第194話 戦闘機破蓋9

 すぐにまたレシプロ破蓋に見つけられたので俺達は移動する。しかし、周囲は崩壊したマンションばっかりで逃げ込める場所がない。俺達は何も遮蔽物がない道路をひたすら走ることになってしまった。


「急ぎましょう! ここでは狙い撃ちされます!」

「がんばるよっ!」


 ナナエとヒアリが英女の力で素早く走るが、所詮は足で移動しているだけ。今襲ってきているのは音速で飛び回る戦闘機破蓋なんだからすぐに追いつかれるに決まっている。


 案の定、目の前の上空からまっすぐに戦闘機破蓋が突っ込んできた。隠れられるマンションは周囲にはなく、壊されていないマンションにたどり着く前に戦闘機破蓋の空爆が襲ってくるだろう。


(くそっ)


 俺が毒づくが何もいい手が思いつかない。そして、戦闘機破蓋が爆弾を4つまとめて投下してきた。


 だが、ナナエは立ち止まって動かない。


(おい何やってんだ!?)

「ここで爆弾が落ちる位置を特定してから避けます!」


 ナナエの言葉。避けきれないのならせめて空爆の場所を予想し、そこからの被害を考え、ダメージの少ない場所に移動しようってことだろう。相変わらず冷静なやつだ。


 しかし、まるで神様の嫌がらせのように予想外のことが起きる。今回投下されたのはパラシュートのついた建物破壊用の爆弾ではなかった。俺達の少し上空でいきなりぱかっと割れて大量の小型爆弾っぽいものが撒き散らされた。


 これでは当然避ける場所なんてない。


 ここでナナエは即座にヒアリに上から覆いかぶさり、道路に突伏する。ナナエは不死身だから自分が盾になろうってことだろう。てことは……


「お願いします!」

(マジかよ勘弁してくれ!)


 俺は愚痴りながらもナナエから身体の主導権をもらう。そして数秒後に俺の頭の上から小型爆弾の雨が大量に降り注いできた、パパパパパパパパパと鼓膜が破れるような音とともに辺りの建物や木々を傷つけていった。ガラスが割れる音がそこら中に響き、俺の背中にも色んなものが降り注ぐ。


 そして、空爆の煙で周辺が見えなくなった。その間に俺は覆いかぶさっているヒアリを見て、


「だ、だい……じょう……ぶ……か……」


 口がうまく動かん。どうやら爆弾やら破片やらの直撃を受けまくって神経がズタボロになっているらしい。一方のヒアリは無事みたいで特に傷ついている様子はない。ただなぜか唖然としてしまっている。その頬には俺から吹き出た血が落ちていた。

 これを見たナナエが、


(あー! 無理に喋ろうとしたせいでヒアリさんに血がついてしまったではないですか!)

(無茶苦茶言うなよ。こちとら眉毛もろくに動かせないんだぞ。おかげで痛みすら感じないけどな)

(痛みを感じないのなら身体を返してください)


 そう言われたとの同時に、身体の傷が治ってきたのか力が入るようになってきたが、


「あんぎゃあああああああああああああああああ!」


 半端に治ったせいで全身に大激痛が走りだした。くそっ相変わらず中途半端な不死身能力だな、こいつは。


 痛みに耐えながら地面を転がりまわっていると、ちょうど真上をレシプロ破蓋が飛んでいくのが見えた。空爆で巻き上がった砂煙がだいぶ消えて今では視界がひらけてしまっている。やばい、戦闘機破蓋が爆弾を落としにすっ飛んでくるぞ。


 しかし、俺の方はまだ身体の傷が治ってない。損傷が相当ひどかったのか、治るまでの時間がいつもより長めだ。


「――――っ!」


 ここで急にヒアリが起き上がったかと思えば、俺を抱きかかえて移動し始める。走ってではなく、空中をホバー移動しているような動き方で走るのよりもかなり早い。


「おじさんごめんね! ちょっと激しく動いちゃうけど耐えてほしいかも!」

「あ、ああ……」


 爆発で転がった瓦礫とかを避けながらなので高速移動するヒアリは結構揺れ動くが、俺の方もだいぶ傷が治ったので痛みは少ない。まあでも今はヒアリに任せておいたほうが良さそうだ。


 次の瞬間、背後で大爆発が起きる。戦闘機破蓋が今度は建物をふっとばす用の爆弾を落としたのだ。もたもたしていたらヒアリともども木っ端微塵だっただろう。


 と、ここでヒアリは突然方向転換して今空爆が直撃してまた煙が立ち上がっている方に向かった。そして、その中を突き進み、しばらく迷走したかと思えば、少し離れた場所にあるまだ攻撃で破壊されていないマンションに飛び込んだ。


(素晴らしい判断です、ヒアリさん)


 ヒアリが俺の身体をマンションのエントランスにゆっくり降ろしている間に、ナナエが称賛する。恐らく破蓋の追跡を逃れるために一旦煙の中に入ってから、手近なマンションに飛び込んだのだろう。ヒアリもナナエみたいな冷静な判断をできるようになったってことか。


「もう大丈夫だから返すぞ」

(はい)


 俺がナナエに身体の主導権を返すと、即座に物陰から周辺を見渡し状況の確認を始める。

 一方のヒアリはなぜか喋らず立ったままだ。


「ヒアリさん。物陰に身を隠して見つからないように――」

「ごめんねナナちゃん。私ちょっと冷静じゃないかも!」


 突然ヒアリが物騒なことを言い出した。こちらに背を向けているので表情はみえないが、なんかただならぬ気配を発している。

 ナナエは慌てて駆け寄り、


「ヒアリさん! 無茶は――」

「私は飛行機!」


 そして、いきなりわけのわからないことを叫ぶヒアリ。

 

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