第193話 戦闘機破蓋8
(勘弁してくれ)
俺は愕然としてしまう。1機は今まで戦っていた戦闘機破蓋だ。あの禍々しい宇宙みたいな紋様をつけた現代戦闘機が猛烈な速度でこのマンションエリアの上空を飛び回っている。かたやもう1機は明らかに形状が違う。頭のところでプロペラがブオオオオオと回転してそこそこの速度で飛び回っていた。
つまりもう1機新しい破蓋が現れたのだ。おまけに厄介な同じ飛行機タイプのものである。
「どうしてこうなるんでしょう……」
(神様がいるならあいつら絶対敵だ)
ナナエと俺はその場にしゃがみこんでしまう。疲労回復のために休むという選択肢が新たな破蓋を呼ぶ猶予を与えたことになってしまった。事態は最悪である。
「ご、ごめんね。私が疲れちゃってたから……」
「いえ。それは関係ありません。どっちにしろあのまま強行軍を続けていても破蓋にやられていた可能性は高いんです」
ヒアリが申し訳な下げになっていたのをナナエがすぐに否定する。今の状況ではヒアリの力は俺達にとっての要である、あのまま無理をしていてもいいことなんてなかっただろう。最悪逃げ回って疲れ切っているところにもう1機現れていた可能性もある。
ナナエは頭を振って、
「切り替えましょう。こちらの体調は回復していますし、新しい破蓋の姿を予め確認できています。これで奇襲を受けることはなくなりました」
(つか、片方は速度が遅いし、ここからさっさと仕留めればいいだけじゃないか?)
新しいほうの飛行機破蓋はいわゆるレシプロ機ってやつだ。速度も戦闘機破蓋と違って遅い。少し離れているがナナエなら一撃で仕留められるはずだ。
「そうですね。やってみましょう」
ナナエは頷くと、大口径対物狙撃銃を構える。核の位置は恐らく操縦席かエンジン――プロペラが回っているあたりのはずだ。2発当てれば始末できる。
確実に仕留めようとレシプロ破蓋の姿を追っていたが、
「ナナちゃん!」
唐突にヒアリに呼ばれて気がついた――のと同時に目の前のマンションの真上を戦闘機破蓋が通過していく。同時に爆弾を落としていたが、奇妙なことにパラシュートのような物がついていた。
「――伏せてください!」
ナナエとヒアリは即座に廊下の床に伏せた。すぐに激しい轟音とともに爆弾がマンションに直撃する。しかし、その威力が今までとは大きく違った。
(なんだこりゃ……)
頭を上げて見ると、マンションがガラガラと崩れ落ちていた。煙の出方を見ると、どうもマンション1階あたりで大爆発が起きて建物が崩壊しているようだ。明らかに今までの爆弾とは違う。
ナナエも建物の状況を確認しつつ、
「推測ですが、先程の落下傘つきの爆弾は貫通力を上げているのかもしれません。爆弾を真下めがけて落とせるようにして建物を貫通し、一番下の地面に着弾させる機能のように見えました」
ナナエは冷静に分析する。あの一瞬でよくそこまで判断できるな。相変わらず大したやつである。
さらに今度はレシプロ破蓋が俺たちの頭の上を通り過ぎていった。
(おい、今見つかったんじゃないか!?)
「可能性は高いです! 移動しましょう!」
「わかったよ!」
ナナエとヒアリは大急ぎで階段を駆け下りる。しかし、今までと違って1階に立てこもるだけではだめだ。戦闘機破蓋が使っている新型爆弾は天上を貫通して1階まで落ちてくる。
すぐさま隣マンションへ駆け込んだ瞬間だった。俺たちの真上を戦闘機破蓋が飛び去り、今度は4つのパラシュート爆弾が投下される。
(ひえっ!)
突然今まで俺たちがいたマンション1階から大爆発――しかも4箇所で連続して起きて、マンションそのものが倒壊して潰れてしまった。やべえぞ、この攻撃。今までとは破壊力が桁違いだ。
「急いでください!」
ナナエとヒアリは隣のマンションの廊下を走り続け、さらに道路をよぎっては別のマンションに飛び込む。
しばらくそれを繰り返すと、戦闘機破蓋と俺達を見失ったようで少し離れたところを飛び回り始めた。
ナナエはマンションの壁によりかかりため息をつくと、
「とりあえずこれで――」
と言いかけた瞬間、俺達のいるマンションの真横をレシプロ破蓋が横切っていった。飛んではいない。まるで着陸離陸するときみたいに道路を走っていったのだ。
(やべえぞ、多分また見つかった!)
「ああもう!」
ナナエは愚痴りながらヒアリとともに廊下を走り抜け、隣のマンションに飛び込んだ辺りで、また戦闘機破蓋の空爆でさっきまでいたマンションが根本から崩壊してしまう。
居場所がすぐに掴まれるためひたすら走り回ったが、
「ナナちゃんまずいよ!」
ヒアリが指差す先には崩壊したマンションがある。ちょうど俺達が道路を渡って別のマンションに移動しようとしたが、そこはすでに破壊されていた。
そう、ずっと攻撃され続けたせいでこのエリアのマンションの多くが崩壊しているのだ。逃げる場所もどんどん減ってくる。おまけに隠れてもすぐにレシプロ破蓋が見つけてくるので、止まることは許されない。
「これではいずれ逃げ場を失います……!」
焦るナナエ。ヒアリも焦り顔だ。
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