第204話 犬破蓋3
「ヒアリさん! 少しだけ時間を作ってこちらに来てください!」
ナナエがそう呼びかけると、ヒアリは一気に犬破蓋に飛びかかる。突き出される舌攻撃を間一髪でかわすと犬破蓋の足元に飛び込んだ。
「じゃあ!」
そう叫ぶのと同時に思いっきり頭突きして犬破蓋を宙に飛ばし、
「これで!」
次に近くの団地の棟の壁で反射するようにジャンプして宙に浮かんだ状態の犬破蓋に強烈なドロップキックをぶち込む。
蹴り飛ばされ凄まじい勢いで団地の建物にめり込んだ犬破蓋だったが、ヒアリはさらに追い打ちをかけて建物を両手の鉈でバラバラ――建物の壁はコンクリートなんだが、まるで豆腐でも切っているかのようだ――に切り刻み、犬破蓋の頭上に次々と瓦礫を降らせる。
しばらくすると瓦礫の山の中に埋まってしまい動けなくなった犬破蓋だけが残った。
すぐにヒアリはナナエの横に戻ってくると、
「いいかな?」
鉈をクルッと回して笑顔で微笑んだ。相変わらず強いぞかっこいいぞ可愛いぞヒアリさん。
俺が叫んでいるとナナエは呆れながら、
「そこ、うるさいです。話があるのはおじさんでしょう。あの程度であの破蓋はだまりませんよ。早く済ませてください」
(お、おう、そうだった」
俺は簡潔にあの犬破蓋攻略法をヒアリに伝える。
ちょうど伝え終えた辺りで瓦礫を払った犬破蓋が立ち上がり始めていた。どうせならあのまま潰れてくれればよかったんだけどな。
ナナエは今のうちに弾のチェックをしつつ、
「ヒアリさん、いけますか?」
「りょーかい! やってみせるよ! 当然私の命をしっかり守りながらね」
「安心しました」
「でもでも、ナナちゃんも私のことを守ってくれるんでしょ? だから私も安心してるんだよー」
二人の会話はすっかり繋がりの深い戦友って感じだ。熱いなあ。俺はここで見てるだけだけどな。俺が割って入るのは無粋だし。
(じゃあ終わらせようぜ。いい加減疲れたしそろそろ家に帰りたいし)
「うん!」
「全力で守ります!」
ナナエとヒアリの掛け声とともに犬破蓋への攻撃が再開した。
ヒアリは直接犬破蓋には襲いかからずその周りをぐるぐる周りだす。そして、さっきヒアリが破壊した団地の建物の破片を次々と、犬破蓋の前面胴体に向けて投げつけ始めた。ここにはあの犬破蓋の弱点がある。
しかし、簡単にはやらせてくれないので、尻尾攻撃はナナエが弾き続け、ヒアリも舌や両手での攻撃を起用に避けていく。ひたすら地味な作業のなか、ヒアリはコンクリート片や残っていた布団を投げつけたりしている。
それがしばらく続いたときに起きた。
「まさか本当になるとは……」
「おじさんすっごーい!」
ナナエとヒアリの称賛の理由は犬破蓋がいきなり機能停止したからだ。
やっぱりあの犬破蓋は生物の犬がベースではなく、おもちゃの機械じかけの犬だったんだ。ペットが欲しいけど飼えない人向けの遊び道具のやつだ。
あのおもちゃ犬は前足辺りのところにセンサーがある。このセンサーに応じて身体が動くんだが、ここにゴミとか挟まっていると変な動きをしてしまう恐れがあるので、自動的に座らせて動かなくなる安全装置みたいなものがあったはずだ。さらに関節とかにもゴミが入ると無理に動いたら壊れてしまうので動かなくなる。
というわけでヒアリに瓦礫をセンサー部分や関節に投げまくって安全装置を動かして機能停止に追い込んだのだ。
動かなくなればあとは核を破壊すればいい。
「ここで決めるよ!」
ヒアリは一気に――犬破蓋の上から切りかかった。いつもなら尻尾やらなにやらで襲いかかってくるが、今は機能停止中だ。
こいつの起動スイッチは首の根元だ。あとはそこを破壊すれば――
「――――!?」
だがここで突然尻尾が動き出した。完全に機能停止には追い込めてなかったらしい。しかもヒアリは真上から切りかかっている真っ最中だからあの複雑怪奇な動きは避けきれない。
「――破却します!」
ここでナナエが叫び、発砲した。今まで通りに尻尾を弾き飛ばし――と思ったら、跳ね返った弾がきれいに犬破蓋の首に直撃する。
(うっそだぁ……)
俺は感心を超えて呆れてしまう。あれだけ無茶苦茶な動きをしていた尻尾に当てるだけですごいと思っていたのに、跳弾した先が犬破蓋の核に直撃ってもう神業を超えている。まあ実際に神々様の力を借りているんだけど、それだけじゃ到底無理な技だ。ヒアリもすごいがやっぱりナナエのやつも相当にすごい。本人に直接言うと調子に乗ってうざいから黙っておくが。
犬破蓋は咆哮を晒しながら、そのまま崩壊し始める。粉々になった破蓋の塵が空に巻き上がっていった。
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