第189話 戦闘機破蓋4
俺はふと近くに崩壊を免れて並んでいる大量の集合ポストを見ながら、
(おー、懐かしいな。ここもたびたび来てたわ)
「一体何をしに来ていたんですか。ちらしくばりという仕事だと言っていましたが……」
(チラシっていう紙に書かれた広告をそこのポスト――郵便受けにいれるんだよ。1枚入れると2円もらえるからこういう200ぐらいあるところに一気に入れていくとかなり稼げる)
「……それはいいんですが、そこの上のほうにチラシ投函禁止と書かれているんですが」
集合ポストの上の方に堂々と「チラシの無断配布禁止」と書かれた看板が置かれている。
(気にするな)
「気にしますよ!」
(そんなこと気にしてたらチラシ配りの仕事は成立しないからな。ああいうひとまとめの警告は無視して、郵便箱の一つに禁止とか書いてあるやつは入れない。あとはクレーム――抗議とかしてくる住人の部屋は予め情報共有されているからそこにも入れなければなんとかなるんだよ)
「しかし、この建物に住んでいる人が見かければ注意してくるでしょう。管理をしている人などもいると思いますが」
(だからそういう人に合わないように注意書きがあるところは夜中の2時とか3時に来てこっそり投函していくんだ。ないところは怒られることもないから別の時間にやる)
「泥棒ですか!」
(何も撮ったりはしねーよ。むしろ入れる側だ)
「なんともいい難い仕事をしていたんですね……おじさんが底辺という言葉で表すのがよくわかりました」
ナナエがため息をついてやれやれと。うっせ、俺みたいなのができる仕事なんてそんなのしかなかったんだよ。でも、この大規模マンションが密集しているエリアは稼げるから時給は2500円ぐらいになってそのへんのバイトよりは割は良かったけどな。
そんな話をしている間に戦闘機破蓋が飛ぶ音が聞こえなくなりナナエは立ち上がる。
「行きましょう」
「あっ待ってー」
慌ててヒアリも起き上がってナナエを後を追おうとする。しかし、まだ疲れがあるようなのか足取りが重い。
(おい、ストップ――待った待った)
俺がナナエに呼びかける。
「なんですか。時間がないんですよ」
(いきなり動いてあの戦闘機野郎と鉢合わせなんてやばいだろ。もうちょっとここで様子見したほうがいい。あと俺とナナエでちょっと外を覗くからヒアリはここで待っとけよ)
「え、でも……」
俺がそう言うとヒアリはちょっと困惑気味になるが、
(ナナエならいくら直撃してもノーダメ――平気だし。俺が痛いのを我慢するだけだから気にすんな)
そう強引に押し切って、ナナエとともにマンションの入口まで移動する。
物陰から周囲を眺めるが、戦闘機破蓋の姿はない。ただうっすらとゴォォォォという音が聞こえるので恐らく近くをまだ飛んでいるようだ。
で、本題に入る。
(ヒアリがちょっと疲れ気味だ。ここでしばらく――1日ぐらい休んだほうがいい)
(わざわざヒアリさんから離れようとしていたので何かと思えば……)
(ヒアリに聞かれると気にし始めるからしかたねーだろ)
(確かに休息が必要なのは理解しますが、一刻も早く戻らなければ学校のみんなが危険なんです)
(それもわかっちゃいるが、思ったよりもヒアリが辛そうだ。冷静に考えてみりゃお前は不死身だからいくら戦っても疲れないだろ? 精神的な疲労は俺とちょくちょく代わっているから半減以下。ここに来てからてんてこ舞いだから普通なら疲れて当たり前だ)
(……同意はしますが)
ナナエも迷っている感じだ。
(気持ちも理屈もわかるが、焦ってやると失敗して余計に失敗する事が多いからな。ここは回り道して最短距離を目指したほうが良い。どっちにしろあの戦闘機野郎をどうにかしないと目的地までたどり着くのも難しいし、ここで倒すための作戦を練ろうぜ)
(……仕方ありません)
話を終えたあとで、ヒアリのところに戻り、戦闘機破蓋がまだいるので、作戦を練るついでにここで暫く休むと伝えるが、
「できるだけ早くミミミちゃんたちのところに戻りたいかも……」
珍しくヒアリにまで反対されてしまった。だがナナエは毅然と、
「どちらにしろあの破蓋をいっしょに私達の世界に連れて行くわけにはいきません。ここで確実に破却しておきたいんです。大丈夫です。さっさと片付けて学校に帰りましょう」
(倒すまでもなく俺らがここでじっとしていたらそのうちどっかに行っちまうからもしれないしな)
「わっわかったよ!」
ヒアリも鼻息を荒くして同意した。
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