第225話 逆に勝機が見える

 生徒会長の話にナナエと俺は頷く。もし政府が公式に英女学校を攻撃するなら戦車やらミサイルやら戦闘機がたくさん飛んできて叩き潰しているだろう。学校のシステムをハッキングして混乱に乗じて攻撃なんて小賢しい真似をする必要がない。

 

 ふとここでナナエが部屋の壁のところで体育座りをしているヒアリに近づき、


「大丈夫ですか? 気分が悪いのなら横になっていたほうがいいかもしれません」


 これにヒアリは小さく首を振って、


「ううん、大丈夫だよ。いろいろあっていどろいちゃってるところがあるかもだけど、それよりも今のうちに考えてみたいことがあるんだ」

「話なら私が――」

「ちょっとまだ自分の中でまとめたいかも。そうしたらちゃんと伝えるよ。ごめんね」


 そう可愛く顔を傾かせるヒアリの顔はまさしく次元を超えた神の作った奇跡。


「バカなことを言ってないで話を進めますよ」

 

 ヒアリは窓の外をしばらく観察していたが、


「襲撃者の数はそう多くありません。10人程度だと思います」

『ならば、政府とは別の思惑で送り込まれた戦闘員だろう。学校外では英女や破蓋の扱いに不満がある宗教的な組織もあると聞いている。おそらくそういった組織の者を先生がそそのかして動かしたと考えるべき』


 ここでクロエがいやらしく笑みを浮かべ、


「てことはあの襲撃者を撃退すればこっちに有利な状況になるってことですね」

『その通り。そのためになんとしてでも襲撃者を撃退する必要がある』

「……どういうことだよ?」


 珍しくミミミがクロエに尋ねる。ミミミもやや混乱しているのかもしれない。

 クロエは少しだけ起き上がると、生徒会長とつながる電話をナナエに渡してきた。そして、その話を聞く。


『今回の件は先生が私的なやり方でこの学校を襲撃させた。この国の議会制であるため軍事作戦を行う場合は必ず議会の承認を得る必要がある。しかし、今回の攻撃は明らかに許可を得て無くてそのまま攻撃を仕掛けてきた。おそらく先生の策謀によるものだろう』


 ここで生徒会長が一息を入れてから再度続ける。


『先生が議会の判断を待たず、どこかの非合法組織と結託して英女学校を襲撃させた。この事実が知らされれば重大な法に背く行為だとして逮捕できる。先生の英女学校への攻撃の進言もしばらく止まるだろう。先生は身柄を拘束されるなどの対応を取られる。本当に先生が破蓋になっているのであれば簡単に捕まりはしないだろうが、これ以上はデマを流すことはできなくなる。私達の方に有利な展開になる』

「これは……確かに行けそうです。しかし問題もあります。あの襲撃者たちをどうやって倒すかです。数は多くないですが、明らかに訓練されています。敵の命を奪う可能性を考えておいてください」


 このナナエの指摘に会長はしばらく黙っていたが、


『任せる。好きにやってくれ』


 そう許可を出した。

 となりで端末から出てくる声を聞いていたミミミは腕をまくりあげて、


「へー、あたしらの好きにやっていいってことか。そりゃ助かる……ハイリとマルをやってくれた仕返しをやらせてもらうぜ!」

「落ち着きなさい。あんたらのことだから爆弾でも放り込んだりするんでしょうけど、もし相手を殺してしまった場合、警察が来るわよ。殺人犯だからね」

「こちとら命を狙わてんだぞ! そんな事を考えている場合じゃねえ!」


 ミミミはすっかり仇討ちモードになってしまっている。ハチマキを頭に巻きそこにろうそく数本を指している。ただのやばいやつにしか見えない。


 ここでナナエが首を振って、


「ミミミさんの申し出はありがたいですが、能力的に問題があります。嫌味ではなく英女と英女候補生では差がありすぎるという事実の話です。なのでここは私が1人であの襲撃者を全員倒します」

(絶対反対)


 ナナエの話に真っ先に反対したのは俺だった。

 するとナナエは目くじらを上げて部屋の隅に移動すると、


(なぜですか! ミミミさんからの攻撃で敵はしばらく周囲を警戒しているとは言え、時間的にそろそろ動き始めるはずです。急がなければならないんですよ!)

(お前、あの戦闘員たちをどうやって片付けるつもりだ?)


 俺のちょっと真面目な感じでの質問にナナエはやや驚いていたが、


(決まっています。大口径対物狙撃銃で全員始末します)

(やっぱり絶対反対)

(なぜです!?)


 ナナエはさらに目くじらを立てているので、俺はため息をついてから、


(あのな? 人の命を奪うってのは大変なことなんだよ。相手は戦闘員だから死ぬ覚悟できているかもしれないがろうが、いきなり襲われたこっちは訓練も何もしてない。そんな状態でナナエが人間を殺したら間違いなく精神的なダメージ――損傷を受けてグダグダと陰気な空気になるわけだ。そんなもんに俺は付き合いたくない)

(今はおじさんのわがままを聞いている場合ではないんです)

(それもわかってるよ。それにナナエが人殺しをしたせいで適正値が下がればどうなる? 神々様の力を使えなくなり、英女を止めるしかなくなるわけだ。さらに敵とはいえ、目の前でたくさんの人間が殺されていく光景を見て、ヒアリたちはどう思うか。ショックを受けるのもあるだろうが自分がなんとか出来なかったのかという自責の念に駆られるはずだ。俺はそれが先生の目的の可能性だと疑っている)


 俺の話にナナエはしばらく考えてから頷き、


(た、確かに有り得る話だと思います。しかし、それではどうやって襲撃者たちを倒せばいいのかが……)

(それには俺に一つ考えがある)


 そして、俺はヒアリの方を向き、


(自分でもこんなことしか思いつけないのが情けないが、唯一の先生に対する完全勝利のやり方だ)

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