第222話 クラッキング

 翌日。生徒会長に全て話したところ、


「わかった。その計画を受け入れる。あとは私の責任のもとで好きにやってくれて構わない」


 そう快諾してくれた。


 というわけでさっさと行動に移す。まずは先生が学校のライフライン乗っ取りをやろうという気を起こさせなければならない。恐らく放っておいてもいつか仕掛けてくるだろうが、それでは破蓋が浮上してきたりしている最中だったりする恐れもある。なのでこっちが迎え撃てる状況で仕掛けるべきだというのがナナエや工作部の判断だ。ちなみに寝ていたヒアリには後で話してよくわからないけどいいよーと言われてる。

 

 そのために先生に聞こえる形で今仕掛けられたらやばいてきな話をあちこちでして回った。特にこないだのガスボンベ破蓋の大爆発で校舎や寮がボロボロでこれ以上インフラが破壊されたら学校が持たないという話を特に強調しておく。


 盗聴器に関しては今は取り外さずに放置しておくことにした。外部にデータを送信している回線を見つけられば、あとはそこをいじって送れなくすればいいだけだからな。


 そして、数日後の夜。今日の修繕作業が終わったあと生徒たちが寮に戻った後もナナエたちは生徒会室にいた。工作部はノートPCとにらめっこしながら、先生がこの学校にクラッキングを仕掛けてきた予兆がないか見守っている。その両隣ではナナエとクロエもじっと待機していた。ちなみにヒアリは昼間から学校と寮の数前作業で英女の力をフルに使って手伝い疲れてしまっていたので、生徒会室の隅でカーテン破蓋を寝袋にして眠っている。


 ナナエがあくびを噛み殺しつつ、


「なかなか来ないですね。今日も空振りかもしれません」

「向こうも失敗はできねえって感じなのかもな。こういうのは根気比べで――」


 ここで突然言葉を止めてカタカタとすごい勢いでキーボードを叩き始める。その後手を止めて、ノートPCのディスプレイの一部を指で突っつきながら、


「来たっぽいぜ。さっきまでこの端末でつながっていた電話の制御装置が今は拒絶してる」

「どういうことよ?」


 クロエの疑問に見守っていたハイリが、


「乗っ取られたんですよー。制御装置の中身をいじられたんじゃないかなー」


 クロエとナナエに緊張が走る。だが、ナナエはすぐに、


「しかし、電話の回線は切断されて外部とは繋がりません。そんなところを乗っ取ったところで意味があるとは思えません」

「そうだろうな。だからこそちゃんと乗っ取れるかどうかの試験用に使ったってこった。ちなみに電話の制御装置は設定をいじって乗っ取りやすくしておいたやった」

(すげーな)


 ミミミの自信満々な口調に俺は感嘆しか出てこない。準備は完璧。これならミミミにまかせておいても大丈夫だろう。


 ほどなくして学校の教室の一部で明かりがついたり消えたりし始める。マルが生徒会室の窓から様子をうかがいつつ、


「電気系統の制御装置が乗っ取られました。その次は恐らく水道でしょう」

「さて、こっちも動くか」


 ミミミは指をコキコキ鳴らした後、素早いキーボード裁きでなにやらやり始めた。黒い画面の中で英語文字が流れまくっているが何をやっているのかさっぱりわからない。ナナエやクロエも同様だったが、邪魔をしないために黙ってみておく。


 そして、カチャカチャターン!と打ったあと、


「はい終わり。とりあえず電網住所はわかった」

「ど、どうやったのよ?」


 クロエの疑問にミミミはフフンと、


「乗っ取られた制御装置の一つを乗っ取り返した。あとはそこの接続記録を見て、どこから乗っ取りが来ていたのか確認しただけ。そこの乗っ取り元をさらに乗っ取って今はこっちの制御化にある。スカスカで楽勝だったぜ。先生も適当な仕事してんな。向こうは今頃焦ってるかもしれねぇけど」

「よ、よくわからないけど……」


 電網の住所ってなんだと思ったが、IPアドレスのことでよさそうだな。それならなんとなく意味がわかる。

 クロエはまだ困惑したままだったが、今度はナナエが、


「前もいったとおり電網の住所がわかっただけで、実際にこの学校のどこにあるのかはわからないはずですが、どうするつもりですか?」


 この指摘にミミミはフッフッフと不敵な笑みを浮かべて、


「こういう制御装置には故障が発生したときに警報音がなる仕組みがつけられてんだよ。だからそいつを意図的に鳴らしてやればいいだけだぜ!」


 そういってキーボードを一発強く叩いた。

 沈黙が続く。すぐさまマルとハイリが生徒会室の窓を開けてどこからか音が聞こえてこないか見回していた。


「……聞こえます」


 最初に聞き取ったのはマルだった。両耳に手を当てて音を集めている。さらにハイリも気が付き、


「あそこから鳴ってるみたいだぞー」


 そういって指を指したのは校庭の隅っこにあるコンクリート製の小さな建物だった。ミミミもそれを確認して、


「おい、あれは何の建物かわからねえか?」

「ええっと……確か下水の処理施設だったはずよ――あっ」


 クロエは自分で気がついたらしい。下水といえば下水道。臭くて汚いがそれなりに広い地中を走るトンネルだ。確かにその中ならネット回線を引いて学校につなげることは可能だろう。

 ミミミは首を傾げ、


「下水処理だぁ? あたしらもあそこを確認したけど何もないただの小部屋だったぞ」

「定期的に稼働状況を確認しているはずよ。蓋があってそこから地下の下水処理装置と下水道に降りられる。なにもないなんてそんなはずは……いや待って。もしかしたら先生が細工して隠してた?」


 それを聞いたハイリが立ち上がり、


「ここで話しているより見てきたほうが早いだろー。ちょっと行ってくるわー」

「わ、私もいきますううううううううう」


 そう言ってハイリとマルが工程に飛び出していく。あとは一旦回線を止めて次のことを考えればいい。とりあえず作戦は成功したようだった。


 はずだった。


「……ナナちゃん? いる?」


 突然起き上がったのはヒアリだった。ナナエがそばにより、


「大丈夫ですよ。作戦は順調に終わりました。もう寮に戻って眠っていても……」

「ううん違うの。神々様がなにか危険なことが迫ってるって言ってる。破蓋さんじゃなくてもっと違うのが……」

(破蓋じゃない? じゃあ一体何が――)


 ここで予想外のことが起きた。突然校庭の隅の下水処理装置が大爆発が起きたのだ。


「ハイリ! マル!」


 ミミミが慌てて生徒会室の窓から身を乗り出す。二人の姿は見えない。しかし、月の明かりで別のものが破壊された下水処理場の地下からぞろぞろ出てきていたのが見えた。


 あの動きは破蓋じゃない。

 人間だ。 

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