを向き、


「……………」


 しばらく無言でこっちを見つめていた。和風美人の顔からはなにか疑問?みたいな感じが受け取れる。


 何も言ってこないのでナナエは首を傾げて、


「あの、なにか?」

「いや……」


 生徒会長は頭を振って、


「あとはもう君たちに任せるしかないだろう。これだけの敵相手に我々はもう何もできない。すまないが頼む」


 そう言って頭を下げてきた。工作部3人やヒアリ、クロエもこちらに頼むという視線を向けている。


 ナナエは力強く頷いて、


「行ってきます」


 そう言って爆弾破蓋が爆発し続けている大穴に向かって歩き出した。


 ――と、ここで携帯端末になにかの着信が入る。ナナエはポケットから取り出して確認すると、生徒たちからの応援メッセージがたくさん届いていた。


【頑張ってください!】

【応援してます!】

【絶対に負けないで!】

【帰ってきてね!】

【あんな怪物に勝てるのはあなただけです!】


 声援にナナエはふっと頬を緩めていた。


 ……しかし、俺はメッセージを見てなにか妙な違和感を感じる。なんだ? なにかおかしい……


【すごいナナエちゃんはあんなのにも勝てる力があるんだね】

【強そうな敵だけどきっと倒せるよ!】

【私たちじゃ蒸発しちゃうかも。でも英女のナナエなら!】

【頑張って!】

【負けないでください!】

【今までも平気だったんだから今回も大丈夫だよ!】

【なんたってナナエさんは不死身だから!】

『おい、なんかおかしい。一旦その端末の画面消せ』


 俺は反射的にこれ以上読むなというが、ナナエの耳には届かなかった。


【すごい破蓋の力……今までと違うけどナナエなら大丈夫!】

【今までも平気だったんでしょ? 今回も大丈夫だって!】

【すごい爆発で身体が消えても復活できるよ!】

【蒸発しても大丈夫! 今までだってそうだったんだから!】

【今回だって大丈夫だよ!】


 ナナエは読むのをやめない。

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