第230話 緊急事態

 翌日、生徒会長が体育館に生徒たちを集めて、最近の状況について説明をしていた。

 先生が破蓋になっていたこと。

 先生が外に出ていたこと。

 外に出たあとに政府にこの学校の生徒が破蓋と手を結んでいたとデマを流していたこと。

 学校に襲撃者が現れたが、英女の活躍で敵味方誰も死ぬことなく解決できたこと。

 政府は先生を逮捕しようとしたがすでに逃げられたこと。

 先生は現在行方不明でここに帰ってくる可能性もあること。

 政府は与野党での議論がずっと続いているだけで進展がないこと。

 とりあえず、今のところこの学校は安全であること。


 これを聞いていた生徒たちは困惑したり泣いたりし始める。適正値の高めの生徒はみんないい子だからな。先生に裏切られたと聞いてショックを受けないわけがない。

 一方の適正値の低めな生徒たちの集まりである生徒会やらなんとか委員とかの集まりである執行部のほうが割と冷静に受け止めていた。クロエから事前にことのあらすじを聞いていたとは言え、いつかそんなことをする人かもしれない、という先生に対する見方が昔からあったおかげだろう。

 この学校的に優秀な生徒のほうが動揺して成績が低いが落ち着いているとはなんとも言い難い状況だ。本来この学校の連中には見せるべきじゃない大人の面倒臭さが持ち込まれると低いほうがまともな判断ができるのは皮肉すぎる。


 ナナエ(と俺)はその話を整列しながら聞いていたが、


(やっぱりこの学校にクソな大人の世界は見せたくねーなー。良い子がクソみたいな大人の世界のせいで右往左往とか気分が悪くなるぜ)

(何を言っているんですか。私達もいずれ元の生活に戻らなくてはなりません。そういった現実とも向き合う覚悟が求められるんです)

(そんな現実いらねーだろ。クソなもんなんだからぶっ壊せよ。いっそのこと本気でこの学校を革命勢力の拠点みたいにして世界にケンカでもうるか)

(物騒なことは言わないでくださいよ――)


 そこまで言ってから口を止める。そして、しばらく考えた後に、


(しかし、政界への進出は興味ありますね。おじさんのような腐った大人がこの世界にも蔓延しているのであれば変えていかなければなりません。そのためにはまずこの学校の生徒を中心に縁者へ協力を求め、票田を作っていけば可能性も……)

(話が飛びすぎだ。そもそもお前未成年だし当分無理だろ)

(それはそうなんですが……長期的な計画を立てるのなら早いほうがいいでしょう)

(そんなことをしている間にお前のほうが大人の世界に巻き込まれちまうぞ。やるなら英女としての戦果をアピール――主張して、超法規的措置的に未成年大統領みたいになってしまえよ)

(それこそ話が飛びすぎですよ)


 俺たちが無駄話をしている間にも生徒会長の話が続いている。いつもなぜか後ろ向きで話しているせいで顔を見れてなかったが、今日は普通にこっちを見て話している。長身の和風美人顔だ。和服や浴衣を着ると似合いそうなタイプ。ムフフフ……俺の好みに近いね。


 俺がそんなことを考えていたらナナエが察知したらしく、


(気持ち悪いからやめてください。ヒアリさんといいおじさんは発情しすぎです)

(うっせ。可愛かったり美人に発情するのぐらいは許せよ。本人には言ったりしないから迷惑もかけないぞ)

(私には丸聞こえなんですよ!?)

(まあそんなことより――)


 その瞬間だった。突然とてつもない爆音が体育館を激しく揺るがす。


(なんだぁ!?)

「爆発音!? 一体どこから――」


 そうナナエがいいかけた次の瞬間に今度はさっきよりも大きい衝撃が体育館を再び激しく揺さぶった。突然のことで生徒たちは足がもつれて倒れてしまう。あちこちで悲鳴があがり、無事な生徒が手当をして身体を支えたりし始めた。


 ここでナナエの携帯に着信が入った。相手はミミミからだ。


『おい、今すぐ屋上に来てくれ! 生徒会長とヒアリも忘れるなよ!』

「何があったんです!?」

『口で説明するより実際に見たほうが早い! 急げ!』


 ミミミも相当慌てている。こりゃただ事じゃないことが起きているっぽいぞ。

 

 ナナエは即座に別のクラスにいるヒアリのところに向かう。そこでヒアリは倒れて怪我をした生徒たちの手当を試みていた。


「ヒアリさん! 緊急事態です! すぐに屋上まで来てください!」

「え、で、でもみんな怪我してるよ! 助けないと!」

「そこは私達にまかせてもらっていいわよ」


 ここに合わられたのは風紀委員のクロエだった。さらにその後ろには病院でよく見る赤い十字マーク(この世界にもあるのかよ)をつけた生徒たちが並んでいる。

 

 クロエはヒアリを立ち上がらせると、


「こんなところまで英女が活躍し始めたら保健委員の出番がなくなるでしょ。こっちは全部専門の人たちにやってもらうから、あなたは自分のできることがある場所に行ってきなさい」

「はっ、はいっ!」


 なぜかクロエに敬礼ポーズをするヒアリ。そこにちょうど生徒会長もやってきて、


「なにがあったんだ」

「まだ不明ですが、ミミミさん――工作部から校舎の屋上に来てほしいとのことでした――」


 ここで更にまた激しい爆音が鳴り響き、凄まじい衝撃が体育館を激しく揺らした。再び生徒たちにパニックが起きて救護もままならない。


(おいおい、なんかどんどん大きくなってないか!?)

「急ぎましょう!」

「会長も! 私もいきます! けが人のことは任せたわよ!」

「……ああ」


 ナナエたちはすぐに体育館を抜けて屋上へ向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る