第231話 先生が本気出してきた

 屋上で待ち構えていたのは絶望という表現しか出てこない光景だった。大穴のところから核爆弾でも炸裂したかと思うほどの巨大なきのこ雲が立ち昇っている。なんだありゃ、一体何が起きたんだ。


 やってきた俺たちを見たミミミは口をとがらせて、


「おせーぞ。ちょっと前に4発目が来たのを見逃しちまったじゃねえか」

「4発目とは何のことですか――」

「くーるーぞー! みんな身をかがめて地面に這いつくばれー!」


 ナナエの声を遮ったのはハイリだった。双眼鏡でじっと大穴の方を見ていたが……

 

 次の瞬間、猛烈な閃光が俺たちに遅いかかった。その直後に激しい爆音と衝撃波が俺らを吹き飛ばそうとしてきた。


「ひゃああああああああああああああ!」

「ヒアリさん捕まってください!」


 ふっとばされそうになるヒアリをナナエが抱きしめて支える。


 その後、少しして衝撃波が収まり、ナナエは立ち上がったが目の前で起きていることに呆然とするしかなかった。


「なんですか、これは……」

「こ、怖い……」


 同じものを目にしたヒアリは怯えた目をしている。

 さっきもきのこ雲があったがその下からさらに新しいきのこ雲が立ち昇っていた。


(なんじゃいこりゃ、まるで大穴が大噴火したみたいだぞ)

「噴火? 確かに大穴の底は溶岩で溢れかえっていましたが……くっ!?」


 また目の前で激しい爆音が起きて衝撃波が襲ってきたので屋上の床に伏せる。噴火にしてもおかしい。きのこ雲みたいな巨大は噴煙がこれだけ短時間の間に何度も大爆発が起きる噴火なんてありえるのか?


「ちょっと! 呼ばれたから来たのにこれはどういうことなの!?」


 クロエが床に伏せたまま抗議の声を上げていた。隣では生徒会長が床に臥せったまま器用に首だけ上げてきのこ雲をじっと見つめている。


 ミミミは慣れてきたのか伏せにならず立て膝のままノートパソコンを弄りながら、


「あたしらにもさっぱりわからねえが、とりあえずヤバそうなので生徒会長とナナエたちは呼んだんだよ」

「そんな適当な理由で……って、大穴の入り口には内部を撮影していた監視装置があったはずでしょ。それで何が起きたのか確認しなさいよ」

「そんなもん最初の一発目の爆発で壊れてるっての」


 ミミミがノートパソコンの画面をクロエの方に向けてくる。『通信不可』とデカデカと書かれていただけだった。それを見たナナエが、


「爆発が起きる前の映像はないんですか? もしかしたらなにか情報があるかもしれません」

「あたしもそれは考えたけどよ……」


 録画していた映像を再生するミミミ。映っていたのはいつもの殺風景な大穴の入り口だったが、突然画面が乱れて消えてしまった。恐らくあの大爆発で壊れたんだろうが……


「何度も見てみたが、手がかりになりそうなものが映ってねえ。一体全体何が起きているのかあたしらもさっぱり――ぐえ!」


 ここでまた大穴で大爆発が起きて激しい衝撃波が学校ごと揺るがした。

 それを屋上の床に伏せてやり過ごしていたヒアリが、


「な、ナナちゃん。カーテンちゃんが今までにないぐらい怯えちゃってる。恐ろしくて逃げ出したいほどのなにかが近づいてきてるって……」


 カーテン野郎はピクピクと震えていた。いつもはぱっと見た目では何を考えているのか読み取れなかったのに今ははっきりとビビっているのが見て取れる。

 こいつがこんな反応の仕方をするってことは……


「破蓋ですね。まだ正体は見えませんが、恐らく大穴の中にいるのでしょう。そこから絶えず爆発という攻撃を続けていると考え――くっ」


 ナナエの口が大爆発の衝撃で止められる。今度の爆発はさっきのより大きい。大穴周辺にある廃墟が燃え始めていた。


 その時だった。伏せたままだった会長が起き上がると、


「生徒すべてをこの学校敷地外へと退避させる。施設も私物もすべて破棄だ。身軽な状態で、外とつながっている道の前に集める。クロエ。執行部と力を合わせて指示を出してくれ」


 いきなりの生徒会長の指示にクロエは驚き、


「会長、ちょっと待ってください。この学校は破蓋と戦うための前線基地です。まだ敵がなにかわからない状態で学校そのものを放棄するのはまだ早計だと思いますが……」


 その反論に会長はすっと大穴のきのこ雲を指差し、


「最初は大穴の底の方から噴煙が上がり、まるで噴火のようだった。これは破蓋が大穴の下の方にいて、爆発の範囲が大穴周辺以外に及ばないかったからだろう。しかし、次第に噴火ではなく爆弾が爆発したような形の爆発に変わりつつある。つまり……」

「破蓋がもうすぐ大穴から出てこようとしている……」


 ナナエがはっとその意味を理解した。

 今までの破蓋による攻撃は大穴内部で大爆発を起こしていたため、爆発は周囲に撒き散らされず、噴火のように真上に上がっていっていた。しかし、ここ数発はこっちにも被害が出始めている。つまりもう大穴から出る寸前であり、このままだと地表であの大爆発が起きることになる。生徒会長はこう判断したのだろう。確かにあの爆発が地上で起きたらやばい。


 クロエも納得がいき、


「執行部の連中を集めます。他の人達も退避準備してて!」


 そういって屋上から出ていった。

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