第219話 ガスボンベ破蓋+Wガスコンロ破蓋5

 まずヒアリが鉈の二刀流でガスコンロ破蓋たちへと迫る。火柱攻撃が使えなくなった破蓋たちは2体ともガスホースを振り回して、ヒアリにぶち当てようとした。


「させません!」


 ナナエが間髪入れずにガスホースを大口径対物狙撃銃で弾き飛ばす。その間にヒアリは一気に飛び上がり、そのまま高速飛行で2体のガスコンロ破蓋をめちゃくちゃに破壊した。

 そして、その中心部から赤く光る核が露出する。


「ナナちゃん!見えたよ!」

「破却します!」


 ここでナナエが素早く2体のガスコンロ破蓋の核を撃ち抜いた。ほどなくして崩壊を始め霧散していく。


 だが、まだガスボンベ破蓋がいる。こいつは新型なので戦ったのは初めてだ。過去のデータでも出現した記録は残っていないので攻撃手段がわからない。


 と思いきや突然ガスコンロ破蓋は地面に着地した。何をする気だ?と思ったらたったまま器用に身体を斜めにして底の片側を浮かせ、そのまま地面についているところを起用に回しながらこっちに向かってきた。つまり立ったまま回転してこっちに向かってくるのだ。


 ナナエは慌てて逃げ出し、


「なんですかあれは!? なぜ直立状態で移動できるんです!?」

(思い出した! ガスボンベ搬入と充填の仕事やってたときにああやって立てたままうまく黒がしてあれを移動するんだよ!)

「相変わらず色々仕事経験だけはありますね!」


 俺たちはそんな会話をしながら一目散に逃げるがゴロゴロ直立転りで向かってるガスボンベ破蓋のほうが早い。


 このままでは追いつかれる――と思ったときに急に身体が中に浮かんだ。ナナエが振り返るとヒアリが身体を掴んで浮遊している。


「ナナちゃん、大丈夫?」

「助かりました。このままある程度上まで移動してください」

「はーい!」


 そのまま上昇してガスボンベ破蓋の様子をうかがう。破蓋自身もうまく移動をコントロールできないのかあちこちに蛇行していた。


 ナナエは大口径対物狙撃銃を構えると、


「おじさん。あのガスボンベの弱点は頭についている栓の部分でしたね」

(あそこをぶち抜くと火を放ったり爆発したりするはずだ。どこに核があっても木っ端微塵だろう。でもどれほどの爆発が起きるかわからないから、学校や寮も巻き込みかねないぞ)

「……確かに。一旦大穴に落とす必要があるみたいですね」


 そういって照準から目を離す。続けて、


「あの破蓋の移動方法は無理やりで不安定です。なのでヒアリさんは蹴り飛ばして地面に倒してください。そこから私が転がして大穴に落とします――」


 ここでナナエは一回ヒアリの方を見ると、


「ヒアリさんができるだけ破蓋との対話を望んでいるのはわかっていますが、あれは天蓋の意向を強く受けているので説得は……」

「あっ大丈夫だよ! カーテンちゃんもあれは無理だって言ってるから。今はみんなを守ることに集中するからねっ」


 そう鼻息を荒くして答える。思うことがないわけじゃないだろうが、見た感じでは今のヒアリでは学校を守るほうが優先になってるようだ。


 ナナエはタイミングを見て、


「では行きます!」


 そういってヒアリから離れて地面に向かって降りる。同時にヒアリが猛スピードで、


「いっくよー!」


 掛け声とともにガスボンベ破蓋に蹴りをお見舞いした。元々不安定な状態でいどうしていた破蓋はあっさりと地面に倒れる。


 そして、それをナナエが大穴めがけて押して転がし始める。


「このまま一気に落とします!」


 その勢いのまま、ガスボンベ破蓋を大穴に落とした。

 そしてすぐさま大口径対物狙撃銃を構える。


(あの破蓋に直撃したのと同時に身体の主導権を入れ替えるぞ。相当な爆発が起きるのは間違いないから、素の状態だとお前じゃ耐えられない)

「はい! では……破却します!」


 そう言ってナナエが放った銃弾は相変わらず見事な一直線でガスボンベの栓を撃ち抜いた。

 その瞬間、まばゆい光があたり一面に広がり――


(代われ!)

「はい――――」


 数ミリ秒後に極大の大爆発が起きた。大穴の目の前にいた俺の身体もド派手な爆発に巻き込まれ、遥か上空にすっ飛ばされる。


 一瞬意識を失いそうになるが、ぎりぎりのところでこらえた。ここで気絶してもしガスボンベ破蓋が生き残っていたり、他の破蓋の伏兵がいたらやばい。


「くそっ」


 俺は爆風と全身まっ黒焦げになるレベルの高熱にさらされつつ、意識を保ち続け、最後は地面に直撃した。


「ぐえええええええええ………」


 地面に突っ伏したまま俺は唸り声を上げることしかできない。ここでヒアリがすっ飛んできて、


「おじさん大丈夫!? お水だよ!」


 そういってどこからか持ってきたバケツで俺に水をぶっかけ始める。前回のシャンパン破蓋のときと同じことをやっているんだろう。特に指示を出してなかったのにこういう判断ができるとかヒアリは有能でかわいいなぁ。


 俺はだいぶ痛みが引いたあたりで立ち上がり、


「助かった、サンキューな」

「おじさんも無事で良かった~」

(さんきゅーってなんですか)

「ありがとうって意味だよ」


 ナナエに聞かれたことにも答えておく。

 大穴からは大爆発で起きた黒煙が立ち上り、タイヤが燃えて出た黒煙をさらに色濃くしていた。

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