第218話 ガスボンベ破蓋+Wガスコンロ破蓋3

「来たよ!」

(まだはえーよ勘弁してくれ)


 ヒアリが大穴の方を指差して確認する一方、俺はげんなりとしてしまう。

 ゆっくりと2体のガスコンロ破蓋が大穴から姿を現し始めていた。周辺は相変わらず黒い煙で覆われているため、外側からははっきりと見えないだろう。

 そして、ガスコンロ破蓋に続いてガスボンベ破蓋も姿を表す。火柱攻撃でまっ黒焦げになりながら見ていたので今回はっきりと視認できたが、やっぱりアパートとかにあるあのガスボンベのものだ。白地でLPガスとか書かれている。


 俺は一時期やっていた仕事を思い出し、


(あのガスボンベ、クソ重くて硬いからそう簡単には倒せねーぞ)

「なにか知ってるんですか?」


 ナナエが相変わらず他人の話に食いついてくるので手短に、


(前にあのガスボンベの気体燃料を積めたり運んだりする仕事をしていてな。仕分けして発送先に運んでいくんだが空のときはゴロゴロ転がしたりするんだよ)

「なるほど……そうなると私の銃でも貫けない可能性が高いですね。核のある位置に覚えはありませんか?」


 ナナエは新しい大口径対物狙撃銃を持っていた。学校に置いてある装備の予備を工作部が持ってきてくれていたようだ。

 そう聞かれたので俺はしばらく考えた後に、


(ガスボンベの頭のところにガスを送り出す蛇口みたいなのがあるはずだ。そこを破壊すると火を吹いて大爆発する動画をみたことある)

「ならそこを撃ち抜いて核ごと爆散させるしかないでしょう。ただ……」


 ナナエが視線を向けた先は工作部の連中だった。まだ学校の生徒たちへの退避指示を続けている。もうすぐ終わるはずなんだが破蓋がすでに地上に出現してしまった。とりあえず工作部の3人も退避させないと巻き添えになってしまう。もう少しゆっくりしてくれりゃいいのに。


 ナナエがハイリたちのところに行き、


「ハイリさん、ここは危険なのですぐに退避してください。破蓋が地上に到達したので今から作戦を開始します」

「んあ? あたしらはここに残るぞ」


 言ってきたのはハイリではなくミミミだった。まだノートPCをカタカタしている。


「しかし、それでは巻き添えになる恐れが――」

(おいこら、言い争っている場合じゃねーだろ。もう時間がない。そいつらは居たいってならそこに置いておくしかねーな)


 困惑するナナエだったが、突然ミミミのすぐとなりあたりの地面にぽっかり穴が空いた。よく見るとマンホールでそこからススだらけになったマルが出てきた。


「くさいですぅ……死にそうおおおお」

「そんなもんじゃ死にやしねーよ。で、どうだった?」

「マジ臭かったですが、ちょっと身を隠すには十分ですぅふえええええ」

「てなわけだ。あたしらは爆発が起きたらすぐその下水道に飛び込むから安心しろよ。後はお前らのやりたいように勝ってこい」

「あたしらもちゃんと迷惑かけないように気をつけるからさー」


 そうミミミとハイリに言われてしまう。勝ち前提かよ。勝てるかどうかわからないのにやれやれ。

 だがこれなら大丈夫だろうと思ったのか、ナナエはまた大穴の方に向く。


「ヒアリさん準備は出来てますか?」

「うん! できてるよ! すっごいできてるよ!」


 そういってぐっと親指を立てて答える。そしてまたすぐに地面に両手と両足をつける格好になった。


 そうしている間に破蓋たちはゆっくりと動く。ガスコンロを垂直に立てそのまま地面の上を焼き払おうとしている感じだ。


 「今です!」


 ナナエは即座に大口径対物狙撃銃を発射した。狙撃対象は破蓋本体ではない。ガスコンロとガスボンベをつないでいるホースだ。これが撃ち抜ければガスコンロ破蓋はしばらく戦えなくなる。


 すぐさまガスコンロ破蓋はホースを再生させ――と思ったら、治りかけていたホースを突然地面に突き刺したガスボンベよりも地面から吸い上げる方を選んだのかよ。


 だがそれにもこちらは対応済みだ。


「ヒアリさん! おまかせします!」

「りょーかいりょーかいだよ!」


 ヒアリは即座に両手を地面に当てる。そして、


「お願い! あの破蓋さんは今この地上をひどいことにしようとしているの。だから力を貸さないで。私に力を貸して!」


 そういうお願いを何度も何度も繰り返す。一方ガスコンロ破蓋は順調に吸い上げて本体の下腹部にブクブクと風船のようなものが膨らみ始めていた。もしヒアリの説得が失敗して火柱攻撃が発射されたら大惨事だ。


’(なあ、ヒアリにはここから空を飛んで逃げてもらって、俺たちで前みたいにあのガスコンロ破蓋を倒せばいいんじゃ)

「無茶苦茶言わないでください。ヒアリさんが危険すぎます。今はヒアリさんを信じるのみです」


 そうナナエはヒアリの頼み事を聞き続けている。

 次の瞬間だった、突然ガスコンロ破蓋に溜め込まれていた何かが勝手に噴出したのだ。


「……よかった。大穴近くにいる神々様は私を助けてくれるって」


 ヒアリはうまく行った喜びからかニッコリとピースサインをしている。相変わらずかわいい……って流石に今はそんな事を言っている場合じゃない。

 作戦は次のステップに入る。今度は全部撃破だ。

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