第215話 Wガスコンロ破蓋1

 浮上してきたガスコンロ破蓋ズを見て俺はうんざりしつつ


(俺らが疲れ切ってる状況で一番ヤバイのが浮上かよ。しかも2体もこいつは偶然にしちゃできすぎだな)

「ええ。先生が今一番望んでいるのは破蓋が地上に出現することです。この破蓋の火力はそれだけの突破力があります」


 洒落にならないのが浮上してきたのに冷静に分析するナナエ。さすがの度胸と言ったところだろう。


(とりあえずまた大火力攻撃を食らったらアカンから俺と代われよ)

「……そうですね。とりあえず今は相手の出方を伺いましょう」


 そう言ってから俺とナナエの身体の主導権が入れ替わる。


「よしっと……むむっ」


 俺が身体を動かそうとしたが何やら重い。この身体は基本即時全回復だからそんなわけがないんだが……

 ぴんと来て、


「おい。お前も結構精神的にキテるだろ。足に変な疲れが残ってるぞ。回復能力ですらおいついてねえ」

(う、うるさいですね。さっきも言ったとおりいろいろありすぎてさすがに堪えてるんです。ヒアリさんや他の人には内緒ですよ。気にしてしまいますから)

「へいへい」


 疲れ切っているのを隠してもヒアリとかならすぐに気が付きそうだが。まあそんなことはいい。今はガスコンロ野郎をなんとかしないとならん。


 前に戦った時のガスコンロ破蓋の動きを思い出す。基本はガスホースをムチみたいに振り回して攻撃してくるが、一旦下降した後にガスホースを大穴の壁にぶっ刺した後に何かを吸い上げ本体の一部が膨れ上がり、その後につまみがひねられると火柱が発射される。その威力は周辺の酸素が全てなくなってしまい、窒息死するレベルだった。


(あと核が外側からは全く見えません。非常に固く銃弾は全く通りませんでした)

「だからガス――なんか燃えるアレが溜まったところで爆破したんだよな」


 ナナエの補足でいろいろ思い出す。ガスホースで全身ズタズタになるまで殴られたこととか直前にミナミが殺されていることとか。


「なあもしかして――」


 俺は口にしかけてやめる。


(なんですか?)

「いや……単に前回と同じやり方なら攻略自体はそこまで難しくないのかなと思っただけだよ」

(確かにあれだけの誘爆が起きるのなら2体まとめて相手にする必要もなく片方が溜め込んだところを狙えばいいだけでしょう。おじさんには負担をかけますが……)

「それは気にしなくていいわ。仕事ならやるだけさ」


 俺はそうとだけ言っておく。本当に言おうとしたのは、ナナエの足取りが重いのはミナミが死んだ時の記憶が蘇っていたからじゃないかってことなんだが、こんなことを聞いても仕方がない。仮にそうだったとしても対処法はないんだし、無駄だ。


 俺は大口径対物狙撃銃を構えて、


「とりあえず溜め込み始めたらガスコンロの上に乗っかってズドンだな。それで終わり――ん?」


 ここで気がつく。ガスコンロ破蓋の片方のつまみがガチャガチャと少しずつ動き始めている。しかし、まだガスを溜め込んでいない。


 俺はとっさにマント状に羽織っていたカーテン破蓋を全身に被った。すげえ嫌がったが無理やり抑え込んだ。


 次の瞬間、


「ぎええええええええええええええええええ!」


 俺の全身にひどい熱気が襲いかかる。カーテン破蓋を全身に被ったとはいえ密閉していなかったので熱が隙間から流れ込んできたのだ。


(おじさんどうしたんですか!?)


 ナナエが驚きの声を上げる。目隠し状態だったのだから何が起きたのかわからないのだろう。


 俺は息を止めながら恐る恐るカーテン破蓋を押し広げて外の様子を見る。周囲のあちこちが高熱で焼けただれていた。同時に大穴の入り口の方から大量の空気が流れ込んできている。間違いない。


「今、あの破蓋がこっちに向けて大火力攻撃をしてきたな……」

(そんな! まだ燃焼気体を吸い込んではなかったはずです!)


 確かに前回のときと攻撃のモーションが違う。いきなりなんの予兆もなく火柱をこっちに向けてぶっ放してきやがった。


「――――また来るぞ!」


 もう片方のガスコンロ破蓋のつまみが動き出したので慌ててカーテン破蓋を被った。またしても全身に猛烈な熱が浴びせられる。


「くそったれめ」


 熱が収まってから俺はまたカーテン破蓋から顔を出した。周囲がアッチアチなのが更にひどくなっているので2発目を撃たれたので間違いないだろう。


 つか、まじでカーテン破蓋がいたおかげで助かった。やけどはしてるが、直撃を食らうよりはマシだ。この程度の負傷なら割と早く修復できる。カーテン破蓋自体はすげえ嫌がっている感じはあるが、とりあえずヒアリの指示に従っておとなしくしている。


 しかし、なんでこいつ前と違うんだ。俺はガスコンロ破蓋に視線と意識を集中させた。

 そして、気がつく。前は振り回していたガスホースが大穴の下に向けてピンと伸びた状態になっていることに。


「マジかよ……」


 ほどなく、ガスコンロ破蓋のホースの先に接続されていたものが浮かび上がる。灰色で大きな鉄っぽい筒。細長くて重々しい感じがあり、その表面には赤字で『LPガス充填期限』と書かれていた。

 

 ガスボンベ破蓋だ。こいつがガスコンロ破蓋に直結してガスを供給していたんだ。

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