第216話 ガスボンベ破蓋+Wガスコンロ破蓋2

(同時に3体浮上……これはまずいですね)


 ナナエがはっきりと焦りを見せている。さっきからひたすら火柱攻撃を食らっていてとてもナナエに身体の主導権を戻せる状況じゃない。かといって俺じゃ戦うことなんて無理なので、このままじゃ何も出来ずに黒焦げにされ続けるだけだ。


 おまけに武器といえばナナエが愛用している大口径対物狙撃銃だが、何度もガスコンロ破蓋の火柱攻撃で完全にぶっ壊れてしまった。もう戦うすべがない。さらに通信機も壊れているので上にいるヒアリや工作部と連絡が取れない。


 どうするか……


「とりあえず逃げよう」

(何を言ってるんです!?)


 俺が即答で撤退を決めると、ナナエが驚愕の声を上げる。しかし、俺は判断を変えずに、


「これ以上ここにいてもできることは何もねえ。武器もなけりゃお前に戻すことも出来ない。ガスコンロ野郎はクソ硬くてクソ重いのはわかってるし、ガスボンベ――あの後ろにいる長い筒も見るからに頑丈だ。殴ったり蹴ったりしたところで効果はねえだろ。ここで無意味に焼き殺されていても時間の無駄だ」


 俺がそう話している間も絶えずガスコンロ破蓋の火柱攻撃が続いているのでかなり辛い。ナナエはそんな状況を理解しているようだが、


(し、しかし、ここで私達が下がればそのまま破蓋がそのまま地上に出てしまい、先生の目論見どおりになります!)


 たしかにその通りだろう。今の先生の目的は破蓋を地上に出現させることと推測できる。そのためにこんな完璧な布陣で破蓋3体を送り込んできたはずだ。ムカつくが、これは先生の勝ちだ。


「こういうときは一旦諦めて考え直したほうがいいんだよ。グダグダやることがないまま突っ立っていたって何も変わらねえ」


 俺はそう吐き捨てるようにいうと上に向かって大きく飛び跳ねる。破蓋3体の浮上速度はそこまで速くない。できるだけ距離に差をつけてヒアリたちと対策を練らなければ。


(…………っ)


 ナナエもこれ以上反論はしてこなかった。打つ手なしなのは否定しようがないからだろう。ただ苦渋に満ちたうめきみたいなのだけだしている。


 俺はとにかく上に向かって飛び上がり続ける。少し離れるとガスコンロ破蓋は攻撃をやめ火柱が上がってくることはなくなった。とりあえず苦しくなくなって助かる。


 やがて大穴の出口が見えてきた。俺は一目散に外へ飛び出た――


(これは……!?)

「なんだこりゃ!?」


 外に出た途端に予想外の光景が広がって二人揃って驚愕する。

 まだ外は明るかったはずなのにあたり一面薄暗くなっている。日が傾き始める時間帯とはいえ、この暗さは異常だ。同時に俺の鼻に嫌な匂いがこびりついてきた。


「煙……煙幕か?」


 あたり一面に真っ黒な煙が広がっていた。大穴周辺のあちこちから火が焚かれ、そこからものすごい勢いで立ち上っている。風がほぼ無風のためその煙がどんどんあたり一面に充満し始めているのだ。


「おー、戻ってきた戻ってきた!」


 俺が地面に着地したところで俺に気がついたハイリが駆け寄ってきた。そのまま話を聞こうかと思ったがさすがに丸焦げタイムが長すぎたので、


「ちょっと休みたいから代わってくれ。破蓋が出てくるまではまだ時間があるはずだ」

(はい)


 そうナナエに身体の主導権を返す。すぐさまナナエもハイリに駆け寄り、


「ハイリさんこれは一体……いえその前に何も出来ずにここまで逃げてしまいました。すいません! で、これは一体何がどうなって――」

「そんなに慌てるなよー。状況が大変なのはわかるけどちょっと落ち着いてくれないと話も理解できないぞー」


 そうハイリに言われた途端、今度は横から水をぶっかけられる。見ればマルがバケツを持って立っていた。


「はい。これで落ち着いたでしょう」

「……ええまあ確かに」


 ナナエは頭をブルブルと震わせて水を払う。

 ハイリは黒煙の立ち上る空を見つつ、


「ナナエから連絡が途切れたと思ったらいきなり大穴から火が吹き出てくるだろ? こいつはやべえってことになって、過去の破蓋の情報を洗ったら鍋沸かすアレが出てきたことがあったから、多分こいつが複数体いるってミミミが判断したんだよ」


 そう言って向けた視線の先にはミミミが通信機でなにやら指示を飛ばしまくっている。ハイリは続けて、


「おまけにそれだけじゃなさそうだって考えて、こいつは多分大穴の内部だけで倒せるレベルじゃないって話になってさ。でもそれじゃ破蓋が外に出たのが丸見えになって先生の言ったとおりの展開になるだろ? だから、これだよ」

「ナナちゃーん!」


 そこでヒアリが大量の自動車のタイヤを持ったままこっちに飛んできた。それですぐさまナナエに駆け寄り、


「大丈夫!? 怪我とか――」

「うおらぁ! 今は余計な話ししている場合じゃねえぞ!」

「ごめんねナナちゃん! あんまり無理しちゃだめだよ!」


 と、途中でミミミの罵声が飛んできたのでまたタイヤを持ってすっ飛んでいってしまった。そして、少し離れたところに降り立ってタイヤを並べて、そこに学校の生徒達数人で液体をぶっかけた後に火を付けている。


 ハイリはニカッと笑う。


「これで破蓋が外に出てきても外からは見にくいだろ?」 

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