第228話 完全試合達成

 全員制圧が完了したのを確認したクロエが携帯を取り出し、


「会長。こっちは全て片付きました……ええ、襲撃してきた敵も無傷ですが拘束状態にあります。長く置いておくと問題が生じる恐れがあるので、早急に政府側に引き渡すように取り計らってください」

『手はずは既に整えてある。すでに学校敷地入り口には政府の部隊が到着しているので、あと数分で回収されるだろう。問題が起きないように全員はその場から離れるように』

「さすがに早いですね……ありがとうございます」


 そう言って俺らは少し離れたところに移動した。

 数分後、政府の軍隊が車両でぞろぞろやってきて、縛り上げられた戦闘員たちを回収している。


 それを物陰から見ていたミミミはチッと舌打ちして、


「もっと早くきやがれってんだクソ。これじゃあたしらが死になっただけじゃねえか」


 しかし、クロエは首を振り、


「いいや、丁度いいところで来てくれたわ。もしこっちで敵を抑えてなかった場合、この学校で銃撃戦が起きて血まみれの大惨事になったわよ」


 おそらく生徒会長が政府の協力者に連絡を入れて、あの戦闘員たちを制圧するために部隊が送り込まれようとしていたのだろう。戦闘員側も抵抗するはずだから、殺し合いに発展していたのは間違いない。この学校が戦場になって人間の死体まみれとか悲惨なことになったらと思うとゾッとする。


「……これも先生の策の一つだったんでしょうか」

(有り得る話だな)


 ナナエがポツリといい俺も同意する。

 とはいえそれを狙っていたというより、戦闘員を送り込んで英女学校の生徒を皆殺しにすれば学校は壊滅で目的達成、ナナエかヒアリが反撃して人殺しの責務を背負って適正値が下がって戦えなくなれば学校側は大ピンチで目的はある程度達成、政府側が止めるために軍隊を送り込んできても学校でドンパチが始まって凄惨な自体になり生徒たちの適正値が下がってまあそれなりに目的達成と何重にも保険をかけてあった感じだ。しゃらくせえ。


 しかし、先生の目論見は完全に失敗した。ヒアリが全員無傷で戦闘員を縛り上げるなんて神業をやったおかげでな。


(まさにパーフェクトゲームってやつだ)

「ぱーふぇくとげーむってなんですか」

(スポーツ――競技とかで相手に何の得点も与えずに一方的な完全勝利をすることぐらいの意味だよ)


 野球のルールを説明するのが面倒なので適当に説明しておく。ナナエはふむとうなずいて、


「悪い気分になる言葉ではないようですね」

「そんなことより早く回収して出ていけよ……ハイリとマルの無事を確認したいってのによ!」


 ミミミがイライラしている。ここでノコノコ出ていくと別の問題が出てくるかもしれないから去るまでおとなしくしているしかないんだが。


 ほどなくして、政府側の部隊の車両が全て学校から出ていった。

 それに合わせてミミミは校庭へ飛び出しハイリとマルのもとに向かった。ナナエも眠ったままのヒアリを背負って走る。クロエはまだ走れるような状態じゃなかったのであとから歩いてきていた。


 そして、ハイリはすぐさま下水処理場の近くに止まっていた壊れた自動車の下を覗き込む。


「大丈夫か!?」


 そう呼びかけるとごそごそとハイリが出てきて、


「あー、なんとか無事だったよ。ちょっと擦り傷出来て砂が口に入ったぐらいだなー」

「私も無事ですぅ~ああ、でもここって本当に現実ですよね? もしかしたらここがすでに天国だったりしてええええ」


 よくわからないことを言いながらマルも出てきた。

 そんな二人をミミミは思いっきり抱きしめると、


「良かった……本当に良かった……! あと悪い! 今回の作戦の失敗は全部あたしにある!もっとあたしが考えておけばお前らこんな目に合わせずにすまなかったのにっ! 本当にすまねえ!」

「何いってんだよー。あたしらもミミミの話を聞いたから賛同したんじゃん? だったらミミミだけじゃなくてあたしたちの責任でもあるのさー」

「たっ、確かに私にも責任はあります! なぜ私が神々様に選ばれて英女になり予知能力を授けられなかったのか!? それさえあればみんなを助けられたのにくやしいいいいいいいいい!」


 そうみんなで謝りだす工作部三名。何やってんだかと呆れていたが、


「やらせておきましょう。ああいうことをして絆を深めているんですよ。あれが三人の生き方として見守るべきです」

(そういうもんかねえ)


 ナナエの言葉に俺はふーんという感想しか出てこない。まあ三人ともやりたがっているし俺らが口を挟むべきではないしな。


「ふえええええええええええええん! なんかよくわからないけどみんなの友情を見てたらなんか泣けてきちゃったよぅ」


 いつの間にか工作部の間に割って入るヒアリがいた。さっきまで眠っていたがいつの間にかナナエの背中にはもういなかった。騒ぎを聞いて起きたのだろう。


 そのあたりでやっとクロエがやってきて、すぐに手をたたき、


「はいはい、慰労会が終わったのなら工作部全員は健康診断するわよ。変な怪我があるかもしれないからね!」


 そう言って工作部全員の手をつないで保健室へと向かっていった。


 それを見送っていたナナエはふっと口を緩める。


「ぱーふぇくとげーむ……とてもいい言葉の響きです」

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