第227話 今日も強いぞヒアリさん
校舎の隅からヒアリの戦いっぷりを見ていた俺らは唖然とするしかなかった。
ヒアリが一通り人間の縛り上げ方をマスターしたあたりで、侵入してきた戦闘員が移動を始め、校門から寮に向かって移動し始めていた。このままじゃ生徒が皆殺しにされるということで作戦決行。というわけでヒアリが立ちふさがる。
ちなみにその前にヒアリが一言ナナエやクロエに聞いてきたことがある。
「この学校からどっち側が誰もいない場所なのかな?」
俺は意味がわからなかったし、ナナエもわからなかったようだったが、とりあえず方角を教えておいた。
その意味が今になってわかった。戦闘員たちが次々にヒアリめがけて銃撃してきたが、自分に当たりそうな弾を全て両手の鉈で弾き飛ばしていた。それだけでもすごいのに、弾いている先が教えた方角、つまり誰もいない場所なのである。ヒアリは弾いた弾丸が敵味方の誰にも当たらないように心がけているのだ。
しかも戦い方にも相当気を配っていて、戦闘員たちが同士討ちにならないようにあまり広範囲に動かずに一方的に撃たれ続ける位置と距離をとってる。見ている方がハラハラするぞこれ。
だが、このままだと永遠に決着がつかない。あるいは戦闘員たちの弾切れを待っているのかと思いきや、
「――――っ!」
ヒアリが消えた――と思ったら戦闘員の1人の目の前に移動してる。
「お願い!」
掛け声とともにヒアリのマントになってるカーテン破蓋が戦闘員の1人を包み込んだ。そして、袋詰にしたあとにすぐに後退する。そして、距離をとった瞬間にカーテン破蓋の中から戦闘員を取り出し、一瞬で腰に据えていたロープで全身ぐるぐる巻きにしてしまった。
この間、感覚的には3秒もなかったと思う。俺だけじゃなくて敵である戦闘員ですら何が起きたのかわからずヒアリに対して攻撃をやめてしまっていたほどだ。
ようやく戦闘員側もヒアリに銃撃を再開するが、これでは仲間の戦闘員にもあたる状態だったので全て鉈で弾き返した。ここに縛り上げた戦闘員を置いておくと巻き込まれると判断したのか、すぐに抱えあげると近くにある倉庫の裏手に置いていくる。そして、すぐにヒアリはそこを離れて、攻撃を自分だけに向けさせるようにした。
間髪入れずに今度はヒアリは高く上昇する。そして、弾道ミサイルのように真上から戦闘員たちの目の前に着地。そのうちの1人を捕まえると、また空に上昇し飛んできた弾丸を安全な方に弾きつつ、空中で縛り上げ、また校舎の裏手に置いた。
配慮配慮配慮配慮の連続だ。敵だろうが味方だろうが絶対に傷つけないという半端ない意志を感じる。
「おいおいマジかよ……銃で撃たれまくってる相手をあそこまで気遣えるものなのか?」
それを見ていたミミミは呆然としてしまっている。ナナエも驚きのあまり見守ることしか出来ていなかったが、
「ヒアリさんは考えたいことがあると言ってました。おそらくどうやったら全員一つの傷も負わせること無く、敵の襲撃を撃退できるのか考えていたのでしょう。らしいと言えばらしいですが、ここまで来るとすごすぎて呆れを通り越して感心しますね……」
俺らがただただ見守る中、ヒアリの全員無傷無双は続く。次々と縛り上げては校舎の隅に置いていった。気がつけば、戦闘員も1人だけになっていた。
「なんだんだこいつは!?」
自分が一体何をされているのか理解できないのか最後の戦闘員が悲鳴みたいな声を上げる。持っていた自動小銃の弾が付きたようで投げ捨てると、代わりに大型の軍用ナイフを構えた。そして、走り出しヒアリに斬りかかる。
しかし、ヒアリはきれいな動きでそのナイフを見切って全てかわしていた。まるで数秒先の未来が見えているかのような感じだが、神々様の力を定額使い放題なヒアリなら本当に見えていてもおかしくない。
とはいえ、戦闘員を刃物を持った状態で縛り上げると転んで自分自身に刺さる恐れがある。ヒアリはどうするつもりだと思いきや、ナイフを両手でパンと挟んで、
「ふんっ」
そう大仰に鼻息を飛ばすと、簡単にナイフの刃の部分だけをへし折ってしまった。これではただの柄でしかない
「なっ――」
とか戦闘員がビビっている暇もなく、速攻でヒアリに縛り上げられてジ・エンド。これで全員制圧完了だ。
全員無傷。擦り傷一つ負ったものはいないだろう。まあロープできつく締め上げてるから縄のあとはつくかもしれないが、銃持って戦う訓練を受けているような連中だからそんなものは負傷のうちには入らないと思うし。
(……すげえ)
俺はもうこれぐらいしか言えない。いつも強いぞヒアリさんと言っていたが、まさか1人も傷つけて片付けるなんてのを本当にやってしまうとは……いや、それを実行できるのはヒアリだけっていったけど、こんなに完璧にやると流石にビビる。
「ふえ~、疲れたよぉ」
戻ってきたヒアリはそう言ってナナエに倒れ込む。そして、すぐに眠り始めてしまった。
「……お疲れさまでした」
そう言ってヒアリは背中を擦ってやっていた。
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