第203話 犬破蓋2
「いくよー!」
カーテン破蓋をマントにして一気に犬破蓋に向かって走り出すヒアリ。
それに対して、犬破蓋は細い尻尾をぐねぐねかくかくと複雑な円や四角を描いたままで動かさない――犬破蓋は鳴き声攻撃でヒアリに襲いかかった。
「ごめんね!」
ヒアリが謝罪したのはカーテン破蓋がヒアリを覆うようにかぶさり、鳴き声攻撃を防いだからだ。耐火性のカーテンが元だが、厚手の生地だったのでそれなりの攻撃も弾けるはず。ただ本来の性能ではないからだんだん傷ついていくはずなので何度も使うのは危険だ。
ヒアリはホバークラフトのような動きで鳴き声攻撃を受けつつも前進し、一気に犬破蓋に切りかかった――
「させませんっ!」
ここでナナエは大口径対物狙撃銃を発砲した。俺が全く認識できない一瞬で犬破蓋の尻尾がヒアリに向かって攻撃を仕掛けていたのだ。
だが、こっちのナナエも努力の化け物。かなり複雑な動きかつ目標が小さい尻尾の先端に銃弾が直撃する。
それで尻尾は明後日の方に飛ばされるが、またすぐに勢いを取り戻し再びヒアリにカクカクとした動きで襲いかかってきた。
「次っ!」
ナナエの掛け声とともに発砲。そして、複雑な動きをしているのも関わらず、あっさりと尻尾の先端に直撃してまた弾き飛ばす。はー。相変わらずすげえやつだな。伏せるとここまで命中精度を上げられるのか。
尻尾攻撃を防いだのを確認したヒアリはそのまま犬破蓋を思いっきり蹴飛ばした。体格差が10倍ぐらいありそうな破蓋なのにキック一発で大きくふっとばされて崩壊しかけた団地に突っ込む。相変わらずの強さだ、ヒアリさん。
この程度の攻撃でくたばらない犬破蓋は瓦礫を払ってまたヒアリの方を向く。そして、思いっきり溜めてからまた鳴き声攻撃をヒアリに向けてきた。明らかに音波というかそういうものの勢いが違う攻撃がヒアリに襲いかかってきた。
これをカーテン破蓋に受けさせるのはまずいと崩壊した団地の建物のベランダに乗っかって回避する。激しい轟音とともに、さっきまでヒアリがいた近くの団地の棟が崩壊していく。やべえな。あれを直撃するとヒアリでは即死も考えられる。
犬破蓋は間髪入れずにまた声を貯めるような動作に入った。しかし、同じ手を二度も食わないと、犬破蓋の目に向けて鉈の片方を投げる。きれいに一直線に犬破蓋の左目に直撃して、苦悶の鳴き声を上げたが、それでもお構いなしに鳴き声攻撃を発射した。
ヒアリは即座にベランダから降りて鳴き声攻撃をやり過ごす。そして、崩壊していく建物の破片の中、庭に着地しようとしたが、そこで犬破蓋が一気に間を詰めてきた。
尻尾は相変わらずヒアリが弾き飛ばし続けているので使えない。口を開けていたのでここは噛みつきでくるかと思ったら、なんと長い舌がヒアリ向けて発射された。
「っ!」
だが、さっきナナエたちと話したときに舌による攻撃の可能性をヒアリも聞いていたのが良かったのだろう。すんでのところで着地と同時に庭をスライディングするような格好で犬破蓋の舌をかわす。そして、そのまま犬破蓋の横っ腹を思いっきり蹴飛ばし、近くの建物に直撃させた。
(うえー、ヒアリマジですげえな。強すぎる)
「ヒアリさんを褒めている余裕はありませんよ!」
俺達は相変わらず犬破蓋の尻尾を銃弾で跳ね飛ばしていた。地味な作業だが、あの尻尾で自由にヒアリが攻撃できるようになれば、ヒアリは圧倒的に不利になると予想できる。ナナエの攻撃がヒアリの生命線だ。
ナナエは全弾撃ち尽くすつもりで戦っている。一方、俺はやることがないので、今はナナエの危機が来るまで待っておくしかない。このまま何事もなく破蓋を倒せればいいんだが……
今は二人の奮戦ぶりを眺めているしかないので、どうせだし犬破蓋を観察してみる。
そういやあの犬破蓋の核はどこだ? ヒアリとの戦いは動き回るものなので犬破蓋の全身はしっかり見ているが、核が見当たらない。ナナエは心臓か脳だろうと予想していたが……
そんな事を考えていたら、ナナエの弾丸が犬破蓋の尻尾をかなり大きく弾き返した。ふらふらと今までとは違いバランスを崩している尻尾を見て、
「今ならっ!」
突然ナナエが掛け声を上げ、犬破蓋に向けて2度発砲した。狙いは尻尾ではなく、頭と心臓がありそうな部分だ。
しかし、犬破蓋は2箇所ともに直撃を受けたが全く応えてない。もしかして、ここには核がないのか?
「そううまくは行きませんね……!」
ナナエは唇を噛んでまた尻尾を狙い撃ちし始める。
心臓でも頭でもない。ならあの犬破蓋の核はどこにあるんだだ? 俺があちこち見回していたが、ふとあの尻尾が目に止まった。基本的に破蓋は元ネタの拡大解釈はするが、ただの犬はあんな尻尾の動かし方をするとは思えない。そもそも尻尾で攻撃する犬とかいるんだろうか。触ったりしただけでものすごい嫌がるはずなのに。
またヒアリに尻尾が襲いかかったのでナナエが銃撃で弾き飛ばす。とても生身の生物がやるような動きをしていない。本当に生物なのか? まるで機械仕掛けみたいな……
機械という言葉が出てきたときに、俺はピンときて、
(おい、少し余裕があるときでいいんだが、あの犬野郎の首元に核がないか見てくれ。あいつの動きが早すぎて俺じゃ目が追いつかん)
「少々厳しいですが……」
ナナエは犬破蓋の尻尾を弾きつつ首の根元を確認し始める。やがて、
「首の後に光っているものがありますね。核の可能性がありますが、ここからでは確証を得られません」
俺はナナエの話を聞いて確信した。あれは生物の破蓋じゃない。
機械だ。
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