第188話 戦闘機破蓋3

「ヒアリさん下がってください!」


 ナナエが叫んだのと同時に目の前のマンションに戦闘機破蓋が投下した爆弾が直撃する。激しい振動と爆風がナナエたちに襲いかかってきたが、即座に奥に避難したので事なきを得る――と思ったが、


「つっ……」

「ナナちゃん大丈夫!?」


 ナナエがくもんの表情を浮かべヒアリが心配そうに駆け寄ってくる。見ると、右手のひらから血が流れ出ている。いつ食らったんだ?


(ちょっと俺と代わっとけ。30秒もあれば戻せるだろ)

「……今は大事を取ってお願いします」


 そういって一時的に身体代わったもの、


「いってえ!」


 予想外の激痛に俺は悲鳴を上げてしまう。なんじゃこりゃ。


(ですから私の声と身体で情けない声を出さないでくださいといつも言ってるでしょう!)

「いったいいったいいったいいったい」


 ナナエの抗議を無視して俺は痛みを取るように手のひらを振りまくる。意味がないのはわかってるがこうしないと気がすまない。


 やっと痛みが引いてきたので、


「つーかこの傷なんだよ、どこで受けたんだ?」

(恐らくさっきの破蓋の攻撃です)

「さっきのは爆発が近かったが、俺らに当たったわけじゃないぞ?」

(爆風で建物の破片が飛んできたんでしょう。それが私の手のひらに当たって貫通したんです。そろそろ返してください)


 ナナエに言われて俺は身体の主導権を返す。破片が手のひらを貫通ってマジかよ。言われてみりゃあんな大爆発なんだからいろんなものが飛んできてもおかしくない。先生が仕掛けていた爆弾にも釘やらなんやらが仕込まれていたしあれと似たような感じか。


「ヒアリさんも注意してください。それなりに離れていたところに攻撃があったとしても大怪我を負います。爆風だけでも下手をすれば身体の一部がちぎれ飛ぶかもしれません」

「う、うん気をつける」


 ナナエの説明にヒアリも緊張感を持って答えている。

 次の瞬間、轟音がマンションを揺るがした。爆弾ではなく、今度はすぐ真上を飛んだ衝撃だけだった。


(すげえ低空を飛んでやがるな……)


 音だけでも俺の精神がグラグラ揺さぶられる。あれだけでもかなりの威力だ。


「少々私達は甘く見られているようですね……!」


 ナナエは大口径対物狙撃銃を握りしめると、いきなりマンションの廊下から道路に飛び出した。ちょうど戦闘機破蓋が低空でこっちにむかっているタイミングでだ。


「くっ!」


 そして、飛んできた戦闘機破蓋めがけてナナエは発砲し始める。激しい発砲音が俺の頭をシェイクさせながら、何度も何度もしつこいほど上空の破蓋を攻撃する。

 弾はかなり少ない。ナナエの戦闘服に入っていた分だけだ。こんなに乱射して大丈夫かよ。一方的にやられていたからってヤケを起こしてないだろうな?


 戦闘機破蓋が俺たちの上空を通り過ぎていく。どういうわけだか攻撃をしてこなかった。それを確認したナナエは発砲をやめてマンションの中に戻った。


(おいおい、無駄撃ちして大丈夫かよ。弾切れしたら戦う手段がなくなるぞ)

「無駄に攻撃なんてするわけがないでしょう。見てください」


 また轟音を鳴らして近くを飛んでいく戦闘機破蓋をナナエが指さした。特にダメージとかを受けている感じはないが……さっきまでとは違いずいぶん高く飛ぶようになってる。


「こちらが攻撃してこないかあるいは攻撃できないとみなして高度を下げて飛んでいたんでしょう。なのでこちらに反撃の能力があることを示せば、高度を上げるはずです。そうすれば、こちらを見つけにくくなり移動も容易になります」


 そう冷静を装っているがどこか自慢げに説明するナナエ。自分の読みが当たって嬉しいんだろう。実際、この危機でしっかり状況を見極めて対応する能力はさすがとしか言いようがない。


「ナナちゃんすっごーい!」


 ヒアリが褒め言葉とともにナナエに抱きついてきたので、


「今はそんな事やっている場合ではありませんよ! こちらの弾は多くありません。今のうちにあの破蓋の追跡を巻かなくては……」


 そうナナエはヒアリの顔を押しのけながら、周囲の状況を確認する。


(このエリア――地域を出るぐらいまでの道案内ぐらいならできるぞ。ここは何回も来たことがあるから大体の場所はすぐに分かる。建物の中まではわからないけどな)

「では、お願いします」


 俺は記憶を頼りにマンションの中を走りつつ、戦闘機破蓋のスキを見て道路を渡って、また隣のマンションに移動する。ここは基本的に碁盤目状に道路が敷かれてマンションが1件ずつある。都市経営シミュレーションゲームのシムシティで効率性や渋滞対策とか考えると結局碁盤目都市になってしまう状態だ。一軒家はないのでマンションの中を通っていけばエリアの外れまで、戦闘機破蓋に見つからずにたどり着けるわけだ。


 マンションからマンションを通っていく最中にもたまに戦闘機破蓋が近くを空爆していくのでそのたびに足を止める。


「離れるまで待機しましょう。ついでに休憩です。ヒアリさんも体を休めておいてください」

「ふぃー」


 ヒアリは廊下の床に尻をついてだらんとしてしまった。肉体的だけなく精神的にも結構疲れているようだ。こんな訳のわからん世界に放り込まれてそこから戦闘続きなんだから無理もない。

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