第202話 犬破蓋1
次の瞬間、あの強烈な犬の鳴き声とともに猛烈な――音波?みたいなものが俺達の頭上を襲った。次々と木々や丘の土が削り取られていく。
(勘弁してくれマジで)
俺が攻撃が止まったあとの丘の状況を確認すると丘ごと削り取られていた。
ナナエは崩れた丘の物陰から犬破蓋の様子を伺いつつ、
「今のは恐らく鳴き声ですね。大きな声は人間に痛みを与えることが出来ますから」
(犬の鳴き声はとくにうるせーからな。頭にガンガンくるぜ。とはいえ丘ごと吹っ飛ばすなんて相変わらず拡大解釈する奴らだ)
ナナエはヒアリの方に向いて、
「ヒアリさん、ありがとうございました。おかげで助かりました」
「い、いいよ。私もナナちゃんが無事で本当に良かったし……」
そう答えるヒアリの顔は笑顔ながらもやや曇りがちだ。くそっ、可愛いヒアリにこんな顔をさせやがって。絶対に許さん。
ナナエはやや迷ったのちに、
「ヒアリさん。このような状況でのお願いになります。今から私達はあの犬の破蓋を破却しなければなりません。しかし、ヒアリさんはやはり破蓋との和解を推し進めたいはずなので、あまり気がすすまないのですが、私達だけではあの破蓋は――」
「いいよ」
ヒアリの答えは明確明瞭だった。迷いはまったくなくあの犬破蓋を倒すと強く答えている。
ナナエが困惑するのも構わずヒアリは続けて。
「私のことを好きだって言ってくれている人――じゃないかな。私を助けてくれる破蓋さんたちが天蓋さんが連れてきた破蓋さんをすごく怖がってる。だったら――」
ここで二本のナタを構えて、
「私はかーてんちゃんとげんつきちゃんを守る!」
そう堂々と宣言した。だがまだナナエが不安顔なのを見て、
「ああっ、でも大丈夫。ナナちゃんとの約束もちゃんと守るよ。命は大事だよね」
「……それはくれぐれも注意して守ってください。ヒアリさんは他人のために命をかけすぎますから」
「えへへ~」
「笑い事ではありませんよ!」
照れるヒアリにびしっと指摘するナナエ。まあ喧嘩しているわけでもないし、ナナエもヒアリもお互いよくわかっているから連携は全く問題ないだろう。
さて。ナナエは俺と一緒に物陰から犬破蓋の様子を伺う。何を考えているのかわからないが、そこに立ったまま動こうとしない。ただじっとこっちの方を見ているので恐らく出てくるのを待っているんだろう。
「さっきも言ったとおり、犬なので相手の攻撃は予想しやすいです。あと舌を使う可能性もあります。特に先程の鳴き声は要注意でしょう。そして、問題なのは……」
ヒアリがナナエを連れて犬破蓋の様子を確認し直す。焦点はあのケツから生えている細長くて奇妙すぎる動きをしている尻尾だ。直角に動いたり曲線を描いたり、この世界の理とかお断りした感じのメチャクチャな動き。
「攻撃手段は刺す、ひっぱたくといったところですが、どういう動きをしてくるのか見極めにくいです。そのため私は後方からあの尻尾を狙撃し続ける役になります。前衛として戦うのはヒアリさんにお願いします。危険なのはわかっていますが、私もヒアリさんにあの尻尾による攻撃が当たるようなヘマはしません」
「わかったよー。ナナちゃんよろしくおまかせしちゃうよ!」
「その間に私が核を見つけます。犬であるのなら恐らく心臓か脳でしょうが、闇雲に攻撃すれば弾が持たないので、見つけ出してから確実に破却します」
「はーい!」
ナナエの作戦について可愛らしい返事をするヒアリ。覚悟を決めたのか表情が強く明るくなってる。やっぱり今日もヒアリはかわいいなぁ。
さっさとすべての弾薬と大口径対物狙撃銃のチェックを済ませると、ナナエとヒアリは物陰から出て、犬破蓋へと向かう。
そして、ある程度距離のあるところで、ナナエの銃とヒアリの鉈をお互い叩きあって大きな音を出した。
すると、立ったまま動かなかった犬破蓋がゆっくりと唸り声を上げながらこちらを向いてくる。うおおおおお……なんてインパクトだ。睨まれただけでしょんべん漏らしそうだぜ。やはり生物の破蓋だから雰囲気が違うのか?
ナナエは一気に顔を引き締め、
「大穴までもう一歩です。これ以上時間をかけられないのでここで一気にあの犬の破蓋を倒してしまいましょう」
「りょーかいだよ! それでナナちゃんとわたしとおじさんが帰れるね!」
「おじさんはどうせ私の中に居座ったままなので考える必要はありませんよ。私が私の家に帰ればおじさんも強制的に帰りますし。非常に不本意ではありますが」
(うるせー。逃げられるならとっくに逃げてるっての)
俺達がそんな軽口を叩きあっている間に犬破蓋はゆっくりとこちらへと近づいてきた。
すぐさまナナエは大きくジャンプして少し離れた丘の上に移動して地面にへばりつくスタイルで犬破蓋に大口径帯物狙撃銃の狙いを定める。
(座ったまま撃っても外すことはなかったんじゃないのか?)
「今回は一発のミスでもヒアリさんの命の危機です。確実に確実を重ねていきます。当然破蓋からの攻撃には何も出来ないのでそのときはおじさんにお願いします」
(へいへい)
もし犬破蓋がこっちに来たら俺に変わってボコられろってことだ。俺にできることといえばそれしかないし、ヒアリを守るためならやってやるさ。
そして、犬破蓋が尻尾を動かし始める。
ナナエは照準を定め、
「では……始めます!」
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