第207話 あの先生イカれてる

 話を戻して、テレビの映像を再び見る。今度はハイリたちの周りをぐるぐるまわっている。やや上空から撮影しているようだが……

 

 ヒアリも首を傾げて、


「ハイリちゃんたちを今誰が撮影しているんですか?」


 一応上級生で執行部の人間相手だからか丁寧な言葉遣いで聞く。それにクロエが、


「政府の無人機よ。あなた達が大穴で消えてから二日後ぐらいに来て学校の敷地の周りを移動しているわ」

(ん?)


 俺が感じた違和感にナナエもすぐに気が付き、すぐに携帯端末を取り出し現在時刻を確認する。ディスプレイに映し出されたのは俺達が向こう側の世界に行った日から一週間経っていた。なんかおかしいぞ。


「おじさんが冗談っぽくいっていた時間の流れが違うという話かもしれませんね。私達が向こうにいたのはせいぜい1~2日程度です。なのにこちらの世界は一週間経過していたことになります」


 ナナエの話にクロエはうーんと最初は唸ったが、すぐに頭を上げて、


「まあその話はいくら考えたところで推測しかできないし脇においておきましょう。今はやることが山ほどあるんだから」

 

 そういって話を切り替える。腐るほど面倒事を抱えたときには優先順位の低いものから後回しにするのは底辺仕事の基本だ。クロエはなかなかできるやつっぽいな。個人的に興味はあるけど暇になったらゆっくりと考えてみりゃいいさ。

 クロエは話を再開して、


「で、あの無人機はこっちには接触してこなくてどうやら英女学校や大穴の周辺の情報を収集しているだけみたいなのよね。攻撃したりすることはないし、こっちから呼びかけるとわざわざこっちに来て話を聞いてくれるわ。その時の映像を大手通信社に送って放送で流しているのよ」


 俺は相変わらず工作部が映っているテレビ画面を見ながら、


(偵察……なんだろうな。でも直接来て調べればいいと思うが……)

「私達の英女学校は適正値を持った少女のみで、外部の人との接触は適正値に影響があるため禁止されていると前にも言ったでしょう。たまに大型機材などを運んでくる場合は生徒の方が寮に閉じこもるようにしています」

(めんどくせえなー)


 俺とナナエがそんな話をしている間にまたテレビの報道番組では新しいコーナーに移り変わっていた。そこに出てきたのは――


「――先生!?」

「先生さんだー!」


 ナナエとヒアリが驚きのあまり叫んでします。俺も優しげで温和な表情の先生を見て驚きを隠せない。

 先生はいつもの気味の悪い優しげな顔だが、物々しい雰囲気の中整った会見場の真ん中に座っていた。そして、話し出す。


『今からお話することはすべて私の監督不行き届きによる結果であるとはっきり認めます』


 ここで少し顔を曇らせてから、


『私はによる処罰を受ける覚悟ができています。申し訳ありません』


 そう深々とお辞儀をし謝罪する。同時にマスコミからの猛烈なカメラのフラッシュが巻き起こる。世界が変わってもマスコミの仕事は変わってないのか――ってそんなことはどうでもいい。


 何を言っているんだこの先生は。この会見は一体何なんだ。何をやろうとしている?


 記者たちが先生へ質問を始めた。しかし、この辺りの会見発表のノリは俺の――一つ前にいた世界と同じだな。


 記者の一人が何があったのかわかりやすくもう一度話して欲しいと言ったので、先生が頷き、


『私は英女としての功績により英女学校の中で常駐できるという特例が与えられました。私の仕事は英女学校内すべての問題を発見し解決していくことでした』

「問題を解決ねえ……大体問題解決に走り回ってるのはあたしら風紀委員だってのに」


 呆れるように言うクロエ。

 話はまだ続く。


『英女学校の中には予め適正値の試験での結果で一定以上の成績を収めた人だけ通しましたので、とてもいい人ばかりになっています。しかし、調査を続ける間に、おかしな人物がいることに気が付きました。更に調査を進めていくと、この中の一部が更に危険な思想を持っていることが判明したのです」


 のどが渇いたのか先生は会見席に置かれた水を飲み干し、


『調査を続けたところ、一部の生徒たちが危険な思想に取り憑かれていることが判明したのです。それは破蓋を地上に送り出し、世界を解放――滅亡してもらうということでした』

「はあ!?」


 これにナナエが素っ頓狂な声を上げた。ヒアリは頭が追いつかないのか口を開けたままポカーンとしている。


 ナナエが抗議の声を続けようとしていたので、


(怒る気持ちはわかるが、今は先生の言っていることを聞いておこうぜ。情報をまず集めてから蹴飛ばしに行くほうが効率がいいし)

「……わかりました」


 そう言っておとなしくさせておく。


 テレビの中では記者が「なぜそのようなことを考え始めたのか」という質問をしたので、先生は、


『恐らく破蓋に乗っ取られてしまったか忠誠を誓ってしまったのかと思います。英女学校にいる少女たちはみな自己犠牲心と他者への奉仕精神の強い子ばかり。破蓋に騙されるということは考えられました』


 俺も先生の話を聞いていてムカムカしてきた。破蓋の野郎に従うなんて今までの英女の戦いの中でも先生本人一人だけだろうに。

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