第217話 ガスボンベ破蓋+Wガスコンロ破蓋3
ヒアリがあちこち飛び回っている中――カーテン破蓋はすぐにヒアリを追いかけた――ミミミがナナエのところに来る。
「煙幕はやれることはやった。あとは破蓋をどうやって倒すかだけだ。で、一体どんなやつが浮上してきたんだ?」
「気体燃料の入った大型の筒です。それと調理器具ですね。気体燃料を使うものです。それらが接続され、大火力の火柱が発射されてきました。おじさんはがすこんろとがすぼんべと呼んでいます」
「ああ、ガスボンベとガスコンロってやつか……大体わかった。それで、そいつらに反撃はできたか?」
横文字に多少の知識があるミミミは即座に破蓋の素性を理解したようだ。ナナエはバツの悪そうに首を振り、
「あの火柱の攻撃は強力です。さらに以前とも違い、攻撃までの間に溜めがなく連射できます。おじさんに身体の主導権を渡して、ヒアリさんが連れていた破蓋の力を借りて耐えることが精一杯でした。所持していた武器も破壊され、恐らく大穴内部の陣地も大半が破壊されたと思います」
「…………」
ミミミは思案顔のまま黙ってしまった。恐らく考え事をしているんだろう。
「おじさんはなにか思いつきませんか?」
(そう言われてもな……)
ナナエの言葉はすがりつく感じだった。相当焦っているのがはっきりとわかる。
俺も対策を考えてみるが正直厳しい。浮上してきているガスコンロとガスボンベは攻守ともに完璧だ。おまけに天蓋色だからヒアリに鞍替えする可能性もない。
俺も気分が暗くなったが、頭を振る。ダメだと思っていても何も変わらねーな。こういうときは大逆転を狙わずに地道で地味だが確実な方法を探った方が解決に近づくのが経験則だ。トラブルやミスでなんとかしなきゃならんときにはいつもそうやって対応してきた。
ガスコンロは前と違いガスボンベと接続されているわけだから、
(ホース――管を叩き切るのはどうだ? それでガスコンロ野郎は火柱攻撃はできなくなるはずだ。ガスボンベ野郎も単体では攻撃手段を持たない。管はすぐに再生するだろうが、ヒアリに頼んで切り刻み続ければ攻撃はされなくなるはずだ、多分)
俺の言葉をナナエがミミミに伝えると、
「ウィウィ……そうした場合は恐らくガスコンロの方は管を地面に突き刺す方法に切り替えるんじゃねえか? 見た感じ今回と前回でガスコンロの形式は同じはずだ」
そういってノートPCのデータで前回出てきたガスコンロ破蓋の映像と見せてくる。
「細部は違いますが、恐らく使い方や用途は同じだと思います……多分ミミミさんの予想通りになるかと」
ナナエもミミミに賛同した。確かに言ってることはわかるが……
ここでふと俺は思いついた。
(そもそもあのガスコンロ野郎は何を吸い上げて火柱攻撃してたんだ? 通常はガス――気体燃料を使うけど大穴の壁にぶっ刺しただけじゃそんなもん吸い上げられないと思うぞ)
俺の言葉にナナエもはっとする。それを聞いたミミミは思案顔で、
「考えられるのは神々様を吸い上げている可能性ぐらいだな。気体燃料がないところから抽出してあれだけの熱量に使えるのはそのぐらいしかありえねえ」
「もしかしたら大穴周辺にいる神々様に天蓋が呼びかけ、破蓋と同じ存在に変えているのかもしれません。確証はないですが、今までの状況を考えるとそれ以外は考えられないです」
ナナエの話で俺は結論にたどり着く。
(なら、なんとかなるかもしれねえな)
ナナエとミミミも頷いた。そして、ミミミはすぐにヒアリへと連絡を入れる。
「ナナちゃーん! 呼んだー!?」
数秒でヒアリが空を飛んで戻ってきた。相変わらず早い。とはいえ、ナナエは別の用事があるので代わりにミミミが作戦を伝えた。
一方のナナエは通信機を借りて風紀委員のクロエに連絡を入れる。今回の戦闘では学校の生徒たちへの指示役をやっているだとか。
「クロエさん、今すぐに生徒たちを全て大穴周辺から離れるようにしてください。いえ、学校も危険なのでできるだけ離れた場所まで誘導を。破蓋が地上に現れるまであまり時間がありません。早急にお願いします」
『煙幕はタイヤを燃やしているから当分持ちそうだから生徒たちを退避させても大丈夫だろうけど……そっちは英女と工作部だけで大丈夫なの?』
「大丈夫とは言えませんが、今はやるしかないでしょう。なのでやってみせます」
ナナエが言った「やるしかない」。何度聞いても嫌な言葉だ。どう考えても無理だけど、時間も睡眠も体力も命も寿命を削ってでもやり遂げる。それでやりきると「できるじゃん」とか言われてまた同じこと、あるいはもっと悲惨な仕事をやらされる底辺現場。異世界に来ても底辺現場で仕事とかマジ勘弁してほしいわ。
「愚痴と言っていても始まりませんよ。おじさんも終わらせてから考えればいいと言っていたでしょう」
(そんなこと言ったっけ。いろいろありすぎて忘れたわ)
「全くこのおじさんは……」
そんな事を言っている間に大穴の方からただならぬ気配を感じ始める。
もうすぐ破蓋が地上に浮上してくる。
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