第200話 到着

 数時間後、俺達はやっとこさ目的の団地へとたどり着いた。何時間もハンドル握りっぱなしで手がしびれて痛い。


 五階建ての昭和時代の遺物みたいな建物が大量に並んでいる。高度成長期に作られた県内でもトップクラスの大規模団地のため、戦闘機破蓋と戦っていたマンション群とは違い古めかしい雰囲気に溢れかえっている。ただでさえ寂れていたのに、破蓋に人類滅亡させられているから誰もいないゴーストタウンだ。


「ここでおじさんが……」

(まあそういうことになるな)


 ヒアリに言われると俺は何かもぞもぞした感覚になる。自分の死んだ場所を自分で見て他人の反応を伺うという変なシチュエーションにどうしたらいいのかわからない。


 そのちょっと脇のエリアに巨大な大穴がぽっかりとあいていた。ナナエの世界で見たものと全く同じで地中深くに伸び続けている。


 俺達は少し離れた場所の建物の上で様子をうかがっていた。なんで近づかないのかといえば、


「あれはここに来る途中で見た破蓋ですね」


 ナナエの視線の先には大穴の前でじっとしているしゃもじ破蓋がいる。海の上を移動してここに向かっていたやつだろう。しかし、時間的にはとっくにたどり着いてナナエの世界に突入していてもおかしくないんだが、全く動く気配がない。何やってんだあれ。


 しかし、あのしゃもじ破蓋が天蓋の言葉で導かれてここに来たってことはあの大穴の先がナナエの世界なのは間違いないだろう。しかし……


「……やっぱり妙です」

(そうだな)

「?」


 ナナエの疑問に俺は同意する――ヒアリははてなマークを浮かべていたが。


 俺がこの団地で清掃の仕事をしているときに突然地震が起きて建物が倒壊して押しつぶされて死んだ。その前に昼飯を食っていたときに世界で異変があったなどの情報はない。つまり破蓋はまっさきに俺のいた場所に出現したことになる。

 ここに大穴があるんだからそれは確定だろう。しかしだ。ヒアリが前に指摘したとおり、破蓋が他所の世界からここに侵略してきたのだから、この大穴はナナエの世界ではなく別の世界とつながっていることになる。

 でも、しゃもじ破蓋は大穴の前にずっと立っている。つまりあそこがナナエの世界とつながっているはずだ。


 ナナエもしばらく考えてから、


「もしかしたら、大穴の内部でいくつも枝分かれしているのではないでしょうか。天蓋が支配していた世界の大穴を進むと、私達の世界とおじさんの世界の2つの道があるということならば、矛盾はしません」

(まあ合理的な推測だとは思うが……)


 あくまでもただの推測&推測で証拠がなにもないからどうもスッキリしない。

 俺は一旦頭を振って、


(それは後にしてまずはあのしゃもじ野郎をなんとかして大穴を調査してみようぜ。ここから眺めているだけじゃ話にならん)

「そだねー」


 ヒアリも手を上げて賛同する。

 しかし、あのしゃもじ破蓋はマジで何やってるんだろうな? もしかして天蓋の指示に迷ってるんだろうか。


 俺がそう思った途端にヒアリのマントになっているカーテン破蓋がバッサバッサと身体を震わせた。


 さらに今度は原付破蓋がいきなりエンジンを吹かし始めて、しゃもじ破蓋に一直線に走り出す。


「ああっ、勝手に動いちゃ危ないよー!」


 ヒアリが呼び止めるが、すでに声が届かなかったのか、そのまましゃもじ破蓋のところにたどり着いてしまう。さらにエンジンやクラクションを鳴らしながら、しゃもじ破蓋の周りをぐるぐる走り出した。何やってんだあいつ。


 ここでヒアリがなにやらカーテン破蓋と話をし始めて、


「原付ちゃんがしゃもじさんに天蓋さんの言葉なんて聞かなくていいって言ってるんだって。なんかすごく迷っているみたい」

「破蓋と破蓋が接触……興味深い状況です。うまく行けば今後破蓋と戦わずに味方につけることも考えられます」


 破蓋同士がコミュニケーション取ってんのか。驚く一方で俺らも破蓋に関して何も知らなかったかことがよく分かるな。あの原付破蓋は戦闘機破蓋なんて天蓋の強い影響を受けているやつの言葉にも全く同調してなかったし、やはり天蓋を信用してないのだろう。

 しかし、ナナエの期待感は理解できるが、


(まあでも天蓋に同調した破蓋は難しそうだけどな……)


 俺は戦闘機破蓋の姿を思い出す。直接俺に天蓋の言葉を伝えに来て激しい――なにか憎悪みたいなものを放っていた。とても普通に説得できるようなものだとは思わない。まあ俺が天蓋に強く関係しているなにかってのが正しいなら考え直してくれる可能性もあるか?


 しばらく原付破蓋は煽るように走り続けていたが、程なくしてしゃもじ破蓋が方向を変えて大穴から離れだした。


(マジかよ……本当に説得しやがったぞ)

「これはすごいことですよ……! 私達の戦い方が根底から崩される可能性が出てきました!」


 俺とナナエの歓喜していたが、今度はカーテン破蓋また激しく怯えだした。すぐにヒアリがさすって落ち着かせようとしつつ、


「ナナちゃん、おじさん。すっごく怖いのが近づいてきているって!」

「――――っ!?」


 ナナエは即座に大口径対物狙撃銃を構えた――

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