第191話 戦闘機破蓋6
「っ!」
ナナエは慌てて物陰に身を隠した。ちょうど少し離れたところを戦闘機破蓋が爆弾を落としながら飛んでいる。しかも1発2発じゃない。まるで絨毯爆撃のように数十発落として行った。連続する大爆発にマンションが激しく揺さぶられ続けてしまい地震みたいな状態になってしまう。
(しつけーやつだなぁ……)
俺は窓の外で飛び回っている戦闘機破蓋を見て愚痴ってしまう。いい加減諦めてどっかに行ってくれりゃいいのに。てか、
(にしてもあの破蓋、いつも爆弾落としてるが補給とかしなくていいのかよ。おまけに爆撃機みたいにじゅうたん爆撃していくしなんだありゃ)
「あの爆弾も破蓋の一部なんでしょう。切り離して使ってもすぐに復活しているんですよ」
(破蓋の特性を利用して元になっている兵器のスペック――性能を超えてるじゃないか……ん? じゃあ燃料は?)
「当然復活するでしょう」
(それじゃ永久に飛び回るってことかよ)
ナナエの説明に俺はげんなりとしてしまう。ビン破蓋と同じチートじゃないか。映画とかでゲリラが戦闘機から逃げ回っていたりして弾と燃料が尽きるまで隠れてたりするが、これじゃ永久にこのエリアから逃げられん。
ナナエの言う通りどうやらあの戦闘機破蓋を倒す以外、俺らが目的地にたどり着くのは困難臭いな。めんどくせえ。
「馬鹿なこと言ってないで戻りますよ」
ナナエはある程度集まった缶詰を袋に詰め込むと、部屋の外に出る。
ちょうど廊下に出たあたりだった。また戦闘機破蓋の飛行音が聞こえてきた――
――――――――――――――!?
突然俺の意識が消し飛ぶような感覚に襲われる。なんだ? 声? 呼びかけ? でもいつもの従えとか抗えとも違う。しかもすぐには消えず、少しでも気を抜くとどこかに俺の魂が持ち去られそうになる感覚だ。
(悪い! ちょっと代わってくれ!)
「いきなりどうしたんですか――」
(頼む!)
「は、はい!」
焦って声を荒げてしまい、ナナエも驚いて身体の主導権を俺に渡した。
ほどなくして轟音とともに戦闘機破蓋がそばを通過していく。その間俺は肩で息をしながら、なんとか精神を安定させた。大丈夫……大丈夫……
やがて戦闘機破蓋の気配が消え、俺の異常な症状も収まった。俺は一回深呼吸した後、
「悪いな、怒鳴っちまった」
(いえ……何があったんです? ただならぬことがあったのはおじさんの声を聞けばわかりますが……)
「言葉にしづらい感じなんだが……」
俺はさっきの瞬間を冷静に思い返してみる。何かの呼びかけがあったのは間違いない。しかし、その内容ははっきりと聞き取れなかった。その声が聞こえた途端に俺の魂みたいなものが一気にナナエから引き離されてどこかに飛んでいってしまいそうになった。
ただ――唯一そのときに感じたものはこれだ。
「帰ってこいって言われた気がする。そう聞いたわけじゃないんだが、何かそういう感覚が……」
そんなことをナナエに説明すると、
「まるで破蓋がおじさんを連れて行こうとしたように感じますね……破蓋でありながら人間とともに行きている状態が許せないとかそういうことでしょうか?」
どうにもわからないとナナエは首をかしげる。
帰ってこい。これじゃまるで俺が破蓋の仲間みたいじゃないか――って俺は人間破蓋だから仲間なのは間違いないか。しかし、天蓋の下で働くとかまっぴらごめんだしお断りは継続だ。
ほどなくして戦闘機破蓋の音も聞こえなくなったので、ナナエに身体を返した。やれやれなんか新しい問題増えすぎだろ。
俺らが1階の集合ポスト室に戻るとヒアリは寝息を立ててぐっすり眠っていた。やっぱり相当疲れていたんだろう。ここの世界に来てからずっとノンストップで戦いと移動だったし無理もない。カーテン破蓋もヒアリの掛け布団になったままおとなしくしている。
にしても。俺はヒアリの寝顔をちらりと見る。かわいい。かわいすぎる。なんでこんなにかわいいのだろう。こう思わず顔が緩んでフヒッとか変な笑いが出てしまいそうになるほどかわいい。
(このおじさんをどうにかして成敗する方法を探すのを優先したくなってきました)
ナナエが心底不愉快そうな声で文句を言ってくるが、無視無視。
とかそんな事を言っていたら、また戦闘機破蓋がすぐ近くを通ったようで爆音がマンションを揺るがす。
(わーうるせー!)
(大きな声を出さないでください! ヒアリさんが起きてしまうでしょう!)
耳をつんざく音に俺は悲鳴を上げてしまう。
(つーかなんかまたあの破蓋の高度が下がってきてないか? さっきからこのあたりを飛び回ってるし、ある程度俺らの場所の見当がついているのかもしれないぞ)
(同感です。なので、弾薬に不安がありますが、一旦場所を移動して破蓋を引き寄せて撹乱しましょう)
ナナエはそう言うと大口径対物狙撃銃を背負ってマンションの廊下を走り出した。
そして、数ブロック離れたマンションに言っては戦闘機破蓋に発砲するという、牽制を続ける。
そんなことを何回か続けた末に戦闘機破蓋の行動範囲は広くなり、このマンション群のエリア全部を細かく飛び続けるようになった。
「これでしばらくはもたせられそうですね」
(その間にアイツを倒す方法を考えないとなぁ)
俺らはヒアリのところへ戻った。
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