第199話 一気に目的地へ
というわけで俺が運転する原付で一気に走り出した。最初は俺が乗ろうとすると原付破蓋が暴れて大変だったが、ヒアリがなだめてなんとか落ち着いている。
久々に原付に乗ったから不安だったが、割とすぐに慣れてマンション街を抜けて目的地へと向かった。
「おじさんはっやーい!」
そう後ろでヒアリが称賛の声を上げていた。後ろの荷台に乗っかって俺にしがみついているのだ。ニケツってやつである。
本来ただの原付なら荷台は小さくていくら中学生サイズのヒアリでも乗るのは無理だ。なので、カーテン破蓋が自らを折りたたんで硬質化して広い板みたいになり荷台にくっついた。それにヒアリが乗っかっている。ヒアリはカーテン破蓋の上に乗っかるのは気が引けていたようだったが、本人(?)はやる気満々だったので普通に座っていた。まあヒアリのケツに敷かれるのなら本望なんだろう。
ノーヘルでニケツとか道交法違反? この世界にはとっくに警察なんていないだろうよ。
しかし、この状態には大変な問題がある。ヒアリは振り落とされないために俺にしがみついているんだが……そのなんというか……その柔らかいあれが俺の背中にあたってだな……
(この変態! 変質者! 危険人物! 性犯罪者! 人類の悲劇! 産業廃棄物! これ以上変なことを考えたら塵になるまで成敗しますよ!)
ナナエがギャーギャーうるさい。こいつが原付を運転できれば一番はやいんだろうが教えている暇がない。こいつが背中にくっついていたも何も思わないんだろうけどなぁ。
あと俺がムフフとか思うと原付破蓋が突然クラクションを鳴らしたり蛇行したりするのだ。こいつもナナエと同じくヒアリに邪な感情を抱くなと怒っているらしい。つれぇ……周りに敵しかいない。
「おじさん大丈夫ー? やっぱり飛行機破蓋さんの力を借りて空を飛んでいったほうがいいんじゃないかなー?」
「空を飛んで移動すると事故ったりしたら大変だしこれで十分だよ」
ヒアリの提案を俺は断っておく。なんでもヒアリが飛べるようになる力を貸してくれたレシプロ破蓋はカーテン破蓋に染み込むような形でまだ存在しているらしい。飛行機の形にはもう戻れないそうだが、ヒアリがナナエを抱きかかえる形では飛べるようだ。
しかし、空を飛んでいると周りから丸見えだしまた戦闘機破蓋が飛んできたら撃ち落とされて一巻の終わりになる。地上のほうがバレにくいと考えたのでこうやって原付破蓋で移動している。
俺はちらりとヒアリの尻に敷かれているカーテン破蓋を見る。こいつはレシプロ破蓋を崩壊させてその後にヒアリの元に戻り、それからヒアリが飛べるようになった。
ちょっと前の俺なら何が起きたのかわからなかっただろうが――いや今でもはっきりとはわからないが、多分レシプロ破蓋は元の姿に戻ったのだろう。
破蓋から神々様に。
「なあ」
「なーにー?」
俺の問いかけにヒアリは無邪気に反応する。俺は少し考えてから、
「俺、人間の破蓋じゃなくてどうやら天蓋の一部っぽいんだよ」
「…………」
唐突な俺の言葉にヒアリは無言だったので、サイドミラーで見てみるとぽかんと口を開けてしまっている。
――次の瞬間、原付破蓋が車体を震わせ始めた。
「ひゃあ!」
振り返ると今度はヒアリの尻に敷かれていたカーテン破蓋もビクついている。
俺は慌てて、
「落ち着けよ! 俺はお前らのことをどうする気もないしどうにかできる力もないから安心しろ! 事故ったほうがやばい!」
そうなだめるものの破蓋たちはしばらく震え続けて、ヒアリがなでたりしてやっとのこさ落ち着きを取り戻す。やれやれ。
俺は話を再開して、
「記憶がはっきりしねえから詳しくはわからないんだが、あの戦闘機野郎――あれを通して話していた天蓋は明らかに俺を自分の一部みたいに言っていたんだよ。一体何のつもりで俺なんてものを作り出したのかわからねえし、目的もわからねえけど」
そこまで言ってから、
「わりい。話っていってもわからねえことだらけだったわ」
俺がそういうとくすくすとヒアリは笑って、
「なにそれー。でもおじさんらしいと思うよ」
「そうかい」
ここでナナエが首を突っ込んできて、
(やはりおじさんは敵の斥候なのでしょう。明らかに駄目な人間を紛れ込ませ人類全体の品位を下げるのが目的としか考えられません。このような駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目人間が存在してしまう理由はそれ以外にありえないですね)
「……なるほど。確かにその可能性は高そうだな」
(たまには否定したらどうなんです!?)
俺があっさり認めるとナナエは仰天して怒り始める。
そんな俺とナナエの話を聞いていたヒアリはまたクスクスと、
「でもそれが本当なら私はすごく良かったと思うよ」
「なんでだよ?」
「だっておじさんが天蓋さんの一部なら天蓋さんとも仲良くなれる可能性があるってことだしね」
「…………」
ヒアリの楽観的な言葉に俺は何も言えない。あの戦闘機破蓋――天蓋から感じた憎悪はそんなレベルではなかったからだ。
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