第223話 人間の敵は人間とかやめてくれ
地下から出てきた連中はここからでははっきりとは見えない。しかし、向こうもまだ俺らの存在には気がついていないようだ。
ここでクロエが口を押さえて声を出さないようにしつつ窓から校庭の一部を指をさす。そこには工作部が前に作って放置していた掃除機能付きの自動車が放置されていたが、その下にハイリとマルがいるのが見える。どうやらとっさにそこに逃げ込んだらしい。
一方、地下から出てきた人間たちの姿が月明かりで見えるようになっていた。黒ずくめ、左手には大きな盾、右手には中位サイズの自動小銃が握られている。間違いない。こいつらは軍隊か警察のどっちかの戦闘員だ。
「どけえ!」
ここでミミミが急に生徒会室の椅子を持ち上げると窓を叩き割った。そして、身を乗り出して、
「おいこっちだ! かかってきやがれ!」
そう言ってポケットから取り出して銃らしきものを発砲する。赤い弾が戦闘員たちめがけて向かう。
しかし、持っていた盾であっさり弾き返されてしまった。見た感じミミミが使ったのは信号弾のようなものだったので効くはずがない。てことは……
「――伏せろっ!」
「ヒアリさん伏せてください!」
ミミミとナナエの同時に生徒会室に響きわったった瞬間、窓ガラスが全部ぶち破られた。ダダダダという激しい銃声とともに生徒会室の壁や天井が次々と破壊されていく。
「ナ、ナナちゃん……」
「大丈夫です。この角度なら当たりません。ミミミさんそっちは大丈夫ですか!?」
ナナエがヒアリに覆いかぶさった姿勢で、隣にいるミミミに声をかける。そっちもクロエを抱きかかえて無事をアピールしていた。ミミミは薄幸の美少女みたいな容姿だが度胸の方は口調と一致しているようだ。
しかし、クロエのほうがやばい。強気に風紀委員として活動していたとはいえ、いきなり銃撃を食らった状況にかなり怯えている。
ミミミはまたポケットの中に入れてあったなにかに火をつけてから窓の外に投げつける。銃声に混じってバンバンとなり始めたのと聞く限り爆竹を投げたようだ。少しでも向こうの気をこっちに向けようとしているのだろう。理由はハイリとマルが見つからないようにするためか。
ミミミはクロエの身体を支えつつ、
「とにかくここから逃げるぞ。向こうが辿り着く前に別の所に移動できなきゃ皆殺しだ」
「み、皆殺し……!?」
それを聞いたヒアリが悲鳴を上げてしまう。この場合自分が死ぬというよりミミミたちの方のことをあんじてのことだろう。
ミミミはクロエに伏せたまま動くように促すが、
「ご、ごめん、なさい。腰が抜けて身体の震えも止まらなくて……」
(おい、お前が背負って言ったほうがいいんじゃねえか? ミミミにクロエを担がせるのは体型的に無理だろ)
(確かにそうなんですが……)
ナナエが内心の言葉で俺に視線を向けさせた先にはヒアリがいる。クロエほどではないにしろ、かなり震えて動揺してしまっている。このままでは走ることもままならないだろう。
しかし、置き去りにするなんて事はできない。ならヒアリを安心させるしかない。
(おいヒアリ。今、すげえ大変な状況だよな)
それに何度も首を振って答える。俺は続けて、
(俺は色んな所に仕事に行ってトラブルにも巻き込まれていたから結構こういう状況での対応は心得ているつもりだ。今から俺が言うことを実践すればいいぞ)
(な、何をするのっ。なんでもするよっ)
何でもするとか危険なワードを言われて俺のほうが一瞬ビビったが、すぐに落ち着いて、
(いいか何も考えるな。それでナナエの言ったとおりにだけ動け。その際に敵のこととか周りのこととかも何も考えるな。全ての判断をナナエにしてもらうだけ。できるか?)
(う、うん……うん! やるよ!)
(失敗したときは俺が責任持つからそんときゃお詫びに何でもするわ)
(詫びをするのはおじさんではなく私です。私も賛同しますので。ヒアリさん伏せのまま移動して生徒会室から出てください。外の廊下で待機を)
「りょっ、りょーかいっだゆっ!」
焦りで舌を噛んでしまっていたが、とりあえず教室の外へと向かい始めた。
次にナナエはクロエのところへ行き、
「怪我はありませんか?」
「倒れたときにちょっと腕をぶつけたけど多分何でもなさそう。こめんなさい。しっかりしてればこんな……」
「あのような状況では対応できる方がおかしいんです。なのでこういうのは私達英女の仕事になるので気にしないでください。ミミミさんと一緒に引っ張って教室外まで出てそこから背負って移動します。いいですね」
「お願い……」
クロエの声は悲痛に満ちている。自分が足を引っ張ったことに対する自責の念か、はたまた自分の命の危機に怯えているのか。
なんとかクロエを教室の外の廊下まで引っ張り出すとすぐにナナエが背負う。
(おい、ヒアリ。ナナエの服の一部を掴んどけ。何も考えずにナナエが進む方向にだけに向かって走れ)
「わっわかったよ!」
さっきよりもちょっと声のトーンが上がっている。これなら大丈夫だろう。
「クソッタレがいくぞオラァ!」
俺たちはミミミの罵声とともに教室の廊下を走り始めた。
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