第192話 戦闘機破蓋7

「このみかんおいしー」


 ヒアリがモフモフとみかんの缶詰を食べている。かわいい。


「可愛いとか言っている場合ではありません。あの戦闘機の破蓋を倒す方法を考えなければならないのです」


 ナナエは鼻息を荒くしている。

 ここでヒアリがはーいと手を上げて、


「やっぱりここからこっそり抜け出していくのがいいんじゃないかなー。あの戦闘機さんすごい動き出し空も飛んでいるから追いつけそうにないよー」


 その提案にナナエは首を振って否定する。ヒアリが寝ている間に俺らで地図を見ながら出した結論だ。

 それをヒアリに説明し始める。


「あの破蓋は動きも早く、上空から私達の姿を見つけることが出来ます。ただ単に逃げることは不可能でしょう。しかし、夜になれば破蓋は私達を見つけにくくなるはずであり、こちらも動きやすくなります。なので夜になるのを待っていますが、今の所日が暮れる気配がありません」

「あっ確かに外の明るさが変わらないねー」


 ヒアリは今度は桃缶を平らげながら言う。ナナエも頷いて、


「時計が使えないのでどのくらい経ったかは体感で図るしかありませんが、すでに半日は軽く超えているはずです。にもかかわらず、夕方も夜がこないということはこの世界ではすでに昼と夜という存在自体がなくなっていると考えていいでしょう」

「ふえー、夜に温かいお布団で熟睡するのが好きなのにー」


 ヒアリが残念そうな顔をしている。俺もナナエの話に頷く。大体空は夜景みたいに満天の星で夜にしか見えないのにそのへんの明るさは昼並みだ。もはや昼とか夜とかの概念そのものが消えてしまったみたいで理解が追いつかないね。


「夜の闇を利用できればよかったんですが……」

(これじゃ無理だな)


 俺とナナエはお手上げポーズになってしまう。夜の間にマンションからマンションをこっそりと抜けて、このマンションエリアから脱出。離れたところでまた自動車を探して一気に目的地に向かう。この計画をやるためには夜がうってつけだった。


「でもでも、お昼でもできるんじゃないかな? このまんしょんさんもたくさんあるし、そこを通り抜けていけば……」

「これを見てください」


 すぐにナナエがヒアリに地図を差し出す。このマンション密集エリアを抜けると結構大きな川がある。橋は南北に2つだけ。さらに北にいくともう一つ橋があるが、その周囲は開発中の地区だったので空き地と工事現場になってる。そんなところを移動したら即戦闘機破蓋が爆弾を落としてくるだろう。もちろんそれは見通しのいい他の橋でも同じ。破蓋も俺らがそこを通ってくることは予想しているだろうから、橋を特に重点的に見張っている可能性が高い。


 そんな話をナナエがヒアリにすると、


「ふーむこれじゃここからこっそり抜け出すのは無理かなぁ」


 そう俺らと同じお手上げポーズになってしまった――が、すぐにコーンの詰まった缶詰を食べているので落ち込んでいるような感じはなさそうだだが。


 ここでナナエがぐっと拳を握り、


「もはやここで倒すほかないでしょう! そもそもあんな破蓋を放置すればいずれ私達の世界に侵入する可能性も見逃せませんし、ここは確実に破却するんです!」


 そう鼻息を荒くして宣言するが、


(いやどうやってだよ……)

「うーん、そうですねぇ…」


 俺がそう突っ込むと。ナナエも困り顔になる。


 その時だった。ゴオオオオオオオオという音はいつもの戦闘機破蓋が近くを通過した。これはいつもどおりだったんだが、次にブオオオオオオオオという音が通り過ぎていったのだ。


(今の音はなんだ? あの戦闘機野郎とは違う感じのするものだったぞ)

「ちょっと見に行きましょう」

「あっ、待ってー」


 ナナエが外に向かうとヒアリも慌てて後ろからついてくる。ヒアリについてこないほうがいいと言いたくなったが、これ以上ないがしろにすると変に気にしそうだから今回は好きにさせておくことにする。マンション内でまだこっちの居場所がバレてないから外に出るのに比べると安全だろうし。


 なのでこっそりとマンションを登って5階の廊下から戦闘機破蓋の様子を見る。


「あそこにいますね」

「あっちにいるよ!」


 ナナエは向かって左手の方に戦闘機破蓋の存在を確認したが、ヒアリは向かって右手の方を指差している。


「えっ」

「あれ?」


 お互い今度は逆の方向を見る。するとやっぱり空を飛んでいる破蓋の姿が目に止まった。


 ……ちょっと待て。


 俺は嫌な予感を覚えながら、視界に神経を集中する。右手と左手側から2つの破蓋が飛んできてやがて交差していく。


 つまり。


(2機いるじゃねーか!)

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