第221話 ミミミのたくらみ

 ミミミは一回手を叩いて、


「話を戻すが、盗聴器あることがわかったってことは逆にこっちから意図的に情報を流すこともできるってことだ。これを使わない手はねえ」


 クロエは腕組みしたまま、


「先生のほうにこっちが有利になる偽情報を流す方法もできるってわけね。今の状況だと有効な切り札になるかもしれないってところか」

「盗聴されているのに放っておくのはちょっと気分よくないけどなー。あたしらは知ってるからいいけど、学校の生徒たちは知らず知らずのうちに個人的な話も盗み聞きされているわけだし」


 ハイリが困ったという感じで言う一方マルは頭を抱えて、


「お手洗いの中にもしあった場合はすぐに外しましょう! 私が個室でブツブツと文句を言ったりぬいぐるみを締め上げて不満を解消していたのが全部筒抜け! なんてことでしょう! そんなこと許せませんよおおおおお!」

「そんな事やってたんですか……」


 ドン引きしてしまうナナエ。さっきから落ち着かないのはそういうのが全部先生に知られていたという現実に苦しんでいるからだったようだ。


 ミミミが気を取り直して、


「んでだ。今は壊れた学校の修復中だから、あちこちいじったところで盗聴器を探していると気が付かれにくい。なのでバレないように調べていたんだが、妙なことに気がついた」

「なによ?」


 クロエの問にミミミはノートPCの画面を切り替えて、


「この学校にはいろんな設備がある。水道や下水、電気とかそういうのを管理している制御装置があちこちにあるわけだ。そして、その制御装置が全て電網でつながるようになっている」


 電網ってネットのことだよな。ネットワークで全部制御装置がつながってる? どういうことだ?


 ミミミは続けて、


「制御装置が故障したらすぐに警報が送信されて管理しているやつが直しに来たりするからそれ自体はあってもおかしくない。でもここの制御装置にはそんなものはなかったのに、後付で電網につながる通信機器が取り付けられていやがった」

「なぜそのようなものが?」


 ナナエの疑問にミミミは自信アリげに、


「恐らく学校外から制御を乗っ取るためだ。つけたのは先生だろうよ。いつでもこの学校の水道や電気といった制御装置を全て自分の好きなように動かせるようにしてある」

『!?』


 これにクロエとナナエは驚愕の表情を浮かべる。ハイリとマルはすでに聞いていたようでミミミに同意して頷いていた。ヒアリは相変わらず寝てるが。


 クロエは難しい顔で、


「先生はいつでもこの学校の生命線を好き勝手にいじれるような状況にあるってことか……これは対策しないとまずいわね」

「待ってください。外部からといいますが、前に聞いた話では先生はこの学校と外部の通信手段を全て破壊したと聞いています。一体どうやって乗っ取るというのですか?」


 ナナエの疑問にミミミはピンと指を立てて、


「いいところに気がついたじゃねえか。そこでさっきの盗聴の話になるわけだが、先生がこの学校の情報をすぐに手に入れられているってことは盗聴した情報を電網に送信している回線がどっかにあるってことなんだよ。そして、それがあたしらにとっては起死回生のチャンスになる」


 珍しくミミミがチャンスという横文字を使ってニヤリと嫌らしい笑みを浮かべた。そして、続けて、


「その回線をあたしらが使えるようにすれば、この学校の中の情報を外部へと流せるようになる。うまくやれば世界中に向けて発信できるかもしれねえ。今は世界でも情報化社会だから一発流してやりゃ消すことは不可能だ。それで世論を味方につけりゃあとはこっちのもんよ」


 そうフフンといい切った。

 なるほどな。先生がこの学校を覗き見したり乗っ取ったりするために密かに残していたネット回線を見つけて逆に俺らが使えるようにすりゃいいのか。それができればあとはわーたーしーはやってないーむーじーつだーとか動画サイトにでもアップすりゃいいんだな。


 ナナエはほっと胸をなでおろし、


「よかったです。これで先生のでっち上げを打ち消せて学校も守れます。政府の支援があれば大穴の修繕もできますし破蓋との戦いも継続できるでしょう。で、その回線はどこに?」

「わからねえ」

「は?」


 あっさりというミミミにクロエが顔をしかめる。ミミミは肩をすくめて、


「学校の構造図とか見つけて探してるんだが、未だに見つからねえ。制御装置につけられていた通信機器は無線をつかったものだったが、家庭用程度の狭い範囲しか届かないものだ。となると、どこかの別の通信機器を経由してそこから外部へと接続しているんだろうが、そいつが見つからねえんだよ」

「それじゃダメじゃない」


 せっかく見つけた光明だったのにとまた頭を抱えてしまうクロエ。

 ここでハイリが割り込んできて、


「でさー、だったらいっそ先生に一度この学校を乗っ取らせようって考えになったわけでさー。そうすれば、どこから制御装置に接続されているかわかるし」

「……マジ? 本気?」

「本気だよー。それしか思いつかないしなー。あんまり時間もないし」


 あっけらかんというハイリにさらに頭を抱えてしまうクロエ。

 一方ナナエは少し考えた後に、


「こういった話はあまり詳しくないのですが、電網での住所がわかっても実際の場所はわからないような気もしますが……」

「そのへんは大丈夫だ。任せとけって。準備は全て完璧に整えてあるからよ」


 そうまたニカッと悪巧みしてそうな笑顔を浮かべるミミミだった。

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