第224話 思いがけない戦果
俺たちは校舎の隅の部屋に隠れていた。入り口がない部屋というか空間である。一応窓の隅に小さい窓だけはあるが出入りできるような大きさはなかった。
元々校舎の外れにある細長いうなぎの寝床みたいな倉庫だったのをミミミたちが入り口を塞いで壁みたいにし、屋根裏を通る以外入れないようにしてあったとか。理由は風紀委員に追いかけ回された時の逃げ場所らしい。
「全く……こんな部屋を用意してたなんて……どうりでたまに逃げ切られるわけだわ……」
やや落ち着いたのかクロエが寝かされた状態で文句を言っていた。ただやはり声も身体も小刻みに震えが止まっていない。いきなり銃で撃たれたんだ。そりゃ精神的にもやばいことになる。
俺がちらりとヒアリを見ると、困ったような顔で体育座りをしていた。こんな可愛そうな感じだととてもかわいいという感情を思えない。
一方のナナエは小さな窓から外の様子を伺っている。幾度もの修羅場と困難と悲劇に向かい合ってきただけあってこういうときでも冷静にいられるのはまじですげえと感心しかできない。
「くそがっ!」
で、残る1人のミミミだが小さく怒鳴りながら床を拳で叩いて怒りをあらわにしていた。
「ミミミさん、大声を出してはいけません。当然物音もです。気持ちはわかりますが、発散するなら他の方法でお願いします」
そうナナエは窓の外を見守ったままミミミに言った。これを聞いたミミミはすてーんと身体を大の字に倒すと、
「……最高にやっちまったぜ。さっきの学校の装置の乗っ取りは、それだけで終わらず同時に武力を使った攻撃を仕掛けてくるところまでが計画だったんだ。おそらく下水道を移動してきて、下水処理場の床を爆破して通れるようにするまでは時間がかかる。乗っ取りをやっている間にすでにそとの連中はすぐに攻撃を始められるように準備万端だったってわけだ。こいつはあたしの失態――いや大失態だ!」
ここで大きくため息をついて、
「なんでこんなことをおもいつけねーんだよクソッ。普通に考えれば乗っ取りだけで終わるわけねーじゃねーか……自分の考えを過信していた末路ってわけだ。ハイリとマルになんて謝りゃいんだよ……クソめ」
今度は落ち込んでしまった。いろいろあったことを全部吐き出したんだろう。それでハイリとマルのことを思い出した。なんせ、あの戦闘員たちの直ぐ側に置いてあった自動車の下に隠れてる。なんとか助けなければならんが……
ここでナナエがこっちにこいと手を振りつつ、
「いえ、ミミミさんはかなりの戦果を上げたと思います。ちょっとこちらを見てください」
「……なんだよ?」
ミミミも覗き込んだ。
侵入してきた戦闘員たちは今は校舎の影に集まって動いていない。こっちは中学生しかないし一気に暴れまわるのかと思いきや意外だ。
ナナエは戦闘員たちを凝視したまま、
「ミミミさん、最初に敵が現れたときに窓ガラスを割ったでしょう? それに続けて信号弾のようなものも発泡しています。あと爆竹も鳴らしました」
「ほとんど効果なかったぞ。だいたいあれはおもちゃ用で倒すとかそういうのができるようなものじゃ――」
「いえ、ミミミさんが使った攻撃方法よりも、攻撃したという事実が重要なんです。特に下水道から校庭にでてきてから数十秒程度もかからずにミミミさんの攻撃が行われました。つまり、襲撃してきた相手は行動を察知されこちらが待ち構えていたという考えに至った可能性が高いんです。そう考えると、状況を確認するためにうかつに動かないのにも納得できます」
ナナエの冷静な判断にミミミは疑わしい感じで目を細めて、
「無理やり褒めたって意味ねえぞ?」
「無理矢理ではありませんよ。ミミミさんが良い判断をしてくれたおかげでたくさんの命が救われたことです」
そう言われてミミミはふんと鼻を鳴らし、
「……そういうことにしておく。やることはくさるほどあるしな」
頭を切り替えたようだった。
ここでクロエの携帯端末がブルブルと震え始めた。通話できるのかよ。
クロエはまだきつそうなのでミミミが通話ボタンを押し音量を上げて全員に聞こえるようにする。
『……………』
が、無言のままだった。それを確認したクロエが、
「会長。話しても問題はありません。今は校舎の安全な部屋に立てこもっていますし、襲撃者もまだ校庭の一部から動いていないのを確認しています」
『……そうか。よかった。全員無事か?』
どうやら黙っていたのはこっちに先に話させて問題ないかどうか確認したかったようだ。
クロエはそのまま、
「残念ですが、二人ほど校庭に取り残されました。工作部の二人です。他の人は全員無事ですが、私は少々傷を負ったので休んでいます」
『英女の二人は?』
「問題ありません。早急に工作部の二人を救助したいところですが、襲撃者の正体がわかりません。おそらく先生が送り込んできたものだと思いますが……」
『こちらでも政府側の協力者と連絡をとり確認した。この学校への軍事行動は政府では承認されていない。そのため非合法に攻撃を行ったものたちがいる』
政府の知らないところで攻撃。襲撃者は非合法な戦闘員。やはり先生の仕業か。
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