第198話 仲間?
「ナナちゃーん。ここから地下に入れるよー」
ヒアリが手を振って呼んでいる。
これ以上ここにウロウロしていたらまた新しい破蓋が現れそうだからさっさと移動しようと思ったんだが、走って進むのは体力的に厳しいのでまた自動車を探しているところだ。
しかし、戦闘機破蓋がそこら中のマンションを崩壊させてしまっているので駐車場もメチャクチャだ。使える車が全く見つからない。
そんなわけで無事なマンションを中心に探していくが、駐車場はもぬけの殻。そりゃまあ世界が滅亡しようとしたなら車で逃げ出すのが普通だしな。
今度は崩壊したマンションでも地下に駐車場があるのでそこを探していたが、ヒアリが隙間を見つけたので入ってみる。
(うーん……ねーなー)
瓦礫の隙間をくぐって地下駐車場に下りるがやはりなにもない。やっぱりみんな逃げ出してしまったのだろう。まいった。自動車がないと目的地までにはかなり時間がかかる。途中でまた破蓋に追いつかれたらさらに手間がかかる。
「おじさーん! あれあれあれ!」
ヒアリが指差した方にあったのは二輪車――原付なバイク――があった。
(原付なら乗ったことあるぞ。代わってくれ)
「はい」
ナナエから身体の主導権を借りると原付に乗った。そしてエンジンを――鍵がない。つけっぱなしにしていくやつなんて普通はいないんだから当たり前である。
これでは使い物にならない――と思っていたら、
「――うおわっ!」
突然原付のエンジンが掛かった。そして、猛スピードで走り始める。なんだこりゃどうなってんだ!?
必死に原付にしがみついていた俺にヒアリが追いかけてきて、
「おじさん! かーてんちゃんがそれ破蓋さんだって言ってるよ!」
「ちょっと待てこら!」
いきなりとんでもないことを言われて俺は慌てて原付から飛び降りた。それなりのスピードの状態から飛び降りたので地面をゴロゴロ転がってやっと止まる。ガチで痛い。
(大丈夫ですか?)
「破蓋にぶん殴られるよりはマシだけどやっぱりいてぇ」
ナナエに気遣われるが、いつものように傷はあっという間に治っていく。そして、痛みも徐々に引き始めた。
一方の原付破蓋は停止し、こちらをにらみながらぶるんぶるんとエンジンを鳴らして威嚇していた。猫か犬みたいなやつだな。
ここで一旦ナナエに身体の主導権を返す。ナナエは即座に大口径対物狙撃銃を構えると、
「……襲ってくるのならば、今は私達の命を守る方を優先します」
ナナエがちらりとヒアリの方を見ると複雑な表情を浮かべているのがわかる。あまり変な苦悩はさせたくないんだが……
「お願い!」
突然ヒアリが叫ぶとヒアリのマントになっていたカーテン破蓋が突然飛び出して、原付破蓋に取り付いた。そして、しばらく暴れるように走っていた原付破蓋が次第におとなしくなり、最後にはヒアリの足元にやってきた。
「えへへ~、ありがとー」
ヒアリが原付破蓋の頭をナデナデすると、なにやら嬉しがって車体をくねらせはじめた。
と思ったら今度はカーテン破蓋がいきなり原付破蓋を生地でひっぱたいた。それに怒った原付破蓋がまたエンジンを噴かせてカーテン破蓋に体当りする。なにやってんだこいつら。
「ああっ、駄目だよ喧嘩しちゃ!」
ヒアリがその間に割って入り、
「仲良くしないと駄目だからねっ」
そうヒアリにピシャリと言われてしゅんとする原付破蓋とカーテン破蓋。カーテン破蓋のほうはその後にヒアリのマントに戻る。
その様子を呆然と見ていたナナエだったがやがて頭を抱えてしまい、
「すいませんヒアリさん。とりあえず説明してくれると助かります」
そう尋ねられたヒアリはうーんと少し考えてから、
「よくわからないや。ごめんね」
「えぇ……」
ナナエは更に呆れてしまう。ヒアリはまた考えてから、
「私がナナちゃんやおじさんを助けたいって思うと、かーてんちゃんが力を貸してくれるんだよね。かーてんちゃんは私の意思をうまく別の破蓋さんに伝えてくれているみたい」
「なんともあやふやな……」
うーんと唸ってしまうナナエ。つまりヒアリは破蓋を従えてるってことか? そういやレシプロ破蓋もヒアリに力を貸してくれて、それで戦闘機破蓋と空中戦ができるようになったみたいだったが……
「この破蓋さんも私を助けてくれるって言ってくれたんだよー」
そう言ってヒアリがまた原付破蓋を撫でると嬉しそうにエンジンを吹かし始める。
そんなヒアリにナナエはやや難しい表情で、
「しかし、破蓋は破蓋です。私達の命を奪いに来ていましたし、さっきまでも危うく死にそうになるほどの戦いをしてきたので仲間になると言われてもすぐには……」
俺は原付破蓋を見てから、
(いや、その破蓋は大丈夫じゃね)
「なぜですか?」
(だってさっきの戦闘機野郎は天蓋の意思を強く受けていて従え連呼しまくっていたやつだったけど、この破蓋はずっとここにいたってことだろ? もし俺達に敵対する意思があるならあのときにいっしょに襲ってきていたはず)
「……確かに。一理ありますね」
ふむとナナエは頷いた。
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