第210話 世界と破蓋
クロエは話を戻して、
「で、こりゃどうしたもんだと対策を考え始めたのよ。それで真っ先に全部真っ赤な嘘ですっていおうと思ったけど、それだけじゃ説得力が足りない。先生は私達が反論してくるのも見越して次の手を考えているはずだしね。だったらもうちょっとひねった反論をしてみることにしたのよ」
「それが先程の破蓋との和解を求めるハイリさんたちの演説ですか?」
ナナエがそう言うとクロエは頷いて、
「実際にあなたたちが英女として破蓋と和解をしようと考えていたのは事実だし、先生にもその話はしてある。それに先生が持ち出した証拠としての映像や画像は編集されて悪意があるようにでっち上げられているけど、使われたものは実際にあったことよ」
「あたしみたいな経験の浅い若造が見ても一つ一つの素材は本物だってわかる証拠だったからな。洗練された情報分析をできる政府の連中なら、確実に気がつくだろうよ。当然合成や編集があることもな」
ミミミが素の口調で補足してくる。若造ってこいつおっさん臭い表現使いすぎだろ。
クロエも頷いて、
「だったら事実をそのまま語ればいいってわけ。こちらの主張は破蓋との対話の可能性が見つかったので、戦って倒すことではなく、別の解決方法を模索したい。先生はそれが気に入らないのででっち上げをしているって感じにね」
ここでハイリが首を突っ込んできて、
「そーいやさー、先生はなんでこんなことをしたんだ? いやなんか協力していたようで実は裏でいろいろやって英女たちの邪魔をしてたのはわかるけど、人間が破蓋を呼び込んでまでやることかなーと思っちゃうんだけど」
「先生の正体は破蓋です。それも人間の破蓋で、恐らく記録上初めての生物が元になっているものです」
『!?』
ナナエの言葉に工作部とクロエが驚きのあまり言葉を失ってしまった。先生がヤバイって話はみんな知ってたけど実は破蓋でしたーなんて俺らも大穴で戦ったときに初めて知ったもんな。
これにミミミが身を乗り出してきて、
「おい……そりゃどういうことだァ……! なんで英女として戦っていた人間が破蓋になってんだよ! 意味がわからねえぞ!」
「私にそんなに威圧されてもわかりませんよ! ヒアリさんも間違いないと言っていますし!」
薄幸の美少女みたいな面のくせに威圧感のある顔で迫られてしまいダジダジなナナエ。隣りにいたヒアリもちょっと落ち込んだ顔で、
「私に力を貸してくれている神々様も先生は破蓋だって言ってた。間違いないと思う……」
これにクロエが椅子を座り直して、
「こいつはまずい話なったわね。すでに先生は大穴どころか学校の敷地から遠く離れている。そんなところで突然破蓋として暴れだし始めたら、先生のいうことが証明されてしまう」
「んん? どういうことだー?」
ハイリがはてなマークを浮かべているので変わりにマルが、
「破蓋は大穴の外に出ると人類が滅亡すると言われていました。それが現実になったということです。さらに先生が外に出てきた事自体が、私達が仕組んだことだと思われてしまう恐れがあります」
「つまり先生が言ってたデタラメが事実として証明されちまうってこったな。自作自演のクソみてーな展開だ」
腕を組んで面白くなさげなミミミ。
俺はナナエを突っついて、
(ちょっと身体を貸せよ。ヒアリに襲ったりしないことは誓うからさ)
「いいですけど変なことを言ったりしないでくださいよ」
ここで俺とナナエの身体の主導権を入れ替える。そして、深呼吸をしてから話を始める。
「ちょっとナナエに身体を借りたけど、今は俺な? 俺俺。わかる俺?」
(落ち着いてください!)
どうにも人と話し慣れてないので変な言葉遣いになってしまう。それでも話すしかないから続ける。
「とりあえずだ。破蓋が地上に出ても人類が滅亡しないってのは確定したからそこは気にしなくていい」
「ウィ!」
「どういうことだって聞いてます」
ミミミとマルに言われて俺はちょっと考えてから、
「ぶっちゃけていうと、今この生徒会室には破蓋が3つとか4つとかもいるんだよ。片方はヒアリがマントみたいにしているやつ。カーテン――窓掛けみたいなやつの破蓋だ」
「かーてんちゃんだよー。私の力を助けてくれるって! すっごいいろいろ助けられちゃった!」
ヒアリがカーテン破蓋をクロエと工作部の前に差し出す。するとカーテン破蓋は身体をばっさばっささせて応えた。
これにはクロエや工作部も目を丸くして、
「えっ破蓋が今ここにいる……?」
「ハハハハハ! そりゃ傑作だなー!」
「ハイリさん笑ってる場合ではありません! 今すぐ逃げなくては! いやあああこんなところに破蓋がいるうううううううう!」
「マジかよ。ちょっと解体させろや。こんな興味深いものを調べねえなんてありえねからな……」
ミミミがどこからともなく取り出した大型ハサミを見て、ヒアリがすぐにカーテン破蓋を引っ込め、
「私の友達にひどいことをしちゃだめー!」
そう悪ガキをあやす感じにメッと叱りつけた。
俺は一回咳払いして場を立て直し、
「そういうことでここに破蓋がいるのに世界は平然としているので別に破蓋が外に出ようがなんだろうが世界が終わったりはしないのは確認済みだ。あと話はややこしくなるが、そのカーテン破蓋には飛行機と原付バイク――原付自転車の破蓋も混ざってる。詳しくは調べてないが、恐らく神々様の姿に戻っているんだと思う」
俺がそう説明すると、クロエは頭を抱えて、
「もうなにがなんやら……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます