第213話 飽きるまで考えりゃいい
「ああ~~~~生き返りますぅ~」
ヒアリと別れたあとにナナエは真っ先に風呂に飛び込んだ。相変わらず風呂場は真っ暗で俺から身体とかが見えないようにはしてあるが。
「…………」
が、しばらくしてからぼーっとしたまま黙ったままになってしまった。
(なんだ、悩みごとか? 話ぐらいなら聞いてやるぞ)
「人類のために戦っていたはずが、敵扱いされて今にも軍隊がこの学校に攻め込んでくるかもしれないって状況なんですよ? 悩みぐらいします。それにおじさんに相談して解決するような次元の話でもないでしょう」
(確かに。話は聞いてやれるが解決するのは無理だ。諦めてくれ。俺にそんな能力はない)
「あのですね……」
ナナエは額に指を当てて困惑してしまう。しばらくしてから顔を湯船に少し沈めてブクブクと、
(今は身体を休めて体力回復に務めなければならないのはわかっているんですが、起きていることが衝撃的すぎて……どうしても考えてしまいます。この調子では眠ることもままならないような気がして……それでうまく休めないのが苛立ちに変わって余計に疲れが取れなくなりそうな感じで……)
(不安が不安を増加させる感じだな。俺もあるぞ。失敗して失敗を気にしすぎて他のがおろそかになって別の失敗することが。なんとか寝れても夢の中でも仕事をしてたり)
(それはおじさんがいい加減なだけです)
(えー)
俺が口を尖らせていると、ナナエは顔を湯船から出して、
「向こうの世界にいってたくさんのことがありましたし、その前にも先生が破蓋だったこともわかっています。正直なところ思考が追いついていないというか……一旦考えをやめて休息につとめなければならないのはわかっていてもどうしても……」
(じゃあいっそのこと考えまくればいいんじゃね)
「え?」
俺の言葉にナナエがキョトンとする。
(どうせ考えちゃうのをやめられないんだろ? だったら徹底的に考えまくって飽きるまでやりゃいいよ。そのうち疲れて意識が途切れて気がついたら明日の朝だ)
「……脳天気な人ですね、全く」
(寝れないときは無理に寝ないで適当に遊んでることにしてたな。そうすりゃそのうち勝手に眠くなるし、そうなったら堂々と寝りゃいいよ)
「それでは予定があった場合どうするんですか?」
(仕事の時間の前に目覚ましをかけてちゃんと起きるぞ)
「寝不足で辛くなるのでは……」
(起きたら電話で仕事先にちょっと遅れまーすか、体調悪いからやすみまーすと連絡してまた寝るから全く問題ない)
「あのですね……」
ナナエがまた困惑して頭を抱えてしまった。
(寝不足はまじで体調崩すからな。俺は問答無用にサボる方を選ぶね。特に変な起き方とかすると片頭痛に苦しむことになる。辛いぞー、数秒に一回頭をぶん殴られる感覚は。仕事なんてやる気が失せるわ)
俺がそうハッハッハと言ってやるとナナエはやれやれと首を振るばかりで、
「私はおじさんのような人生を捨てたような脳天気な振る舞いは出来ませんよ……」
(まあ俺の例はさておき今の問題をひたすら考えるのは悪くないだろ。またヒアリや工作部の連中と会って対策を練ったりするわけだし)
「言っていることはわかりますが、やることが多くてどこから手を付けていいものか……」
俺も少し考えてから、
(とりあえず先生が次にやってきそうなことを考えようぜ。今は学校の敷地の外に行っているんだから直接俺たちに手出しとかはしてこないだろうけど)
「先生は破蓋。破蓋は天蓋からの指示により地上に出て人類を滅ぼそうとしています。しかし、先生自身は今の所破蓋として暴れるつもりはないのか、そういう力を持ってないのか学校の外で戦いを始めるつもりはなさそうですね」
(だからこそ次に何をやってくるのかを読んで対策を練っておく必要があるわけだ)
ナナエは腕組みして考え始め、
「先生は私達が破蓋に隷従したように言っていました。その場合考えられる事態は私達が破蓋を地上に浮上させ世界を滅亡させるように仕向けることでしょう」
(そうなると、先生は破蓋を地上に出させるように仕向けてくる可能性があるってことか?)
「恐らくですが……次に浮上してくる破蓋はかなり厄介なものかもしれません。向こうの世界で苦戦を強いられた戦闘機の破蓋が複数襲来する可能性も考えられます」
(あんなの複数出てきたら一瞬で大穴の上まで飛び出すぞ。やばいな……対策を練らないと。でも今まで出てこなかったのが不思議だな。あれだけの強さがあるんだからすぐにでも大穴に送り込まれても不思議はないんだが)
「……確かに。もしかしたら大穴にも通れる破蓋と通れない破蓋がいるのかもしれません。形状的に無理な破蓋もいるはずですし」
(そうなると次に先生が浮上させようと試みるのは新型か、今まで戦ってきた中でかなり手こずったような破蓋で――)
次の瞬間、ナナエの携帯端末が着信を知らせる音を鳴らし始めた。もしものときに即動けるように防水シートにいれて風呂に持ってきておいたが、正解だったらしい。
ナナエはすぐにナナエの電話端末――スマフォの着信ボタンを押す。送り主はミミミのようだ。
「何かありましたか?」
『おう、悪いな、休息中に呼び出しちまって。んで、さらに悪いんだが、破蓋が大穴の底から浮上してきてるんだ。救援に来てくれないか?』
ミミミの言葉にナナエは大きく頷き、俺とナナエは即座に風呂場から出てさっさと身支度を整え、外に飛び出た。
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