最終章 おっさん、覚悟を決める

第206話 なんだこりゃ

 なんだこりゃ。俺は困惑を超えて混乱していた。俺だけじゃなく、ナナエもしかめっ面になり、ヒアリはなぜか興味津々な顔をしている。


「……まあ、帰ってきて早々この有様で驚くのは仕方ないけど」


 そう頭を抱えたポーズで生徒会執行部の風紀委員のクロエが黒く長い髪をかきあげつつ頭を抱えている。


 ここは生徒会室だ。無事に大穴を通ってそのまま地上に出て学校に戻ってきている。もうちょっと波乱とかありそうだと思ったが案外すんなりうまく行ったのは助かった。地上に出た途端に俺達を包み込んで運んでいたカーテン破蓋の野郎に蹴り出されたこと以外は。


 やっと戻ってきて疲れてるし寮の自室に戻ってのんびりしようぜと俺は言ったが、ナナエは一蹴して生徒会室へ直行してきたわけだが、


『我々はー! この長きにわたる戦いに終止符を打つべくー! 破蓋との対話を開始すると宣言するものであーる!』


 生徒会室に置かれたテレビにはハイリのやつが映っていて演説をしていた。その後ろにはミミミとマルもいる。


 ナナエはテレビの画面を凝視して、


「これは……この大穴と外界の境界線の出入り口ですね。ハイリさんたちは一体何を……」

「ねーねーこれテレビ番組? すっごーい! ハイリちゃんたちテレビに映っちゃってるよー!」


 そう手を上げて嬉しそうにするヒアリ。珍しくテレビという言葉を使っているのに少し驚いたが、ハイリのやつ曰く頑固頭なナナエでもなければ、普通に横文字な言葉は使われているとか言ってたっけ? それとも俺がたびたびテレビテレビと言っていたから覚えたのかもしれない。


(お前もテレビって言えよ。映像端末とかなんかいいづらいんだよ)

「嫌です。私は神々様に使えるものとして、神々様中心の国家が決めた取り決めにはきちんと従うのです」

(融通の効かないやつは老けるぞ)

「どういう理屈です!?」


 ナナエが目くじらを立てて文句を言ってくる。全く本当に頭の硬いやつだ。


 馬鹿な話はさておきテレビの映像をしっかり見てみる。

 工作部の連中が殺風景な荒野で拡声器を持って叫んでいた。映像はその正面から映っている。その背後にはうっすらと廃墟になった建物や英女学校の施設が見えるので恐らく外側から撮影しているのだろう。

 と思いきや映像が大きくまわってハイリたちの後ろに移動してきた。今度は英女学校から外側が映し出される。


(なんもねーのな)


 俺は驚嘆した。学校から外側にはなにもない。まっ平らな荒野がずっと続いてその先にあるのは地平線か、かろうじて山が見える。


(ひどく殺風景だな。破蓋と戦う神聖な場所と聞いていたからもっとクソ高くて頑丈な壁に覆われていると思っていたぞ。それでゲート――門みたいなのがあって、周りにはこっわい格好した衛兵みたいなのが並んでいるとか)

「いつも時代の話をしているんですか」

(でもこんなになにもないんじゃ、興味本位で遊びに来る奴らとかいるんじゃないの? ユーチューバーとか)

「ゆーちゅーばーってなんですか?」

(個人で番組を作ってネット――電網とかいうので配信公開している人たちだよ。結構稼いでいる人もいるらしいぞ)


 俺がそう言うとナナエはテレビに映っている荒野を指差し、


「ハイリさんたちがいるところから外に向かって鉄線が引かれていてその向こう側には空き地が広がっているでしょう。あそこは全部地雷原ですよ」

(……マジで?)


 俺が呆れているとナナエは首を振って、


「私達の国の神国は神々様を中心に考える国家ですが、中には反対する不埒な輩もいます。かなり昔にそういう人たちが英女学校に忍び込もうとした事例などがあったため、この一体を全て更地にし、地雷原にしました。通れるのは今ハイリさんたちがいる一つの道路だけです」


 俺は呆れてしまい、


(安全のためみたいな言い方だが、これじゃお前らが隔離されているだけじゃないのか?)

「解釈の違いでしょう。外部からの脅威を守るためにはこちらもある程度隔離されることは避けられません。神々様が力を授けるのは無垢な少女だけなので、外部と隔離したほうがいいという側面もありますし」

(でも破蓋が浮上してきてもし地上にでたら逃げないとまずくないか? これじゃ破蓋に襲われるしかないだろ)

「そうならないために私達英女が何が何でも破蓋を撃退しなければならないんですよ」

(めんどくせえなぁ)


 俺がブツブツ文句を言っているとクロエが首を突っ込んできて、


「あの地雷原、実は普通の地雷じゃなくて核爆弾が地下に埋められているって噂もあるのよ?」

「えっ」


 この話はナナエも知らなかったのか驚きの表情を浮かべる。クロエは続けて、


「もし破蓋が地上に侵攻し英女が全滅したときに使うものって言われてるわね」

「し、しかし、破蓋には神々様の力を借りた攻撃手段でなければ――」

「だから気休めなものでしょうね。もし使われたら英女学校もそこの生徒たちも全滅するけど」

 

 ナナエと俺がクロエの話に呆然としてしまったが、すぐに、


「まあ噂の話よ、あくまでも噂、ね」


 そう笑顔で話を終わらせた。

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