第196話 戦闘機破蓋11
相変わらず上空ではヒアリと戦闘機破蓋の激しい空中戦が継続している。しかし、ヒアリの武装は今までと変わらず二本の鉈だけで、一方の戦闘機破蓋はミサイルや機関砲を撃ちまくりだ。力の差は歴然である。
そんな状況でもヒアリは器用に空中を飛び回り、速度でまさる何度も戦闘機破蓋に切りかかっている。やっぱりすごいよヒアリさん。
しかし、徐々にヒアリの動きが鈍くなっているような感じだ。恐らくはじめての空中戦で体力も精神力も消耗が激しいのだろう。
このままではいずれヒアリがやられる。なのでこっちも反撃だ。
「こんな撃ち方よく思いつきますね……!」
ナナエが感心を超えて呆れた声を上げる。
今、ナナエは地面に寝た状態で両足を高く空に向けて上げている。そして、足の爪先で大口径対物狙撃銃を挟んで固定した。
周りにうまく土台に出来ないものがないのなら自分の足を使えばいいじゃない的な発想だ。
(なんかネット――まあなんでもいいけど見たのを思い出したんだよ。行けそうか?)
「安定しているとはいい難いですが、素手で持っているよりかはずっといいです。これでやるしかありません!」
ナナエが銃口を向ける先ではヒアリと戦闘機破蓋が飛び回っている。
破蓋を倒すには核を破壊しないといけない。元ネタが存在する破蓋は大体コンセントとかスイッチとかそういう機能に関わるところにあるが、戦闘機といえばどこだ?
ナナエはしばらく戦闘機破蓋の様子を伺っていたが、
「……見えました! 核の位置は操縦席の真下です。露出しているのでここから撃ち抜けますね」
そういうが俺にはさっぱりわからない。同じ視界を見えているはずなのに経験やスキルの差でこうも見えているものが違うってのは興味深いと思う。
しかし、戦闘機破蓋は超高速でヒアリのケツを追いかけて飛び回っている。もうちょっと高度を下げてくれれば確実に狙えそうなんだが……
そういや俺はふと思い出す。さっきあの戦闘機破蓋が得体のしれない呼びかけを俺にしていた。はっきりとした言葉ではなかったが、帰ってこいみたいなことを言っていた。
……もしかして俺のことを探している? だったら――
(おい! 俺はここにいるぞ! へいへい用事があるならこっちこいや!)
「おじさん!?」
俺が突然戦闘機破蓋を煽りだしたので驚くナナエ。
あの破蓋は何度もナナエやヒアリを攻撃していたが、そのときは別に呼びかけていなかった。もしかしたら俺がナナエの中にいることに気がついていないのかもしれない。なら捜し物はここにあるぞと呼びかければどうなるか。
(……本当に来やがった!)
俺の読みどおりに戦闘機破蓋がヒアリから離れてこちらに向かってきた。
――戻れ帰れ終了帰還中止無駄――
(――――――――――――――――!?)
またイミフな呼びかけが俺の魂ごと引っ張り上げてきた。何なんだ一体。
「大丈夫ですか!?」
苦悶の声を上げる俺にナナエが焦る。だが、俺に身体の主導権を変えたら破蓋は叩けない。耐えるしかない。
(少しだけ耐えてみせるから、さっさとやれ!)
「は、はい!」
必死こいて俺が我慢する間もどんどん戦闘機破蓋が近づいてくる。そして、俺に対する謎の呼びかけも強くなってきた。
ナナエは両足をうまく調整して戦闘機破蓋に銃口を定めた――と思ったら、いきなり破蓋が四発の爆弾をこっちに向かって投下してきた。おいおい、呼びかけだけじゃなくてしっかり攻撃してくるのかよ。
だが次の瞬間、爆弾すべてがあらぬ方向にすっ飛んでいった。ヒアリが爆弾をすべて叩き落としている。
「……完璧です! 助かりました!」
ナナエは称賛の声を上げる。ヒアリはぐっと親指を立てて答えたが、かなり無茶な動きをしていたようで、コントロールが効かずに近くのマンションに突っ込んでしまった。
「――破却します!」
そして、邪魔がなくなったところでナナエが大口径対物狙撃銃を発砲した。操縦席近くに見えていた赤い核をきれいに撃ち抜く。
(やった!)
「やりました!」
俺達が揃って歓喜の声を上げる中、戦闘機破蓋はバラバラと崩壊しながら、頭の上を通り過ぎていき、近くの崩壊したマンションの瓦礫の中に突っ込んでいった。
が、なぜか破蓋からの呼びかけが収まらないので、
(悪いちょっと代わってくれ! なんかやっぱりやばい!)
「は、はい!」
慌ててナナエの身体の主導権を借りる。変な呼びかけはまだ聞こえるが、どういうわけだがこれだと安心感が出てくる。俺の身体は一体どうなってんだ?
「ナナちゃーん!」
マンションに突っ込んでしまっていたヒアリが砂埃をかかった状態でマンションの入口から走って出てきた。どうやら怪我もなく無事らしい。
「すっごーい! やっつけられたんだね!」
「ちょ、ちょっと待てストップ!」
(ヒアリさん! 今はおじさんの状態なので近づかないでください! 危険です!)
そう俺らが止めるのも聞かずにヒアリは俺にがしっと抱きついてしまう。ああ……相変わらずあの謎の呼びかけが聞こえるけど、なんか落ち着いてきた……
いやそうじゃない。
「とにかくちょっと離れてくれ。確認したいことがあるんだ」
「あう」
とりあえずヒアリを押し返すと俺は立ち上がる。そして、呼びかけが聞こえてくる方向に振り返った。
そこには崩壊したマンションの瓦礫に突っ込んだまま、ゆっくりと崩壊した状態の戦闘機破蓋がいた。まだ消えていないのだ。
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