第208話 先生の陰謀
先生の話は続く。
『数週間前、大穴の設備の一部が破壊される事件がありました。これらは破蓋の浮上を監視している装置であり、今の状態では破蓋が浮上してても恐らく気が付かないでしょう。修復にはかなり時間がかかりそうな状態です』
先生はまた水を飲み、
『私は犯人を探すべく大穴の中を調査しました。その結果、現在神々様によって英女に選ばれ、破蓋と戦っている生徒がこういった話をしていることが判明しました』
そこで音声が流され始めた。雑音混じりだがナナエとヒアリの声がする。断片的につなぎ合わせていくと、破蓋の方が正しいだの、破蓋のために世界を滅ぼすだの言っている内容になっていた。もちろんこんな会話をした記憶はない。
「なんですかこれは! 私はこのような話はしていませんよ!」
「わ、私もこんなの覚えてないかも……」
ナナエは激怒してヒアリは困惑している。
クロエはため息をついて、
「工作部の連中の話じゃ、盗聴していただけの会話をつなぎ合わせてそれっぽい話にしているだけって言ってたわね」
俺は呆れてしまい、
(俺達を陥れるために、クソコラみたいなことしやがって)
「くそこらってなんですか」
(元の素材をいじくり回しておもしろ話に改変するやつ)
「全然面白くありませんよ」
ナナエは頬を膨らませている。
一方の先生は熱がこもったような顔になってきて、
『監督する立場であった私は二人の説得を試みました。しかし、二人は私を攻撃し殺害しようとしたのです。その証拠がこちらの画像です』
そこで先生が写真が貼られたパネルを持ち上げる。ヒアリが鉈を突きつけてきている。いつの間にこんな写真を撮ってやがったんだ。
もちろんこれは先生を殺そうとしたんじゃなくて先生が破蓋だと察知したヒアリが止めに入ったときのだ。ただの印象操作である。
ナナエは黙ったままちらりとヒアリの方に視線だけ向けた。ヒアリは悲しげな表情を浮かべている。くそったれめ、ヒアリに変な精神的な負担をかけやがって許さんぞ、あの先公。
さらに先生は話を続け、
『私は命からがら逃げ出しました。英女以外の生徒たちにも声をかけましたが、彼女たちからも攻撃されたのです。つまり、英女学校はすでに破蓋に乗っ取られていたんです!』
そう声を荒げたあとに、一旦深呼吸をして、
『……申し訳ありません。つい取り乱してしまいました。その後、私は学校を脱出して助けを求めました。以上のことがあの学校で起きている問題になります。我が国の政府にはすべての情報を開示し、早急の対処を求めます』
ここでまた映像が切り替わってニュース番組の解説者が問題についてアナウンサーと話し始める。
クロエは頭を抱えながら、
「つまり、私達は破蓋に忠誠を誓った裏切り者で世界を滅ぼそうとしていると言われているわけね。英女たちの気苦労を考えるとよくこんな嫌がらせができるのか呆れてものも言えないわよ」
ナナエはたまらずにヒアリの手を握り、
「ヒアリさん。ちょっと寮の自室に戻って安いんでおいたほうが……」
「え、あ、うん、大丈夫だよっ。私も英女なんだしみんな大変なんだから、私だけ休んでいたら余計に気になっちゃうし。でも……」
そうやや曇った顔で、
「やっぱりちょっとつらいかな。信じたかった人にこんなふうに利用されちゃうとね」
「ヒアリさん……」
ナナエもつらそうな顔になる。おう、あの先生、ぶん殴ってくるわ。今すぐにだ。絶対に許さんぞあのクソアマめ。
(落ち着いてくださいって言ったのはおじさんですよ)
(うるせー)
俺がブツブツ文句を言っているとナナエが止めに来る。が、当の本人も相当頭にきているようで声が震えていた。
ふと、ものすごいゴゴゴゴゴゴとしたオーラを感じ取る。大穴から生徒会室に直行してきたので、カーテン破蓋がヒアリのマントになったままなんだが、こいつもヒアリがつらそうな顔をしていたのでブチ切れ寸前みたいだ。
(おい、今は動くなよ。破蓋と協力しているのはデマだと反論できなくなって、話がややこしくなるだけだからな。暴れるなら落ち着いてから俺と一緒にやろうぜ)
そういうと聞き入れたのかわからないが、とりあえず動かないままだった。
にしてもだ。またテレビにチラチラ映っている先生を見て思う。
先生自身が破蓋なのは間違いないだろう。英女とまともに渡り合い、突然でっかいカマを持ち出したりしているのでただの人間じゃないのは自分の目で見ている。その先生がこの学校の敷地から外に出ていっているってことは、破蓋はとっくに大穴から地上に出ていることになるが、人類滅亡ってことにはなってない。そうなると、破蓋がただ大穴から出ただけではヤバイことにはならず、あの強力な力によって世界を滅ぼすということだろうか。逆に言えば、先生個人には人類を滅ぼすような力がないとも言える。あとカーテン破蓋が今ここにいるが何も起きてないってのも証拠だ。
俺がそんな事をブツブツ考えていると、
「ウーィ!」
「帰ってきたぞと言ってます」
「おー、ナナエたち本当に戻ってきてるじゃん。まああたしは信じてたけどなー」
ここで工作部の連中が生徒会室に戻ってきた。
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